馬車、旅人の服、銀のロッド
「こんな風に手渡しで済ましてしまい、申し訳ありませんわ。本来なら式典を催し、街を挙げて皆さんの功績をたたえるべきですのに。」
と、ルイが言う。
「い、いえいえ。お、お気持ちだけで。」
そんな肩の凝りそうな事はやめてほしい。
「ははは。今のはルイの冗談ですよ。私も、堅苦しいのは御免です。」
と、町長が笑う。
「そう、冗談ですわ。半分は。」
残りの半分は本気という事か。
「次に、馬車を見ていただきましょう。」
町長はそう言って俺たちを外へ促した。
宿の外には1台の馬車が停まっている。
馬は一頭。一頭立ての馬車だ。大きさも相応に小さい。
クレイの商隊の馬車と同じくらいのサイズだ。
「あまり大きくないとがっかりされてなければいいのですが。」
「まさか。立派な馬車です。」
大きさはともかく、車体はきれいだ。
使われている木材は緻密で堅そうだし、要所要所には金具の補強がされている。細部のさりげない装飾が心憎い。
真っ白な帆布の幌が掛けられているので日差しも気にならない。
それに、車軸が板バネで支えられているらしい。サスペンション付きとは、なかなか凝っている。
「気付いていただけましたか。これは、ウチの街が誇る最新の機構です。まだ、何台も出来てません。」
「最新。ですか……。」
「良く分かりません。」
メグミとツムギが言う。
「この金属の部品が馬車の揺れを吸収してくれるんだ。これが無い馬車とは比べ物にならないほど、乗り心地が良いと思うぞ。」
俺が言う。まあ、俺は馬車自体乗ったことが無いのだが。
「カヒトさんの言う通りです。……けど、よくご存じでしたね。私の知る限り、他に類を見ないはずですが。」
と、町長。
「ええっと……。今見せていただいて、そうだろうなと思っただけでして……。」
「なるほど。さすが、慧眼ですね。」
「本当に頂いていいんですか?」
「はい。幌の前面をご覧ください。ここにもエンブレムと皆さんのパーティーネームを入れています。皆さんの為の馬車ですから。」
町長の言葉の通りの物が、馬車の正面にある。
「ありがとうございます。大切にします。」
「食料品などは既に積み込んであります。手品の時の差し入れも、入る分は積んでおきましょう。」
宿のスタッフがさっそくそれらを運んでくる。手際が良い。
「今更ですけど、他にもいただきたいものがあったんですが……。」
俺が言う。
「もちろん。何でもおっしゃってください。」
「こちらの街で育てられている農作物の種や苗をいただくことは出来るでしょうか?ほんのわずかな量で良いんですが。」
「種と苗ですか。もちろん構いません。丁度、春の植え付けに向けて準備しているタイミングですから。」
「助かります。」
「……普通でしたら、旅に出るのに必要なものではないはずですけど……『なんでもできる』皆さんに常識は通用しないのでしょうね。」
「あなた、私が一飛び、行ってきますわ。」
ルイがそう言って、比喩ではなく実際に飛んで行った。
「それと、これらは私とルイからの贈り物として受け取っていただきたいのですが。」
町長がそう言うと、後ろに控えていた人が3人、俺たちに箱を差し出してきた。
「メグミさんとツムギさんには旅人の服を、こちらは特別なものではありませんが、着心地の良さを保ちながら、非常に防御力が高くなっています。カヒトさんのお召の服ほどの品ではありませんので、お二人に。」
箱を開けて見せてくれる。美しい布地なのが分かる。
「早速着させてもらったらいいんじゃないか?」
俺は二人にそういう。
「うん!ツムギちゃん、そうしようか。」
「はい。」
「でしたら部屋をお使いください。お二人の荷物は馬車に積んでおきましょう。」
宿の支配人に言われ、二人は一度宿に戻った。
「カヒトさんにはこちらを。」
町長は小さめの箱を開けて見せてくれる。
中にあるのは細い棒だ。30センチ程度の長さの金属の棒。先端が少しふくらんでいて、特に装飾はない。
「銀のロッドです。高濃度のマナを蓄えた石が先端に埋め込まれておりまして、ルイの話では魔法の威力が1段階上がるとか。」
「ええ……。そんな大事なものを……。」
俺はロッドを受け取ってそう答える。
つるっとして持ちやすい。構えてみると、いかにも魔法使いっぽい。
「以前に、とあるお方から贈られまして、相当の価値があるそうなんですが……。ルイはこういうものは使わないと言うし、もちろん売ってしまうこともできず、倉庫の肥やしになっていたのです。カヒトさんにお譲りするのが一番でしょう。」
「ありがとうございます。」
俺は魔法使いだという事になっている。だから町長はこんな価値のあるものをくれたのだが……。
突っ返すわけにもいかないのでありがたく頂戴する。肥やしが向こうの倉庫からこっちに移っただけにならなければいいけど。
そこへメグミとツムギが戻ってきた。
お揃いの服で二人ともはしゃいでいる。
「カヒトッ。どうかな?」
「二人とも、良く似合ってる。」
「えへへ。そう?……カヒト。それ、何?」
と、メグミ。
「何か……すごい……。」
とツムギが言った。
二人が言っているのは俺の手にある銀のロッドだ。
「いま、町長から頂いたんだ。」
「い、良いんですか?こんな、すごそうなものを……。」
メグミが町長に言った。
「ええ、もちろん。」
「すごいです。でも、あんまり人前で出さない方が良いかも。」
ツムギが言う。
メグミもツムギも『すごい』を連発している。銀のロッドには人の語彙力を低下させる効果があると言われても信じそうだ。




