馬車、食材、エンブレム
……樽5つ分の金貨……。
「ええっと……。我々の仕事を評価していただいて大変うれしく思います……。ですが、私たちは旅から旅の冒険者。とてもそんな金額を管理することは出来ません。」
「やっぱり。あなた、私の言った通りでしょう。」
ルイが町長に言った。
「ああ、そうだな。……カヒトさん、お話はもっともです。ですので、別の形で報酬をお支払いしましょう。例えば、この街に皆さんの為の邸宅を建てるというのはいかがでしょう。日々の清掃などはこちらで行いますので、好きな時に使っていただける別荘という事で。」
「べ、別荘。ですか……。」
「他に欲しいものがあれば、おっしゃってください。出来る限りご用意いたします。」
町長が言う。
「いきなりこんな事を言われても、皆さんお困りですわね。しばらく考えていただいて結構ですから。」
ルイが助け舟を出す。実際、頭が真っ白で何も思いつかない。
朝食もとてもおいしかった。と思うが、驚きのあまり何を食べたのかさっぱり覚えていない。
俺たちは一度部屋に戻った。
「はぁ。びっくりしたな。」
「ねー。びっくり。」
と、メグミ。
「欲しい物か……。何かあるか?」
「少し前なら、ツムギちゃんの装備って答えただろうけどね。」
「そうだな。……別荘の話は、どうする?」
「別荘も何も、本宅も無いと思うけど。」
と、ツムギは冷静なツッコミ。
「そもそも、この街に何度も戻ってくるのかな。」
と、メグミが言う。
「食べ物はおいしいからな。出来る事なら、活動拠点にしたいくらいだけど。」
「そうだね。でも、この先どうなるかわかんないよね。」
「ああ、『ここに俺たちの家がある』っていうのが、ちょっと重いな。」
「うん。」
邸宅の話は断る事にした。
「スラ子は、何かあるか?」
俺は、スラ子に聞いた。
「はい、マスター。私は馬車が欲しいです。」
「馬車か……。なるほど。」
旅をするのだから、馬車というのは自然な発想だ。
「良いね。荷物が増えても運べる。」
「メグミ、それでも差し入れのお菓子を全部持ってくことは出来ないぞ。」
「わ、分かってるよ。もう……。カヒトのいじわる。」
「ごめんごめん。じゃあ、馬車と……この間言っていた砂糖、小麦粉なんかも貰うか。」
「それでも、5000万ゴールドには程遠いと思うよ。」
と、ツムギ。
「……うーん。でも、他に欲しい物もないしな。そう言うしかない。」
部屋のドアがノックされる。
「皆さま、失礼いたします。」
カウンター係がそう言って入ってきた。
「町長からの伝言です。話が纏まりましたら、冒険者ギルドへ来ていただきたいとの事です。」
「分かりました。では、今から行きます。」
「はい、行ってらっしゃいませ。」
冒険者ギルドはすぐ近くだ。行ってみると、ルイとギルドマスターのマリー。そしてザンギエフがいた。
「お前たち。何かすごい事をしたそうじゃないか。」
「やあ、ザンギエフ。うーん、まあな。」
「皆さん、来ていただきありがとうございます。町長には少し別件がありまして……。それで、報酬は決まりましたかしら。」
ルイが言う。
俺は先ほどの話を伝えた。
「馬車と食材ですか。お安い御用ですわ。邸宅は、本当によろしいのですか?」
「ええ。ありがたい話ですけど、お気持ちだけで。」
「かしこまりました。それで、他には?」
「とりあえず、他に欲しい物はありません。」
「まあ……。それだけでは、私が町長に怒られてしまいますわ。やっぱり、準備しておいてよかった。」
「だねー。」
と、マリーが相槌を打つ。
「今回の報酬の件。馬車をお渡しするくらいで済ませるわけにはいかないのです。こちらにも通すべき筋と言うものがございますので。ですが、現金での支払いはお互い望まない……。」
「大金持って旅なんて、盗賊に狙ってくれって言ってるようなものだよね。」
「ですので、私共、ブロートコーブ領のエンブレムを皆さんに授けたいと思うのです。」
「エンブレム……。ですか。どういうものなんですか?」
「物自体は、刺繍を施したワッペンですわ。ですが、それを見せれば領内でなら大幅に融通が利きます。」
「領内って、要するにこの街の事だね。お店で買い物するなら、9割引きだよ。」
と、マリー。
「9割引きですか……。メチャクチャですね。」
「まあ、その分は領主……つまり町長が払うという事です。また、よその街では割引と言う訳にはまいりませんけど、有権者に見せればある程度無理が利くはずです。……まあ、むしろ火種になることもあるかもしれませんが……。」
「なるほど。ブロートコーブ領が私たちの後ろ盾についてくれるという事ですか……。」
ルイは微笑んでうなずいた。
「それで、悪用を防ぐために、エンブレムには皆さんのパーティーネームを入れさせていただきますわ。」
「パーティーネーム?」
「パーティーネームっていうのは、まあ、そのままだよ。パーティーに名前を付ける事。」
と、メグミが言った。
「パーティーネームを名乗ろうと名乗るまいと自由だけどね。でも、有名なパーティーになれば必要になってくるんだ。名指しでクエスト依頼が来ることも珍しくないよ。」
と、マリー。




