町長の視察
知らん顔して逃げる。
人聞きは悪いが、そうしようかと話していると、
「あ、マスター。ブロートコーブの方から、人が近づいてきます。既にこちらは捕捉されているようです。」
スラ子が俺に言う。
「捕捉されてる?って……。」
スラ子の触手が空を指す。
俺たちがそちらを向くと、何かが空を飛んでやってきた。
「町長と、ルイさんですね。」
と、スラ子が言った。
町長の奥さんルイが、町長をおんぶして飛んでいる。
もちろん飛行機に乗っているわけでは無い。生身で飛んでいる。
スタっと俺たちの前に着地するルイ。町長もその腕から降りて、言った。
「えーと。皆さんごきげんよう。」
「あ、どうも。」
突然の事に、お互い何と言えばいいのか分からない。ふんわりとした挨拶をした。
「えーと……。私の記憶によると、皆さんは港町に橋を架ける職人を呼びに行ったはずでしたが。」
と、町長。
「昨日、山の方が騒がしいと報告があったので見に来たのです。」
ルイが言う。
騒がしかったのはスラ子が石を切るときの音だろう。確かに相当な爆音だった。
「来てみると、皆さんはまだここに居て……昨日までは無かったはずの立派な石造りの橋が架かっている。理解が追いつきませんわ。」
「ええっと、これはですね……。」
と、俺。やっぱり説明のしようが無い。
俺がまごまごしていると、町長が言った。
「皆さんがこの橋を架けられたわけですね。いやー素晴らしい!見事な橋だ。ちょっと、渡ってみても良いですか?」
「あ、はい。もちろん。」
町長はスタスタと橋に向かう。
それをルイが小走りで追いかけ、町長と手をつないで一緒に歩き出した。
仲が良い。と言う事も有るんだろうが、万が一橋が崩れた時に町長を助けられるようにだろう。
町長は、橋の中央で足元を確かめ、手すりの様子を調べる。そしてウンウンと大きくうなずいた。
戻ってきた町長が言う。
「皆さん!ありがとうございますっ!こちらの期待をはるかに上回る成果を出していただきました!街を代表してお礼を申し上げます。」
町長とルイは揃って俺たちに頭を下げる。
「いやっそんな……。恐縮です。」
「クエストはもちろん達成。大成功!ですからね。報酬の方は弾ませてもらいますよ!」
町長は「どうやって橋を架けたのか」という、要点を意図的にはぐらかした。
俺たちが説明できないことを察したのだろう。
ルイは何か言いたげだが、町長の手前黙っているようだ。
「皆さん、一度街へ戻っていただけますか。報酬の話はその時に。私とルイは一足先に戻りますので。」
町長はそう言うと、来た時と同じようにルイにおんぶされて飛んで行った。
「空を飛ぶのも魔法なのかな?」
と、メグミ。
「そうなんだろうな。便利なものだ。」
「飛べるなら、ルイさんが職人を呼んでくれば良かったのでは……。」
ツムギが言った。
「町長の奥さんなんだし、忙しいんじゃないかな。」
「さてと、どうしようか。」
町長はこのまま 追及してこないかもしれない。しかし、他の人はそうではないだろう。やっぱり逃げちゃおうか。
「マスター。多分逃げることは出来ません。今も、ルイさんに見られているのを感じます。」
「そうなのか。……観念して戻るしかないな。」
「カヒト、筋肉痛は?」
「だいぶ良くなってきた。でも、ちょっとゆっくり行こう。」
街に戻るころには日が暮れていた。一歩ごとに背中や腕が引きつるのだ。情けない。
『木漏れ日亭』に着くと、入り口にはいつも顔を合わせているカウンター係が待っている。
「皆さん、おかえりなさいませ。食事の支度が出来ています。お部屋の方へどうぞ。」
俺たちはその言葉に従い、宿泊していた部屋へ入る。
綺麗に掃除され、ベッドメイクもばっちりだ。
差し入れのお菓子は、少しは減っているのだろうか。それでも部屋の片隅に山が出来ている。
夕食はすぐに運ばれてきた。
これまでも贅沢な食事だったが、今日はすごい。大きな鳥の丸焼きがテーブルの中心に置かれ、食べきれない料理が並んでいる。
「すごーい!でも、いいんですか?こんな豪勢な食事をいただいてしまって。」
メグミがカウンター係に言った。
「もちろんですとも。皆さんには最高のおもてなしをせよと、町長と支配人から言われております。」
「わーい。おいしそう!」
「ありがとうございます。いただきます。」
と、俺も言う。
「ごゆっくり、お召し上がりください。」
カウンター係はそう言って部屋を出る。
「心配事は有るが……とりあえず、食べて寝てしまおう。」
「心配しなくていいよ。別に悪い事したわけじゃないんだから。」
と、メグミが言ってくれる。
「そうです。胸を張りましょう。」
ツムギもそう言って小さな胸を張った。




