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出発と虫歯

 準備はすぐに済んだ。必要な事はスラ子がやってくれている。いつもありがたい。

 街の中心の大通りを南に向かえば橋があるらしい。そのまま南下し、道沿いに歩けば港町だそうだ。


 街を歩いていると、たまに声を掛けられた。演芸大会の手品が良かったと握手を求められたりする。主にメグミが。


「メグミはそれ、何を持ってきたんだ?」

 メグミは元から持っていたバックパックの他に、大きめの手提げ袋を持っている。

「……ええと、その……お菓子……。」

「……ああ、クリームとかフルーツがのってるお菓子だね。日持ちしないから。」

 ツムギが横から手提げをのぞき込んで言った。

「そんなの崩れちゃいそうだけどな。」

「……スラ子ちゃんが押さえててくれるから。」

「そうか。じゃあ、俺も後でもらおうかな。」

「うん。みんなで食べよう。」


 街の中心部を抜けると、街道の左右にはやはり畑が広がっている。

 等間隔に街路樹が植えてあり、所々にベンチが置かれている。のんびりした農村の風景だ。


 数時間かけて歩き、盆地を囲む山に入る。

 枯れ木と枯草の茂る坂道を上っていくと、低く(とどろ)くような水音が聞こえてくる。

 峡谷は思ったより近くにあるようだ。

 とはいえ、出発したのが昼を過ぎてからだったので日が暮れてきた。

 道端にスラ子の部屋を作ってもらい、そこでキャンプすることにした。


 スライム団子のスープで夕食を取った後、

「ツムギ、装備は重くないか?」

 と、聞いてみた。

 ツムギは昨日買った装備をすべて身に着けて歩いてきた。ウォーハンマーはバックパックになっているスラ子がしっかり固定しているようだ。

「はい。流石に今までに比べると、ちょっと大変かな。でも、慣れれば大丈夫。」

「無理そうなら荷物は俺が持つから、言ってくれ。」

「うん。ありがとうございます。」


「それで、メグミはまだ食べるのか。」

「だって、これは食べちゃわないと。デザートだよ、デザート。」

 メグミはクリームとフルーツがのったお菓子をナイフで切り分けている。ケーキか、タルトみたいなものだ。

 本当に良くこれを持ってくる気になったな。

「でも、うまそうだな。俺も一切れもらおう。」

「うん。ツムギちゃんもいっぱい食べてね。」

「メグミさん、ありがとう。」

「スラ子も食べよう。メグミが切ってくれたし。」

「はい。いただきます。」


 うん、これはうまい。濃厚な甘さだ。土台のタルトもサクサクと香ばしい。

「これが『甘い』という事ですか。」

 と、スラ子が言った。

「ああ、ブロートコーブに来るまでは、甘いものは無かったからな。」

「マスターは甘さがお好きですか?」

「甘さは良いな。でも、普段の食事が全部甘かったらつらいけど。」

「私は、3食お菓子でもいいなー。」

 と、メグミが言う。

「ええっ!そ、そんなに?」

 驚くツムギ。俺もメグミの今の発言にはちょっと引くかも。


「甘いお菓子は、私が作ることはできないでしょうか。」

 スラ子が言う。

「とりあえず、砂糖が必要だな。後は小麦粉とか……。そういうのはそれなりに保存が利くから、買っておいても良いかもな。」

「でも、重いでしょ。そんなの持って旅をする人、いないと思うな。」

 と、ツムギが言う。

 スラ子がアシストしてくれるとはいえ、すべての荷物を背負って行かなければならないので、(おの)ずと重量制限はある。

 お菓子の為に砂糖を背負いたいかと言うと……。


「甘いものは、街についた時のご褒美(ほうび)的なものだと考えるべきだろうな。」

「うん。」

 ツムギも同意のようだ。

 メグミは不満顔だが……。


「もう寝よう。明日は渓谷を渡ることになる。」



 —17日目—


 翌朝。

 俺が電熱器に乗ったフライパンでスライム団子を焼いていると、メグミがどんよりとした顔で起きてきた。

「おはよう、メグミ。どうした?浮かない顔して。」

「カヒト、おはよ……。うん……。」

 メグミはほっぺたを押さえ、(つら)そうに眉を寄せている。

「マスター。メグミさんは、歯が痛いそうです。」

 と、スラ子が言った。

「メグミ。そうなのか?」

「う、うん……。」

「ずっと甘い物食べてるから。」

 ツムギが言う。

「うう……。反省してます。」

「朝食は食べれそうにないのか?」

「うん……。水もすごく()みるの。」

「そうか。……この世界では、歯痛の時はどうしてるんだ?」

「抜くね。痛い歯を抜いちゃえばもう大丈夫。」

 ツムギが答える。

「うう……。抜くのはヤダよう……。私が小さい頃、近所にすごく怖いおじさんが居たんだけど、その人、歯を抜かれて泣いてた事があったし……。」

「そうは言ってもほっとく訳にはいかないな……。俺の元の世界では、虫歯になったらその部分を削るんだ。」

「それも痛そうだね。」

 と、ツムギ。

「まあな。普通、麻酔をかけてやるんだけど……。」

 俺はふと、思いついたことがあった。


「メグミ、そうしてみるか。虫歯の部分を削って、そこに詰め物をする治療だ。」

「ぬ、抜かなくていいの……?」

「ああ。永久歯だったら、抜いたらもう生えてこない。削ったほうが良いと思う。」

「……分かった。お願いできる?」

「任せておけ。」

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