鍛冶屋見学
スラ子の希望で、街の鍛冶屋に見学に行く。
「カヒト、出かけるの?私も行こうかな。」
「私も。」
メグミとツムギがそう言うが、ぞろぞろ連れ立って行くような用事でもない。俺とスラ子だけで行くことにした。
鍛冶屋の場所は既にスラ子が調べてある。
目抜き通りを離れ、枝道に入ってしばらく行くと、トンカントンカンと騒々しい通りに出た。
木工所らしい建物が集まっているようだ。
家具を作る工房もあれば、建物の柱らしきものを削っている所もある。
その一角に煤で汚れた、石造りのこじんまりとした工房があった。それが鍛冶屋らしい。
思ったより小さい。
バクバクの街で見た一番小さい鍛冶工房もこれよりは大きかった。とりあえず、訪ねてみる事にしよう。
「ごめんください!」
工房の中は薄暗かった。小さな明り取りの窓からわずかに差し込む光があるだけだ。
中の様子はあまり分からないが、誰かが出てくる気配がした。
「ん?なんだ、あんたは。」
出てきたのは、ずんぐりとした背の低い男。ドワーフだ。やっぱり鍛冶仕事はドワーフなんだろう。
「おはようございます。不躾ですいませんが、ちょっと、お仕事を見学させていただけないでしょうか。」
「見学だと?ずいぶんいきなりだが。……ん?あんた、見覚えがあるな。そうだ、昨日の演芸大会で、手品だったか、やってた人じゃないか。」
「あ、ご覧になってましたか。お恥ずかしい……。」
「恥ずかしいもんか!あれは楽しかった。良いもんを見せてもらったよ!」
「そう言ってもらえると嬉しいです。」
「で、見学だったか。鍛冶屋の仕事が手品の役に立つのかね。」
「いや、私の本業は冒険者でして……。」
「ほう……。まあ、ウチでよければ見ていくと良い。」
「ありがとうございます。お邪魔ではなかったですか?」
「元々忙しい方じゃないからな。農具や工具の修理が大半で、それもとっくに終わっちまったし。」
「そうなんですか。……武器防具なんかを作られることは……。」
「無いな。たまに修理依頼は来るがね。作ろうと思えばできるが、バクバクの街の仕事を取っちまうわけにはいかんからな。」
バクバクの街は、鉄製品をこの街で売れなかったら食料を調達できなくなる。それを避けるために、この街では修理程度にとどめているのだろう。
「さて、見学と言っても、何を見せてやりゃ良いかね。」
「一通り作業工程を見せていただけたらと思うんですが……。できれば、この鉄を使ってナイフを一振り、作っていただけませんか?」
俺はそう言って鉄の塊をドワーフに渡した。
その鉄の塊と言うのはスラ子だ。スラ子の鉄スライムの部分が延べ棒になっている。
自分で体験したいという、スラ子たっての願いだ。
「ずいぶん用意が良いな。まあ、構わん。だが、半日近くかかるぞ?」
「お願いします。」
ドワーフは炉に火を入れ、ふいごを吹いて火力を上げる。そして鉄を熱し、叩いたり延ばして折りたたんだりと、休みなく作業をして見せてくれた。
その合間に、俺に対して作業の説明をしてくれる。しかし、あまり理解できなかった。
スラ子も聞いているから任せれば良いのだが、俺も何か助けになればと思い聞いていた。が、良く分からない。
何度か、スラ子がドワーフに聞きたいことを俺が代弁することがあった。まあ、スラ子が俺の声で質問したという事だが。
何を聴いたのか、俺にも日本語で教えてくれているのだが、その話も分からない。
二人で熱心に議論を交わす場面もあり、スラ子の嬉しそうな様子が伝わってくる。
それは良いのだが、ドワーフは、俺が鍛冶屋の仕事に造詣が深いと思ったようだ。一目置かれてしまった。
造詣が深いのはスラ子であり俺ではない。だましているようで心苦しい。
それはともかく叩かれ、熱せられているスラ子が心配で、俺は気が気ではなかった。
スラ子は別に痛くも熱くも感じないので大丈夫と言ってくれるが、ずっとハラハラしていた。
正直分からない話ばかりで飽きていたが、スラ子に任せてその場を離れる気にはなれなかった。
途中昼休みを挟み、その後は刃先を研ぎ上げて、鍛冶仕事は終わりらしい。
「後は、柄の加工と鞘を作るわけだ。それは皮革加工と木工の領分だな。紹介してやろうか?」
「いえ、ここまでしていただいただけで充分です。ありがとうございます。」
「なに、こっちこそ、オレの仕事に興味をもってもらえて嬉しいよ。」
「それで、お礼の方は……。」
「いらんいらん。材料は持ち込みだし、どうせやる事も無かった。昼飯をおごってもらったしな。それでチャラだ。」
昼飯は近くの食堂でドワーフと一緒に食べた。ちょっと塩辛くて量が多かったが、これまた旨かった。それを俺がおごったのだ。
「ありがとうございます。今日はとても勉強になりました。」
「おう。何かあったら、また来るといい。」
鍛冶屋を後にし、俺は改めてドワーフが打ったナイフを見る。触った感じはスラ子が以前作ったナイフと違いは無い。
「スラ子。大丈夫だったか?」
「ご心配には及びません。叩かれてダメージを受けるという事はありませんので。」
「実際に鍛冶仕事をその身で体験してみて、どうだった?」
「はい、とても勉強になりました。」
「それなら良かったよ。」
「私は、『鉄は硬く、それが集まっていればいい』と考えていました。しかし、今ナイフになっている部分の私は、そんな単純なものではないのです。」
「ふーん。」
「鉄スライムの細胞の並び方が違うと言いますか、説明は難しいのですが……。」
「確か、炭素の含有量が大切なんじゃなかったかな。」
「はい。わずかに炭の成分が存在していまして、それが鉄スライム同士の結びつきを強くしているようなのです。こういった事は私には考え付きませんでした。」
「鍛冶屋とスラ子ではやり方が全然違うだろうからな……。炭素の他にも、別な種類の金属を混ぜたりもするらしいぞ。『合金』と呼ぶんだ。」
「『合金』ですか。」
「金属や鉱物を様々な割合で混ぜ合わせると、より硬くなったり、粘り強くなったり、色んな特性が生まれるらしい。」
「興味深いです。」
「俺はその辺りは全然知らないから、アドバイスできそうにないけどな。」
「はい。いろいろと試してみます。……やっぱり、私はまだまだです。金属の事を全く分かっていませんでした。」
「それは気にする必要ないだろう。今からやればいい。それに、スラ子は自分自身が金属なんだから、どんな組み合わせも簡単に試せる。すべての鍛冶屋がうらやむぞ。」
「はい!頑張ります!」
「鋼鉄」のスキルを獲得しました!




