ネタばらしとスラ子の相談
演芸大会で手品を披露した後、宿に戻り、遅い夕食を取る。
「私も良い経験になりました。あれだけの人の目があっても、私の迷彩は効果を発揮したようですから。」
スラ子が言った。森のダンジョンで獲得した『迷彩』のスキルは、今や更に磨きがかかっている。
調達してもらった絵の具やペンキは、十分な色の種類と量があり、スラ子はそのすべてを自由に使うことができるのだ。
スラ子にはそれを駆使して、手品の仕掛けになってもらっていた。
最初にツムギやメグミが小さなカバンから出てくる場面では、登場までは二人に迷彩を施してもらっていたのだ。
二人は背景に溶け込んだまま、堂々と舞台の上を歩いて中央まで来ていた。
目を凝らせば見つけられただろうが、客は、俺やウサギやカバンに注目している場面だ。普通は気付きようがない。
そしてほとんどの場面ではスラ子の基礎スキル『変形』のお世話になった。
俺がシルクハットから取り出したウサギ、俺やメグミが入った箱、サーベル、人体切断マジックで切断されたメグミの下半身、テーブル、絵の描かれた板。これらはすべてスラ子が変形したものだ。
スラ子で出来たモノなので、どんな形にもなれる。いつ出現し、消えるのも自在だ。
ウサギは俺がシルクハットに手を突っ込むまで本当にいなかった。
サーベルは、俺に接触した時点でその切っ先は消え、箱の反対側から出てくる。
メグミの下半身は単にその形と色になっていただけ。ちなみに本当の下半身は、胡坐をかいて箱の中に納まっていた。
テーブルがスカートになるなんてスラ子には朝飯前だし、絵の描かれた板に俺たちを通過させるのも何の問題もない。岩に偽装したスラ子の部屋に出入り口を開けた時のように、穴を開けただけだ。ただし、俺たちがギリギリ通れる穴だ。
よく考えれば手品でも何でもない。やっぱり『魔法』の方のマジックだったような気がするが……演し物として成功したのだ。気にしない事にする。
「スラ子は完璧だったな。俺は何だかオドオドしてたよ。」
「いえ。マスターはいつも通り素敵でした。ところで、メグミさんの下半身になったとき、マスターを蹴飛ばしてしまいました。申し訳ありません。」
「俺が言った事だ。気にするな。」
「それに、最後の絵ではマスターのお姿を描いてはみましたが……。やはりマスターの偉大さを十分に表現することが出来ず……。」
「偉大さって……。」
「やはり私はまだまだです。完璧には程遠いかと。」
相変わらずスラ子は自分に厳しい。
食事を終えると、もう何もする気が起きないので寝ることにした。
メグミとツムギのバニー姿をもう少し堪能したかったが……。俺はベッドに入ると、ウトウトする暇もなく眠りに落ちた。
—16日目—
翌日。
朝食を終えた後、スラ子の相談を受けた。
「マスター。昨日の装備の購入の時の話ですが……。」
「うん?」
「私が拗ねてしまい、マスターの防具は買わなかった訳ですが……。あの時言ったように、私はこの身をもってマスターをお守り致します。ですが、現状の私では不安要素があります。」
「そうか?どんな所が?」
「はい。銀の背熊を解体した時の事を覚えておられるかと思います。私が作ったナイフは柔らかすぎて曲がってしまいました。」
「そうだったな。」
「今の私ではあの時作ったナイフ以上の硬さにはできません。しかし、昨日購入されたツムギさんの装備はそれとは比べられないほどの硬さがあります。」
「うん。」
「私の、鉄スライムの部分でマスターの体を覆っても、実際の防具ほどの防御力は無いのです。」
「なるほど。それが不安だと。」
「ツムギさんの装備。あれは、バクバクの街の鍛冶屋が作ったのですよね。」
「だろうな。」
「正直に申し上げて私は、鍛冶師などと言う輩は鉄の形を変えるのに熱したり叩いたりと、面倒な作業を必要とする、取るに足らない存在だと思っていました。」
「……。」
「しかし、彼らが作った装備が、私の物より数段優れているのは事実。私は自分の不覚を大変恥ずかしく思います。」
「それはまあ、仕方ないだろう。鍛冶屋はずっと昔から改良に改良を重ねてきた。それに対してスラ子が鉄スライムと融合したのは数日前だ。」
「慰めていただき嬉しいです。ですが、本当に恥じているのは、いつの間にか傲慢になってしまっていた私自身の事です。今の私があるのはすべてマスターのおかげ。マスターと出会わなければ、私などは森にうごめく矮小な存在にすぎなかったというのに……。マスターの偉大さを自分の物と勘違いした恥ずかしい私。虎の威を借る狐とはこの事です。」
「卑下しすぎ。つまり、自分に足りないものを素直に認めるべきという事だろう。流石、スラ子は立派だ。」
「恐れ入ります……。つきましては、鍛冶師たちの素晴らしい技術を私も習得したいと考えているのですが。」
「なるほど。バクバクに戻るつもりは無いけど……この街にも鍛冶屋はあるんだろう。見学させてもらうか。」
「はい、マスター。」




