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スラ子一座のマジックショー その3

 メグミは大げさに驚き、気を失ったフリをする。

 メグミがガクっと首を傾けると、バランスが崩れ、メグミの上半身もつられて傾いた。

 腰に残っていた箱は真っ二つに割れ、上下に分かれている。今度は箱の板は外れず、メグミの腰に残ったままだ。

 俺は傾いたメグミの上半身を支えるため、腰の箱を両手で持つ。しかし、足元がふらつき、おっとっとと、左に3歩、移動した。


 メグミの上半身と下半身は、今や完全に離れた位置にある。

 本当に人体切断していれば辺りは血の海になっているし、下半身は崩れ落ちているはずだ。

 しかし実際には血は一滴も出ていないし、下半身は何の支えもなしに立っている。

 その異様な光景に、客席にはどよめきが走った。


 俺は両手にメグミの上半身(が入った箱)を持ち、困惑した表情をする。

 メグミはまだ気を失ったままだ。俺はメグミに声を掛ける(フリをする)。


 その後ろで、メグミの下半身がゆっくりと動き出す。抜き足差し足と言った感じで、ソロリソロリと舞台袖に向かって歩いていく。

 俺の呼びかけに答え、メグミの上半身はハッと目を覚ます。そしてすぐに自分の下半身が逃げようとしているのに気が付き、そちらを指さした。

 俺も下半身の方を見る。が、メグミの下半身はダッと駆け出し、舞台袖に入ってしまった。


 上半身のメグミは、その様子を見てシクシクと泣き出してしまった。今後の人生を上半身だけで過ごさなくてはならないなんて……!

 俺は何とか(なぐさ)めようとするが、メグミは泣き止まない。


 さめざめと泣き続けるメグミと、オロオロするばかりの俺。そんな俺の後ろの舞台袖から、ツムギが小さなテーブルと、メグミの下半身を持って登場。スタスタと歩いて来る。


 ツムギは、持ってきたテーブルを舞台の真ん中に置き、メグミの足が履いているハイヒールで俺の背中に蹴りを入れた。

 とがった(かかと)が俺の背中をぐりぐりする。


 先ほどの、ツムギが細長い箱で俺の背中をどついた時の再現のような風景。

 しかし今回は、ツムギがメグミの下半身を抱えているという異様さに、客席は変な笑いが起きる。


 俺がツムギの方を振り向くと、ツムギはメグミの上半身とテーブルを交互に指さす。「メグミの上半身をテーブルに置け」というジェスチャー。

 俺は素直にそれに従うと、ツムギはメグミの下半身を俺に渡してきた。

 そして元に戻すように俺に指示する。


 俺は渋々、というようにメグミの下半身を抱えたままテーブルの下にもぐり、天板の裏の適当な位置にメグミの下半身を押し付ける。

 しかし、上半身とはズレた位置だ。

 俺は客席に向かってOK?と親指を立てる。

 客席からは「もっと右ー!」と声が上がる。なかなかノリのいい観客だ。何だか聞き覚えのある声もするようだが。

 俺は自分から見て右を指さし、そちらへずらす。しかし逆だ。

「バカ!カヒト!客席から見て右だー!」

 あ、この声はザンギエフだ。あいつも見に来ていたのか。


 俺は声に従ってメグミの下半身の位置をずらしていく。

 一度は行き過ぎたりして観客をやきもきさせる。やりすぎるとダレるので注意が必要だ。

 この時、ツムギは次の準備のため目立たない様に舞台袖に下がっている。


 ようやく。といった感じでメグミの下半身の位置が上半身と一致した。

 俺はズリズリとテーブルの下から這い出てくる。


 ふうっと一息つき、手足をブルブル振って準備運動。

 その後、スタンスを大きく開き、意味ありげに手を動かし緊迫感を出す。しかしどうにも滑稽に見えるように。

 そして手の平をメグミに向け、念を送る。念じる力でメグミの上半身と下半身をくっつけるのだ。


 儀式が一通り終わり、俺はメグミの手を取る。そして、じっくりともったいぶってからその手を引いた。

 元通りになっていれば、メグミは机ごと引っ張られる。が、失敗。

 腕を引かれたメグミの上半身だけが、ズルっと机の上を移動した。


 俺はパッとメグミの前に身を乗り出す。失敗を覆い隠すように。

 そしてくるっとメグミの方を向き、慎重にメグミの上半身の位置を元に戻す。

 人差し指を立て、「もう一回やってみよう」というジェスチャー。

 そして先ほどと同じようなポーズでメグミに念を送る。が、今度はいかにもおざなりな感じ。パッパと済ませ、またメグミの手を取る。

 しかしすぐに手を離し、念のためというようにメグミの上半身が入った箱を少しだけ傾け持ち上げる。

 案の定、上半身と下半身はつながっていない。箱は持ち上がってしまい、隙間が空いている。

 俺はすぐに箱を下ろし、人差し指を立てて、泣きの一回を要求する。


 そして同じ儀式。三度目の正直だ。

 念を送った後、額の汗をぬぐう仕草をして一拍置く。


 満を持して、俺は三度メグミの手を取る。じっくりと間を取り、場の緊張が最高に高まった瞬間、俺はメグミの手を引いて、くるっと回転させた。


 見事につながったメグミの上半身と下半身は、ついでにメグミが入っていた箱とテーブルと共にくるくると回転する。

 そしてピタッと回転を止めると、箱やテーブルはレース編みのふんわりとしたフレアスカートになってメグミの腰に広がった。


 決めポーズをとる俺とメグミ。

 人体切断マジックの成功に湧く劇場。

 拍手は鳴りやまない。俺とメグミはそれに答えて手を振り続ける。


 そんな中、ツムギが舞台袖から登場。

 高さと幅が3メートル程はある板を押してきた。板には花畑の絵が描いてある。

 花畑の絵の板を舞台の中央に置くと、ツムギも前に出てきて俺とメグミと一緒にポーズをとる。

 再度湧く客席。


 その客席に手を振り、俺たちは後ろを振り向いてツムギが押してきた絵に向かって歩き出す。

 そのまま歩けば当然ぶつかってしまうはずだが、構わずにスタスタと絵に近づいていく俺たち。

 そして、俺たちはぶつからずに絵の中に入ってしまった。


 板には花畑だけでなく、そこに立つ俺たち3人の後ろ姿が追加されていた。

 どよめく客席。

 3人はどこへ行ってしまったのか。


 そして絵の描かれた板はひとりでに動き出した。

 床に接したまま、縦を軸にくるっと回転する。

 180度回転すると、裏の面が現れた。そこにはやはり花畑の絵と俺たち3人。

 しかしこちらの面では、俺たちは正面を向いてにこやかに手を振っている。

 そしてその頭上には『おわり』の文字(当然この世界の文字で)が書かれている。


 そして幕が下りた。

 会場は割れんばかりの拍手だ。拍手はいつまでもいつまでも鳴りやまなかった。

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