雨の日も
二人で出掛けるときは大抵天気は晴れだったが初めて予定日に雨予報がついた日、下野から電話があった。
「週末、どっちも雨みたいだね」中止だと思っているらしく声に元気がなかった。
「そうみたいね。私1人の時は雨でも行ってたけどどうする?」
「えっ?雨でも?」
「まぁ散策なんかは行けないけど、もともとのんびりするのが目的だし。
雨の日はその土地の美味しいパン屋さんでお昼を買って、コーヒー飲みながら読書したり雨音聞きながら車でゴロゴロしてるかな。」
「へぇーそれも良いなぁ。じゃあ今回も一緒に行ってもいいかな?」
「いいとも~!」
同年代だからわかるネタである。
了承したものの何分そう広くはない車内で二人きり、果たしてリラックス出来るのか?その日の自分の心臓が心配だった。
当日は予報通りやはり雨だったが、あまりひどい雨ではなかったので出掛ける事にした。
海の見える高台に車を止めハッチバックを開ける。
強すぎない潮の香りと雨の香りが心地よかった。
運転席と後部座席に別れて座る。
お互い持ち込んだ小説やマンガ、仕事の資料などを読み、のんびりと過ごした。
途中ハッチバックを屋根がわりにテーブルを出し、コーヒーを入れようとバーナーでお湯を沸かしていると下野がごそごそと何か取り出した。
「じゃーん、マグカップで簡単味噌汁!味ー噌ー玉ー。味噌に鰹節と細かく切ったとろろ昆布を混ぜたものでーす。」
某猫型ロボットのように取り出すとさっとマグカップに入れてお湯を注いでくれた。
良い香りの味噌汁を一口すすると出汁がふんだんに効いていてとても美味しかった。
「これは美味しいねぇ」
こぼれるように感想が口から出てしまった。
それを聞いて下野は嬉しそうにニコニコしていた。
荷台に腰掛け二人して海を見ながら味噌汁をすする。美味しくて二人もくもくと食べていると下野が呟いた。
「巽との二人の味噌汁の味って覚えてる?」
「覚えてるけどうちに白味噌はもう無いし、どんどん忘れていくんだろうなぁ。」はっきり思い出せるかもう怪しかった。
「例えばさ、好きな味噌汁の味がほぼ同じ俺と付き合ってもし別れたらさ、好きな味噌汁の味に嫌な思い出が付きまとっちゃうんだよな?」
下野は海の方を見たまま呟いていて、まるで独り言のようだった。
「…えっ?まぁそうだろうけど…それってどう言うこと?」
そう聞くと下野はテーブルにマグカップを置いてすくっと立ち上がった。
山野の方に向き直り意を決したように告げた。
「好きです。付き合ってください。
俺らの味噌汁に絶対悲しい思い出なんか付かせないから!」
山野もあわててマグカップを置いて立ち上がった。
「私も好きです。よろしくお願いします。何かプロポーズみたいだけどうれしいです。」
そう言うと二人で目を見合わせ声をあげて笑ってしまった。
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次回最終話です。
更新は明日の予定です。
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