趣味が合う人
新幹線は静岡を通り富士山を横目に進んで行く。今年は登れるのかネットで調べていると昼過ぎのメールの返信が来た。
「巽との二人の味噌汁か。
うちは白味噌買わないもんな。そっか、久しぶりに食べたか。
よし!それを聞いて断然燃えてきた!
見てろよー今晩は飛び切り旨い俺らの味噌汁と俺の特製唐揚げの特別定食だからな!」
「うわっ!!凄く楽しみ!
今ね、初めてヒロに会ったときの事を思い出してたんだよ。
いきなり味噌の麹は何?だったよね、驚いたわ」
「気になってたことだったんだからしょうがないだろぉ」
「そうだねぇ麹で味が変わるもんね。大切だよね。」そんな他愛もないメールが続く。
富士山を過ぎると新幹線は途端にトンネルが増える。
真っ黒になり今度は鏡のように社内を写す窓を見ながらOB会の時の続きを思い出していた。
「まだ休みの日は道の駅巡りしてるん?」
「してるよー最近はそのまま更にドライブして河川敷とか浜辺で旬の野菜の味噌汁を作ってるよ」
「1人で?」間髪入れず巽が痛いところを聞いてくる。
「1人で。最近の道の駅だと地元のお店のおにぎりとかも置いてるからお昼にそれを食べて夕方までぼーっとするのがストレス解消なの。」
こう言うといつも周りに変だ変だと言われるのに、今回は意外な反応が下野から帰ってきた。
「なにそれ!楽しそう!良いなぁ、俺も行きたいなぁ」
ここまでは社交辞令でたまにある反応だった。
「いつなら一緒に行っていい?」
手帳を取り出し、話を詰め出したのは下野が初めてだった。
実際に1度行けば満足するかと近場に出掛けてみたら面白かったらしく、どうしても山本が1人で行きたいとき以外は声を掛けると言うことになった。
巽を介して知り合ったからか始めから山本と下野はお互い気を使わず、自然体でいられた。
お互い好きに買い物をして、自然の中で好きに過ごす。
何かあれば声を掛けるけれども基本は個人で楽しむ、そんな適度な距離感が心地よかった。
河、海、湖、山と一通り山本のお気に入りの場所をめぐった頃には下野の人となりをかなり知ることが出来た。
明るくいつも楽しそうにちゃんと自分の機嫌を自分で取れるところ、山本の気持ちを尊重して適度な距離に居てくれるところ、基本的には全ての行動の根底に優しさがあるところ。
山本はいつからかそんな下野を人間として尊敬し、好きになっていた。
ただ、今の心地好さをなくすのが惜しくて下野には気持ちを伝えられずにいた。
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