序章
「全てがつまらないな」
僕は今年で中学二年生になるはずだったが、クラスに馴染めず不登校を決め込んでいた。
両親は早くに離婚し、一人っ子である僕は、母親に引き取られたが僕に関心がないらしく、
衣食住は提供してくれるが僕が不登校なのに何も関心が無いようだ。
会話も当然あまりない。
外に出る事もあまり好きではないので、毎日やる事と言えばゲームかインターネットぐらいだ。
「所謂引きこもりニートって奴かな」
そんな日々が暫く続いていた。
ある日、インターネットでこんな記事を見た。
曰く、正方形の紙に六芒星を書き、その中に「飽きた」と書き枕の下に置いて寝れば
異世界に転生できると言うものだった。
どうせ嘘だろうと思ったが、万が一に本当だったら、こんなつまらない世界から抜け出せるのかなと思った。
「簡単だし、ためしてみるかなぁ」
僕はそこら辺にあった付箋紙に件のものを書き、枕の下に置いてベッドに潜った。
「どうせならラノベみたいな異世界チート世界がいいな」
そんな軽い気持ちでやってしまったのが、後の後悔となるのであった。
・・・
「三郎様!三郎様!いつまで寝ておいでか!」
どこからか、けたたましい声が聞こえる。
「三郎って誰だよ」
そんなことを思いながら寝ていると
「三郎様、入りますぞ!」
とピシャっと障子を開けるような音がする。
そしてズガズガと歩く足音が近くなりガバッと布団がめくられる。
「三郎様おはようございまする」
和服を着た厳つい爺さんが僕を三郎等と呼んでいる。
腰を起こし周りを見渡すと何故か和室で寝ていた。
「えっ?」
っと素っ頓狂な声を上げると爺さんが
「熱でも出ましたかな?」
と怪訝な表情で僕の顔を見る。
「えっと、貴方はどなたでしょう?」
と聞いてみる。
「なんの冗談ですかな?傅役の顔も忘れるとは」
「すいません、本当にわからなくて」
とりあえず謝っておく。
すると驚いたような呆れたような顔をして
「三郎様が謝るなどどうなされた?」
続けて
「某は平手、平手政秀でござるがお忘れか?」
僕は「平手政秀さん?聞いたこともないな」と思いながらも
「えっと平手さん、ここは何処で僕は誰でしょう?」
「はぁ、ここは那古野城ですが」
「名古屋?僕は東京にいたはずなんですが」
「東京?そんな地名は聞いた事がないですが」
は?っと思い「これは転生が成功した事を確信した」
「そして三郎様は織田弾正忠家の嫡男、織田三郎信長様で御座います」
織田信長!、超有名人だ、さすがの僕でも知っている。僕が?
「えっと、今は何年でしょう?」
「今年は天文15年ですが」
天文?たぶん和暦だろうが聞いた事もない。
「どうも様子がおかしいですな?何事かありましたか?」
平手さんはかなり怪しんでいるようだ、ここは腹を割って話すしかないかと思う。
傅役って事は守ってくれるかもしれないし。
僕はこれまでの経緯を平手さんにぶちまけた。
すると
「俄かには信じがたいですが、三郎様の狼狽ぶりを鑑みるに一概に嘘とも思えませんな」
と答えた。
「三郎様様は遥か未来から来られたそうですが、この戦国の世誰が生き残るのでしょう?」
僕は大雑把な事しか知らないと、
織田信長が桶狭間で今川義元を打ち取り、美濃を制圧し、京に上り、もうすぐ天下統一の時点で明智光秀に裏切られ殺された事、そして豊臣秀吉が代わりに天下を取り、没後徳川家康が江戸幕府を開いた事を伝えた。
平手さんはかなり驚いたようで
「すぐさま信じろと言われても無理ですが、やけに具体的なのが気になりますな、
とりあえず明智一族は美濃に居を構えておりますが、まぁ留意しておきましょう」
「で、新しい三郎様は天下をお取りになる御つもりで?」
「とりあえず今川義元を破らない限り未来はないでしょう」と答えた。
「ふむ、その前に三郎様には武将としての所作を覚え直して頂かないと。
来年辺りには初陣があるやもしてませんし、何しろ家臣たちが怪しみます。」
僕はショックを受けた。「そうだよな、戦国武将なら合戦の心得も必要だよな」
「人を切る覚悟もしておきなさいませ」
・・・
政秀爺の再教育ははっきり言って地獄だった。
座学はともかくとして体を使う練習は元引きこもりニートにはきつすぎた。
根を挙げていると弟の勘十郎(織田信勝)が来て
「兄上は武芸が得意だったはずでは?」
等と問うてくる。
「最近調子が悪くてな。俺は智を担当するから武はそなたに任す。」
と誤魔化す。
ちなみに「俺」と言ってるのは「僕」という一人称がこの時代には無いと政秀爺に教わったからだ。
「この刀は俺が持っていても宝の持ち腐れだから勘十郎にくれてやる」
とそこそこの業物を渡した。
「兄上、ありがとうございます。」
なんだか感謝しているようなので良しとする。
兄弟は仲良く、これが一番だ。
(史実では織田信勝に裏切られるのだがそんなことは知らない俺であった。)