からくり
眠いです
スカーレットの母親は美しい。そりゃあスカーレットが美人なんだから、当たり前だけど。
もちろん、モテた。壮絶に。
数多あるプロポーズから、オルク公爵を選んだ訳だけど、当然、諦めきれない男もいたわけで。
オルク夫人のストーカーだね。夫人のことを見張って、あちこち尾行してたらしい。
その行動の全てに自分が関係していると匂わせる手紙をオルク公爵には送りつけて。
世間話程度の手紙を毎日のように夫人に送る。
夫人は暇だから、適当に返事をしていたけれど、その文章は書き換えられて男への愛の言葉としてオルク公爵の元へ。
更にオルク公爵が夫人に一日の行動を確認すると、男からの手紙と全て一致。
そうして、あたかも他の男と通じ合っているとオルク公爵に信じ込ませた。
今回、僕が夫人に手紙と封筒を渡してこの事を夫人は初めて知った。一度も直接確認されなかったらしい。急に冷たくなって別宅へ通うようになった夫に、飽きられたのだと泣き暮らしていた。
夫人は、その男とは結婚後には一切会ってもいない、手紙も偽造だ、と外出に必ず同行しているメイド長や手紙を確認する執事も証言してくれて、晴れて夫人の疑いは晴れた。
けれど、夫人の怒りはおさまらず。
「私のことが、そんなに信じられなかったのですね」
危うく離縁されるところたったらしい。あぶねー。
オルク公爵は夫人に平謝りして、頬を思い切り叩かれて、許された。まあ、浮気もしてなかったし。
あれから、しょっちゅう二人で別荘へ行ってイチャイチャしてるらしい。スカーレットはお留守番だけど、嬉しそうだ。
「わたくしね、1人ぼっちじゃないから、もう寂しくなんて無いの」
僕の手を掴んで笑うスカーレット。このまま時よ止まれ。
「弟のタケルよ?かわいいでしょ?」
ん?タケル?嫌な予感しかしないけど。
僕たちは、スクスクと育った。
もちろん、僕は毎日のようにスカーレットに会いに行く。
今日はスカーレットの12歳の誕生日。
僕は11歳、タケルは6歳だ。
最近、問題がある。
いや、詳しく言うならば、だいぶ前から。そう、タケルが生まれてから。
タケルも、転生者だった。やっぱり?名前、思っきし日本人じゃーん。
「ねぇさんに近寄るな、クズ」
しかも、驚異のスカーレット好き。弟なことが、余程悔しいのか、僕を毛嫌いしてくる。
「えー?でも王太子と婚約したら、最悪でしょ?僕にしといたほうが良いじゃん?」
タケルは、ワナワナしてるけど、見た目は既にイケメンだ。
モテるだろなー。
「くそっ、なんで弟なんだよ!こんなやつに、スカーレットを」
「え?タケル、呼んだかしら?」
スカーレットが近付いてくると、急に顔が変わる。
「ねぇさんっ!ミヤビがいじめるんだ!最低だよね?あいつってさ!」
かわいさを全面に出して膨らみ始めたスカーレットの胸に顔をうずめてる。羨ましいぞ、弟。
「まあ、ほんと?ミヤビ」
スカーレットは、更に美しくなった。毎日、見るたびに美しくなる。僕は肩をすくめて見せると、スカーレットは笑う。
よく笑うようになった。
「ミヤビは、そんなことしないわ。ほら、向こうで遊んできて?私はミヤビと大切なお話があるの」
ぷうっと頬を膨らませて、僕を睨みつけてから、タケルは走り去った。
「甘えん坊ね、タケルは」
どこまでも優しい眼差しでタケルを眺めている。
「離れる時が心配だわ」
僕は、ギクッとする。とうとう来てしまった。
「私、もうすぐ入学するのよ」
おやすみなさい