第二章
第二章いっくよー
第二章・ローカル線
第三場・ローカル線と喫茶店
自動放送「この電車は索河湖 (さっかわこ)行きです。唯在湖 を出ますと、次は切掛 (きりかけ)に止まります。まもなく発車します、閉まる扉にご注意ください」
凛月「よ、っと 。あれ、遠弥」
遠弥「え、あぁ」
凛月「お出かけ?」
遠弥「ちょっと索河湖 までね」
凛月「へぇ、行く人いるんだね」
遠弥「そんなに珍しいか」
凛月「だってほら」
遠弥「マジか」
自動放送「本日も唯在鉄道 (たんざいてつどう)をご利用いただきまして、ありがとうございます。この電車は索河湖 行きです。次は切掛 に止まります」
凛月「ま、貸し切りと思って好きにしましょ」
遠弥「それもそっか」
凛月「店はどう ?」
遠弥「どう、っていうと?」
凛月「朝からずっと働いてもらってるじゃん」
遠弥「あぁ、そんなこと」
凛月「そんなことって」
遠弥「こうして休日もある し、賄い も出て。文句のもの字もないよ」
凛月「そう? ならいいんだけど」
遠弥「それにさ」
凛月「うん」
遠弥「あそこにいると、自分を見つけれられる 気がしてさ」
凛月「え」
遠弥「昨日さ、玄貴が言ってたんだよ。「こまったなら、たちどまりなさい 」って」
凛月「宗英教 ね」
遠弥「そうそう。あれってさ、どんな目的で作られたと思う?」
凛月「さぁ。その辺は謎に包まれてるから」
遠弥「そう、そこ。結局は忘れられるんだよ」
凛月「まぁ、ものはいつか壊れる しね」
遠弥「それってさ、喫茶店に似てない?」
凛月「え」
遠弥「喫茶店での細かな会話とかさ、ほとんどは覚えてない じゃん」
凛月「そうね」
遠弥「でも僕らは会話やサービスをして」
凛月「うん」
遠弥「それってさ、宗英教が謎 なのに似てない?」
凛月「言われてみれば」
遠弥「「こまったなら、たちどまりなさい」ってさ、そこにこそ答えがあるんじゃないかなって」
凛月「面白いこと教えてあげる。その教義ってね、続きがあるの」
遠弥「え」
凛月「「こまったなら、たちどまりなさい。答はあなたのすぐそばに」世間には知られてないんだけど、企業とかはしっかり残ってるの」
遠弥「「すぐそばに」か。身の回りの全てが答え なのかもね」
凛月「えぇ、そうかもね」
自動放送「急停車します、ご注意ください 。」
(自動放送)「Attention please, the emergency brake had been applied.」
凛月「え」
遠弥「おっと」
自動放送「急停車失礼しました。お客様へお知らせいたします。ただいま、車両の異常を検知したため停車 しております。係員が参りますまで、しばらくお待ちください」
凛月「ちょっとごめん」
遠弥「え、そっちは」
凛月「大丈夫」
遠弥「大丈夫って」
凛月「もしもし、詰です。今110列車に乗ってまして」
無線「あ、了解です。すみませんが故障箇所は分かりますか」
凛月「モーター異常って出てます」
無線「ありがとうございます。じゃあ非常運転お願いできますか?」
凛月「はい」
無線「では鍵を挿して運転を手動に、そのあとモーターを予備に切り替えお願いします」
凛月「運転手動、モーターを予備へ、了解です」
無線「速度指示は受信できてますか」
凛月「制限60キロ、受信できてます」
無線「では、切掛 まで非常運転をお願いします」
凛月「了解しました。お客様へご案内いたします。当列車、ただいまより運転を再開します。列車遅れまして大変申し訳ございません」
遠弥「凛月ってここでも働いてたんだ」
凛月「……」
遠弥「凛月?」
凛月「ちょっと待って」
遠弥「あ、ごめん」
凛月「通電よし、ブレーキ弁圧よし、制限60、前方進行、ブレーキ緩解。ノッチ電圧よし」
遠弥「すげぇ。全部覚えてるんだ」
凛月「これでもほんの一部だよ」
遠弥「マジか。でも運転できるだけすごいよ」
凛月「まぁ非常時だけだけどね」
遠弥「何で」
凛月「私の第二種免許 って言って、非常時の運転しかできない免許なんだよね」
遠弥「二種ってプロって感じがするけど」
凛月「それは車の話。電車だと二種は限定免許なんだよ」
遠弥「なるほど」
凛月「でもごめんね」
遠弥「何が」
凛月「遠弥の予定狂っちゃったでしょ」
遠弥「それくらいいいよ。また今度行けばいいし」
凛月「ありがとう」
遠弥「それより鉄道と喫茶店掛け持ちしてる方が大変でしょ」
凛月「ううん、やらないといけないから」
遠弥「え」
凛月「そうそう、代わりの電車 があるから索河湖まで行っていい?」
遠弥「あぁ、うん。ありがと」
凛月「気にしないで」
遠弥「凛月」
凛月「なに?」
遠弥「鉄道に喫茶店にって、その、大変じゃないの」
凛月「大変かそうじゃないか、で言えば大変かな」
遠弥「そっか」
凛月「覚えることも多いし、何より利益がね」
遠弥「まぁ、だろうな」
凛月「でも嫌じゃないよ」
遠弥「どうして」
凛月「こうしていろんなことが起こってさ」
遠弥「うん」
凛月「その対応を考えるのって楽しいじゃん 」
遠弥「その性格、嫌いじゃないな」
凛月「やった」
第四場・車両故障と気合の修理
遠弥「そういえばさ」
凛月「うん」
遠弥「電車の設備ってどれも予備があるもんなの?」
凛月「ああ、えっとね。モーターとか電源とか、大事なものは予備がある よ」
遠弥「じゃあ予備がないものはどうすんの」
凛月「それは車庫に戻ってから交換かな」
遠弥「なるほど。交換っていうと今壊れてるっていうのも交換になるの」
凛月「どうだろう 。モーターって高いからね」
遠弥「え、高いって」
凛月「中古で200万くらいかな」
遠弥「たっか。新品だともっとってことでしょ」
凛月「新品は安くて500万はするからね」
遠弥「きついな。でも変えないと、いや、予備があるのか」
凛月「ううん、予備は無理」
遠弥「どうして。今だって」
凛月「予備は力が弱いの」
遠弥「力?」
凛月「そう。近くの駅まで走れればいいからね」
遠弥「それじゃ山登れないんじゃ」
凛月「ギリギリ走れはするよ。でも歩きといい勝負かな」
遠弥「遅いな」
凛月「ほら、言ってたらどんどん落ちてきた」
遠弥「本当だ」
凛月「それに予算もないし、当分車庫眠りになるかな」
遠弥「車庫って、じゃあ明日からは」
凛月「運休になるかな、ここ予算ないし」
遠弥「そんな」
凛月「まあしょうがないよ」
遠弥「…………」
凛月「どこ行くの」
遠弥「ちょっと座らせて」
凛月「立ちっぱなしだったもんね」
遠弥「うん」
凛月「さて、もう少し頑張ってよー」
遠弥「お金出すのは無理だし、修理なんてそれこそ僕には。いや、待てよ。凛月」
凛月「どうしたの」
遠弥「ちょっと電話しても いい?」
凛月「まぁ他にいないしいいよ。電波来てる?」
遠弥「ありがと。もしもし、今大丈夫?」
凛月「さ、もうすぐ着くよー」
遠弥「お疲れ様」
凛月「ありがとう。ちょっと失礼」
遠弥「うん」
凛月「もしもし、110列車の詰です。まもなく索河車両所到着します。はい、お願いします」
遠弥「会社の人?」
凛月「そう。そろそろ着くからレール切り替えてもらわないとね」
遠弥「なるほど」
凛月「索河湖駅入換進行、留置三番」
遠弥「信号赤じゃなかった?」
凛月「色じゃないのが別にあるよ」
遠弥「それは気づかなかった」
凛月「まあ分かりづらいからね。留置三番、一旦停止」
遠弥「おっとと」
凛月「あ、ごめん。停まるの苦手で」
遠弥「いいよいいよ」
凛月「ありがとう。よし、留置三番、入換進行」
遠弥「お、いるいる」
凛月「え。え、あれって」
遠弥「先に停めちゃお」
凛月「そうね。停止目標手旗確認。……停止、よし」
遠弥「お疲れ様」
凛月「ありがとう。それよりあれって……」
遠弥「いいからほら、早く降りよ」
凛月「えぇ」
遠弥「ほら」
凛月「はぁ」
玄貴「やっと来た」
恵「もー、遅いよ」
遠弥「悪い悪い」
凛月「これは?」
遠弥「僕が呼んどいたんだ」
凛月「呼んどいたって」
玄貴「捨てるんなら直したって、別にいいだろ」
凛月「そりゃまぁ」
恵「それに廃棄コストだって馬鹿にならないでしょ」
凛月「そんなこと言ったら修理だって」
遠弥「大丈夫」
凛月「え」
恵「フルーツパラダイス、よろしくね」
玄貴「俺は焼にk」
恵「フルーツパラダイス」
玄貴「いや、俺はやk」
恵「山ぶどうがいいの?」
玄貴「いやせめて肉を」
恵「あぁ、果肉があればいいのか」
玄貴「ちくしょう、俺に焼き肉を食わせろ」
凛月「ははは」
遠弥「っていう感じよ」
凛月「でも安すぎない?」
恵「だって、私たちは勉強できるから 」
玄貴「逆に教材費払いたいくらいだ」
凛月「二人とも、ありがとう」
恵「気にしないで。それよりも壊れてるのどこ」
凛月「モーターではあるみたいで」
玄貴「じゃあモーターからいくか」
恵「うん」
お読みいただきありがとうございます。