08
西田くんと藤木くんが部室に戻ると、テーブルにはお茶とお菓子が置いてあった。そしてそこに、セルゲイと部長の佐藤がこぢんまりと座っている。セルゲイは背高いので普通に見えるが、佐藤はちっちゃいので、もっと小さく見えた。彼なりに反省しているのだろう。
「それ、食べろし…」
「え。なにこれ。」
「僕のオススメのトルテと、祐樹くんが買って来たドーナツです。」
藤木くんの質問に、セルゲイが答えた。佐藤は気まずそうに目をそらしている。
「ねぇ、祐樹くん。西田くんと藤木くんに謝ろう?」
「…ん。」
セルゲイに促され、佐藤は2人の前に立つと、交互に顔を見てから頭を下げた。
「ごめんなさい。…西田氏が、そんなつらい目に遭ってたなんて、知らなかった。」
佐藤の声は震えていた。頭を下げているので、顔は見ていないが。おそらく涙目だろう。
「…もう、ええって。だから顔上げて下さいよ。」
西田くんが言うと、佐藤はゆっくりと顔を上げる。部長も部長で人間らしいところがあったことに、セルゲイはホッとした。いつもふてぶてしいところしか目の当たりにしていなかった。
「よし、じゃああれだ。それ食べながらこれからどうしようか考えようぜ!」
「うん、早く食べないと美味しくなくなっちゃうよ。」
藤木くんの提案にセルゲイも乗っかる。4人はドーナツとトルテを囲みながら会議に入った。
「そもそも、どうして西田くんに不満をぶつけるかってところだよな。」
「文句あるんなら、俺に直接言えし。まじ許せんし。ありえんし。」
ドーナツを貪るように食べながら佐藤は怒る。それには藤木くんもセルゲイも頷いた。
「多分、西田くんは優しいから。祐樹くんは滅多に人前に顔出さないでしょ?」
「…教室か部室にしか居ないからね。この子。」
佐藤があまり人前に出ないが故の事件と言うことになる。それだと嫌でも西田くんがターゲットになってしまう。
「…ってことは、俺が行けばいいってことじゃん?上等だし。」
「こういう時、部長って頼もしいんだよなぁ。」
藤木くんはしみじみと呟く。唯一、部長が頼もしく見える瞬間。
「え、まさか…御三家に殴り込みに行くつもりしてるん?!」
「当たり前だし。西田くんに嫌がらせしてんの、そいつらっしょ?」
一度スイッチが入ってしまった部長を止めることが出来るのは誰もいない。彼は本気で言っている。
「やめときって!次は部長が危ないで?!」
「やめないし。ていうか、全然怖くないし。」
西田くんの言葉など、どこ吹く風。佐藤はツタンカーメンのお面をテーブルの上に置いた。
「明日、これ被って行ってくるし。」
ここでツタンカーメンを召喚するとは、さすが部長である。だが、藤木くんと西田くんとセルゲイはただただ呆然とした。…こいつ、本気だ。当の本人である佐藤は、意気込んでいるのか、全員分のドーナツを頬張っていた。