07
「おっ。来たか。」
菊池は部室の長椅子に寝転んだまま、やって来た島崎を迎える。
「ところでさ、お前何て名前なの?」
「島崎惣です。…1年です。よろしくお願いします。」
島崎が軽い自己紹介を終えると、菊池はのっそりと起き上がった。
「島崎な。よろしく。俺は菊池悠馬。名乗るのが遅れたな。」
「あっ、はい。よろしくお願いいたします。ええと…僕、何すればいいですか?」
まだ道具が何も揃っていない島崎に、いきなり部の練習に参加しろとは言えない。菊池は考えた末に、こう言った。
「マネージャーやれ。サッカー部の。前にサッカーやってたんだろ?多分今の女たちよりは使えるだろうし。」
「あっ…は、はい。」
女の子の中にいきなり入って、大丈夫なんだろうか。島崎は今から嫌な汗がかきそうな勢い。
「そんな怖い顔すんなって。俺が誘ったって言えば、誰も文句なんて言わねえよ。」
それもそれで何だか複雑な話である。絶対に島崎のクラスメイトも、サッカー部に存在しているだろう。だから部活に入らず、帰宅部を選んでいたと言うのもある。
「いずれ、ユニフォームとかシューズとか揃えたらちゃんと練習にも参加させてやっから。」
菊池はそう島崎に言うと、にっこりと笑う。島崎はその笑みが怖くて仕方なかった。
「あの…」
「どうした、島崎。」
「やっぱり、いきなり部に入るのはちょっと…」
遠慮する島崎に、菊池は眉を顰める。
「何をそんなに怖がってんだよ?」
まさか、僕いじめられてるんで…クラスメイトが怖くて…なんて口が裂けても言えない。
「使い物にならなかったら、どうしよう…と思いまして。」
「そこは大丈夫だって。今の女マネも全然使えねえし。そろそろクビにしようかって話してたぐらいだからさ。」
マネージャーをクビなんて聞いたことがない。だが、この学校にはそんなことが存在する。
「心配すんなよ、島崎。」
「…はい。」
島崎は大五郎のことを考えていた。放課後に大五郎のところに寄らないなんて、今まで一回も無かった。大五郎に会いたい…。島崎は心の中で呟いた。