05
チョークの粉だらけになって廊下をあるく島崎は、トイレに向かっていた。今日は教室の戸を開けた瞬間、黒板消しが上から落っこちて来た。粉だらけの黒板消しを投げつけられもした。そのおかげで、島崎は真っ白になった。とにかく粉をどうにかしなきゃ。それだけを考えながら歩いていると、誰かにぶつかった。
「あっ、ごめんなさい。」
「うわああああ!!!!!」
島崎が謝った瞬間、巨大な叫び声が上がり、こっちまで叫びそうになる。慌てて離れてみると、ぶつかった相手はツタンカーメンの中野だった。
「な、中野…くん?」
「お前あの時の…!っていうか、お前白くね?」
自分がチョークの粉まみれであることをすっかり忘れていた。島崎は咄嗟に言い訳を考えたが、思いつかない。
「ねぇ、中野くん。」
「ん?え、何?どうした?」
「僕は中野くんの秘密、知ってる。」
島崎の言葉に中野は顔を引きつらせた。昨日の放課後に、島崎には中野がツタンカーメンの呪いの犯人であることはバレてしまった。
「だから、僕の秘密も教えいいですか?」
「ん?んん?!」
「そしたら平等ですよ。中野くんだけなんて、不公平じゃないですか。」
そう言われれば確かにそうだ。中野は納得した。
「秘密って、何?」
「僕、イジメられてるんです。」
「…だからこんな真っ白なの?」
中野に聞かれると、島崎は何度も頷いた。
「靴にはいつも画鋲が入ってて。机にはいつも花が飾られててさ。」
「わかった、分かったよ。ありがとう、教えてくれて。」
中野はまだ名も知らない、学年も知らない島崎から衝撃的な事実を突きつけられ、焦った。
「名前なんて言うの?」
「島崎。島崎惣。」
島崎惣くんはイジメにあっている。この学校は表面上、イジメゼロの学校で通っている。正直イジメなんてどこにでもあるし、部活が命の学校でイジメが無いなんてそんな綺麗な話はあるはずが無い。
「なんかあったら、俺のとこ来いよ。話くらいは聞いてあげられると思うからさ。」
「…ありがとうございます。中野くん、優しいですね。」
島崎は小さく微笑んだ。中野は島崎が微笑んだところを初めて見た。まだ会って間も無いが。いつも表情が乏しい印象があった。中野が何か言葉を返そうとした時には、島崎はもう何処かへ行ってしまっていた。