03
「セルゲイくんは、どこの部活に入るの?」
1年A組の教室にある、セルゲイの席の周りにはたくさんの女の子たちが集まってきていた。
「僕?僕はね、ツタンカーメン部に入ることにしたんだ。」
「ちょっとー、冗談はよしてよ。それ笑えないやつだからー。」
「冗談なんかじゃないよ。僕、もうメンバーになったんだ。」
セルゲイは女の子たちの反応に首を傾げたくなった。どうしてこんなにも冷たいんだろう。
「ていうか、あれ部活じゃなくない?」
「セルゲイくん、考え直した方がいいよ、ほんとに。」
「え、どうして?」
セルゲイが聞くと、女の子たちは一斉に顔を見合わせた。訳ありな予感。しかし、気持ちは分からんでもない。なんせ部長があのざまだ。そして頼りない先輩たち。
「なんか、あの部長?だかなんだか知らないけどさ。この前グラウンドで顔金色に塗って寝袋に入って寝てたらしいよ。」
「うっわ、きんもー!なにそれ。」
これはセルゲイもよくわからなかった。一体、部長さんは何をしていたんだろう。セルゲイはさらに続く女の子たちの話を聞く。
「あとさ、美術のデッサンの授業とかー。あいつずーっと三角描いてんだよね。ほんと怖い。」
「あの三角なんなんだろうねー、気持ち悪!」
セルゲイはこの話の真相が気になって、居ても立っても居られなくなった。
「祐樹くんのこと、いろいろ教えてくれてありがとう。これからも、たくさん教えてね!」
「え?ちょっ、セルゲイくん?!」
お礼を言うなり教室をダッシュで出て行くセルゲイに、女の子たちの声はもう耳に入ってなかった。
「ねぇ、ずっと帰宅部のままでいるつもり?」
「…まさか。」
昼休みの屋上で、中野秀人は彼女らしき女の子と居る。女の子の表情は曇っている。
「もう謝りなよ、悠馬くんに。」
「そいつの名前は言うな。お前でもキレるよ?」
つい、声を荒げてしまいすぐに中野は謝った。
「…ごめん。」
「私たち、距離置こっか。」
彼女の言葉に、中野は何も言わなかった。そんな反応にがっかりしたのかなんなのか。女の子はうつむき加減に走りながら屋上から出て行ってしまった。
「…そんなに部活やってんのが偉いかよ。」
「なー。なーなーなー。」
突然声がした。中野はもろに驚いてしまって腰を抜かし、その場に尻餅をついた。
「なっ、お前…なんで居るんだよ…」
「お前って何だし。」
部長こと、佐藤祐樹が給水塔の陰からにゅるりと出てきた。某ホラー映画の井戸から出てくる女性よりも不気味なものがある。
「帰宅部じゃないじゃん、中野氏。」
「なぁ。その呼び方どうにかなんない?」
名前にまで「し」を付ける部長、佐藤に呆れ果てる中野。佐藤はガリガリ君を頬張りながら、ただジッと中野を見ている。
「つーか、人が寝てるとこで喧嘩すんのやめろし。まじ迷惑。」
「はぁ?!知らねーよ、そんなの!」
「中野氏、声がでっかい。まじウザイ。」
中野はもう何も返さなかった。この部長には何を言っても効かないだろう。なんせ彼は良くも悪くもふてぶてしい、というか図太いのだ。
「まじ眠れないから部室行くわー。アディオス中野氏ー。」
そう言って、佐藤も屋上を後にした。一人ポツンと佇む中野はそのまま寝転んだ。
「…どーっすかな、まじで。」
雲が流れる空を見ながら、小さくため息混じりに呟いたのだった。