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結局、島崎は昼まで大五郎と戯れていた。教室に戻ってもイジメられるので授業に集中できないのだ。
「昼休み終わったらさすがに戻らなきゃダメだよね…」
スヤスヤと眠る大五郎を膝の上に起き、優しく撫でる島崎。さすがに1日サボりっぱなしはマズイ。
「小屋に戻ろっか。」
そう呟きながら大五郎を抱き上げた時に、島崎はまたエンカウントしてしまった。
「ゆにこ連れ出したの、君?」
おそらくこの人、飼育委員の先輩だろう。メガネをかけて目がつり上がっている。見た目は完全に風紀委員である。
「あっ…えっと…」
「飼育委員じゃないよね。なんで連れ出したの?」
島崎がモゴモゴとしていると、どこからともなく声が。
「お姉さん。それぐらいにしといてあげてくれないかな。」
「秀人くん?」
声の主は中野だった。島崎はまさかここでこんな形で会うとは思っていなかった。
「秀人くんの知り合いなの?この子。」
「そうだよ。俺の友達。こいつさー、めちゃくちゃ動物好きで。」
島崎は中野に肩を組まれる。あまりそういうことをされたことがないので、謎の緊張が走る。
「そうだったの…。」
「今から戻すとこだったんだよな?」
「え、あ…はい。」
中野の問いかけに、何度もこくこくと頷く。
「うん、まぁ…それならいいけど。」
「ありがとー!もうほんと優しいね。」
飼育委員の女の子は中野に言われると、照れたように微笑んだ。先ほどの怖い顔が嘘のようだ。島崎と中野は、小屋へ戻すべく、校舎の裏へと歩いた。
「中野くんと、こんなとこで会うなんて。 」
「たまたま、島崎くんが絡まれてるところ見かけたからさ。」
中野は前をみながら言う。島崎も、中野には目を向けず、大五郎を見つめたまま。
「中野くんは、人気者なんですね。」
「え?」
島崎の言葉に、中野はつい聞き返した。
「さっきの人、すぐに引き下がっていったから。」
「…人気者じゃねえよ、別に。」
「すみません、ほんとにすみません。変なこと言っちゃいましたね。」
島崎はすぐに謝った。中野の反応が明らかに不機嫌だったのを、島崎は察した。
「謝んなよ。お前別に何も悪いことしてないんだからさ。」
「…ごめんなさい。」
「また謝ってんぞ。」
ほら、行こう。中野は島崎の頭を撫でた。それに思わずビクッとしてしまった。
「ビクビクし過ぎだろ!」
「こういうの慣れてなくて…」
島崎がおずおずと言うと、中野は笑った。
「じゃあ、俺がたくさん撫で撫でしてやるよ。」
「えっ?」
「だから、まずはビクビクするくせ直せよ。」
中野の言葉に島崎は強く頷く。そして2人は、小屋へと向かった。