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黒い花


 ヒロトは購入した剣、レプリカントを握りしめながら、屋敷に戻った。

 

「あと4日。いや、もう今日は日が暮れる。あと3日か」


 今日ヒロトが得られたものは、洗脳の解除方法の裏どり。

 体を40度以上にすれば、体内に植え付けられた白い花の種子が絶命し、洗脳は解除されるーーというヒロトたちの仮説が本人によって肯定されただけだ。

 ヒロトは歯痒さから、奥歯を噛んだ。


 足りない。

 洗脳解除はあくまで対処療法だ。

 本当に知りたいのは原因療法ーー白い花の止め方だ。それもイルを殺さずに止める方法を知りたいのに。

 

「ライミや、ロージュたちの吉報に期待するしかないか……」


 そう言って、リビングで腰を下ろしていると、タイミングよくガチャリと扉が開く。

 目を向けると、ライミとロージュが玄関先に並んでいた。

 

「ちょうどライミとは屋敷の前で会ったのだ」


 とヒロトの疑問を先回りしてロージュが説明する。


「二人はどこへ?」


「僕は国の図書館に行ってたんだ。いくつか分かったことがあるからあとで話すね」


「私は王城の地下に行ってたのだ。なにかヒントがないかと思ってな」


「そうなんだ……ってええ? ロージュさん、王城の地下に入れたの!? 国の地下っていろんな機密情報機密情報があるはずじゃないの!?」


 ロージュは平然と語ったが、ライミが驚愕の表情を浮かべる。


「普通は門番に止められるのだが、今日は門番もいなくてな。というか、王城に住んでいる人も基本的に座り込んで無気力状態だったから、不法侵入の私を気にかけることもなかったのだ」


「白い花の影響が濃くなっているみたいだな」


「うむ。無気力といっても、皆、笑っていたがな。それがより恐ろしかったのだ」


「僕やロージュさんも一歩間違えればあんな風になってたのかなぁ……。あ、ユリちゃんやリーボンさんはあそこまで無気力ではないよね?」


「うむ。もしかしたら奇跡の少女に近い人ほど影響を受けやすいのかも知れやすいとか?」


「そうなると、従者のグリーン。あいつはなんで影響を受けてないんだろうな」


「あ……確かに。そうだよね。あの人が一番近くにいるもんね」


 ライミが同意するも、当然この三人では答えに辿り着けることはなく、「うーん」という声だけが流れる。


「話が逸れた。まずはライミから報告をしてもらえるか? 何か掴めた?」


「あ、そうだね。僕ね、奇跡の少女がずっとこの国に滞在しているのには、何か理由があるとずっと思ったんだ。だから図書館でこの国の伝承や、地形や歴史について調べてみたんだ」


「奇跡の少女がこの国にいる理由か……。考えたこともなかったな」


「よくよく考えるとね、変なんだよ。白い花は高温に弱いんでしょ? なら、常時熱気で覆われてるこの国にいるのは妙だよね。逆に言えばーー、この国にいないといけない理由があるんだと思う。それが、たぶんこれ」


 そう言ってライミはカバンの中から、分厚い革の本を取り出して、机の上で広げた。

 そしてパラパラとページをめくり、図を指差した。

 ヒロトは覗き込むようにライミの指差した図を見る。

 その図は、この国の断面図のようだった。目に留まったのは街の地下に描かれている巨大な白い球体。

 ヒロトは首を傾げる。


「なんだ、この球体は……?」


「魔石だよ。巨大な魔力の原石。この国の地下には巨大な魔石が埋まってるんだ」


 巨大な魔力の原石があるのかーと額面通りに受け取っただけのヒロトだったが、ロージュの反応は違った。


「こ、こんなに巨大な魔石があるのか!? こんなサイズ、聞いたことがないぞ!?」


 ライミが頷いた。


「うん。僕も驚いた。こんなサイズは見たことも聞いたこともないよ。今は魔道具にも魔石が必須だ。こんな天然の魔石は革命的なんだけど……正直この魔石は巨大すぎて扱いに困ると思う。魔石は魔力の塊なんだ。言い換えれば、魔力の爆弾なんだ。扱いを間違えるとこの国を滅ぼしてしまうよ」


「そんな爆弾をイルは取り扱おうとしている……ってことか?」


 ヒロトの問いに対して、ライミはこくりと頷いた。


「多分、この魔石から膨大な魔力を取り込んで、白い花を世界中に咲かせようとしているんだと思う。そうでもしないと、世界中に花を咲かせることなんて、どんな稀代の魔法使いでも無理だよ。ううん、ここまでしても出来るとは正直思えないし、仮にできたとしても……魔法発動後に間違いなく奇跡の少女は死ぬよ」


 腕を組みながら、ライミの話を聞き続けていたロージュが口を開く。


「魔石から魔力を取り込むのは、本来であれば魔道具を介して行うが、ここまでのサイズの魔石を変換する魔道具はないぞ。それに、ただ取り込んでも宿主が死ぬだけだ。どうするつもりだろうか」


「ごめん、そこまでは分からない。けど、どうにかする手立てがあるから、この国に来てるんじゃないかな」


「ううむ……そうだな。その手立てを捜索するのが明日以降の命題かもしれぬな。さすがライミ殿だ。よくここまでの情報を集められたな」


 ロージュがライミを褒めると、ライミは頬を赤らめて照れた表情を浮かべる。


「えへへ、本を読むのは好きだったからね。色んな本を読めて楽しかったよ。ロージュさんは何か調べられた?」


「む、私の番か。私は奇跡の少女の出立ちを調べていたのだ。前にヒロトが教えてくれた、ククリス村についてだ」


 ロージュがちらりとこちらに視線を向ける。

 ヒロトが頷く。


「言ったな。ククリス村が、ユリと奇跡の少女の生まれ故郷だ。あとは万の舞もククリス村に繋がるキーワードらしいが」


「うむ。万の舞に関しては分からなかったが、ククリス村については城の地下の書類にその名が記載してあった。それが、これだ」


 ロージュは懐から筒状に丸まった紙を取り出すと、ライミの本の隣に広げた。

 随分と古い紙なのか、全体的に黄ばんでいる。

 ロージュが「ええと」と言いながら、視線を巡らせた。数秒後、「これなのだ」と言って、紙の一角を指差した。


「ここに書いてあるのだ。ククリス村について。ククリス村は、7年前に壊滅していると書かれているのだ。52名の村人のうち、50名が死亡とな。一夜にして殺されてしまったらしい」


「50名が死亡……!?」


「うむ。魔物の襲来があったんじゃないかとこの記事では予想されている。生き残った2名は恐らくーー」


「イルとユリ、か」


 食い気味にヒロトが答えると、ロージュがこくりと頷く。


「恐らくそうだと思う。それに、50名が一夜にして殺されたことも衝撃だが……私が気になったのがこの文章だ」


 ロージュが文字の一文を指さし、なぞるようにして言った。


『ククリス村は一夜にして、おびただしい死体が積み重なっており、その死体を嘲笑うように至るところに黒い花が咲いていた』


 ロージュは一節を読み終わると、顔をあげて息を吐いた。

 

「「黒い花」」


 ヒロトとライミが異口同音で呟く。

 ロージュが再び頷く。


「黒い花の正体はわからぬが、今世界を蝕もうとしている白い花との関連性がない訳がないと思うのだ。そして、ククリス村の惨状を踏まえると白い花じゃない。黒い花にも気を付けないといけない」


「奇跡の少女の能力は白い花だけじゃないってことか。つまり、ククリス村に黒い花を咲かせたのは……奇跡の少女(イル)か?」


 ロージュは首を横に振る。


「そこまでは分からない。だが、可能性は高い」

 

「そうか。だが白い花だけじゃなくて、黒い花もか。黒い花の発動条件や影響も把握しないといけないな……そのためには……」


 *************************


「ーーということで、聞きに来た」


「……ちょっと待ってくれや。溜息をつかせてくれへん?」


 そういうと、イルは「はぁ~~」とため息をついたあと、「あはは」と笑い始めた。


「あんたさ、ホンマに遠慮って言葉知っとる? 今、何時だと思うてるん? 夜中やで」


「お前がいつでも来いっていったんじゃねぇか」


「いや、言うたけどっ! 舌の根も乾かぬうちにまた訪ねてくるとは思わんかったわっ!」


 そういってイルは笑いながら、空を叩きツッコミをしたた。

 今は月が真上に出ている真夜中。

 イルのククリス村の記事を聞いたヒロトは、聞いた後にその足で王城へと向かい、イルの部屋をノック。

 不機嫌なグリーンに追い返されそうになったが、寝間着のイルが承諾し、こうして向かい合わせに腰を下ろしている。


「まぁ、男に二言なしや。って女やけどなっ」


 一人でノリツッコミをするイルを見ながら、ヒロトはどんな反応をすればよいかわからず、眉をひそめた。

 すると、イルが再び溜息をつく。相変わらず美しい笑顔を浮かべながら。


「辛気臭いなぁ……まぁ、ええわ。ククリス村のことやな。まぁ、全然話すのはええけど。なんでこんなことを知りたいん?」


「ちゃんと、お前やユリのことを知りたいから」


「……っ、おおお、キュンやな。乙女にキュンとする一言や。キュンポイント、プラス1点や」


「お前、なんかテンション高いな。うっとおしい」


「キュンポイント、マイナス2点や」


「……」


 ヒロトは無言で返すと、イルがまいったというように両手をあげた。


「はいはい、ええわ。話したるわ。私の過去でよければ、いくらでも。あれはーー8年前のことや」


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