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着替えハプニング


 ヒロトの部屋を後にしたロージュとライミは長い廊下を歩く。

 

「ライミ殿。私は甲冑に着替えようと思うのだが、あなたはどうする?」


「僕も本格的な戦闘用のスカートに変えたいな。今のは私服だから」


「ふむ、では着替えるか。着衣室は一つしかないが……まぁ一緒に着替えれば良いか。私はあまり気にしないが、ライミ殿は大丈夫か?」


 ロージュは慎重にライミへ言葉を投げかけた。

 この問いはーー()()同士でも下着姿を見られることを嫌がる人がいるため、そこを考慮した発言だった。


「ロージュさんが気にしないのなら、僕も全然気にしないから平気だよ。時間がもったいないしね」


 ライミは平然とした様子で答えたが、その言葉にはどこか当然のような響きがあった


 場所は変わり、着衣室。

 ロージュはふぅとため息をつきながら、上半身の服を脱ぎ、下着姿へとなる。

 そして手をそのままスカートへと伸ばしたその時、ふとライミの全身が目の端に映り、手が止まった。

 もともと華奢な女性だとは思っていたが、改めて見ると随分と胸囲が小さい。

 しかし、どこか肩の骨はがっしりとしており、それに背中も少し広い。


「……いやいや、不躾であろう。何を他人の裸をじろじろと見ているのだ」


 国の上級騎士が何たる無礼……と自分で自分を叱り、ライミから目を逸らそうとする。

 だが、ライミがスカートを脱いだ瞬間、パンツの膨らみが目の端に映り、再びロージュの手が止まる。

 「その膨らみは、女性としては明らかに違和感のあるものだった――。」


「……?」


 すぐに顔を壁に向けてひねり、顔を逸らすことに成功する。

 それでも脳裏にこべりついたように剥がれない、刹那の映像ーーライミの股間部分にあった謎の膨らみ。


「?????」


 脳裏に疑問符が浮かび上がる。

 見間違いだと、自分の右脳が吠えた。

 同時に自分の左脳が真実だと言う。

 ロージュは困惑を必死に抑えながら、震えた声でライミに問う。


「ライミ殿……そういえば聞いていなかったが、ライミ殿の性別はどちらだ……?」


「え? 僕? 男だよ、普通に」


「お……と……こ」


 瞬間、ロージュの脳は宇宙とつながった。

 ロージュの視界には宇宙が広がり、頭の上で優雅なBGMとともに惑星たちが手を取ってダンスを始めた。

 

「おとこ、というのはなんだ……? 金髪の長髪に、愛らしい顔立ち。そしてスカートを履いているのだが、ライミは……?」


「え? 男だよ。ち○こ(ピー(規制音))ついてるし、生物学的に男性だよ。でもスカート履いたり、可愛い服着るのが好きなんだー。そうだ、ロージュさん。良かったら今度おすすめの服とかーー」


「お、、、お、おと、おとこ? オトコオトコ、男!? つ、つまり今私は、男の人の前で、、なんという、はしたない姿になっているのだ……!?」


「ロージュさん……?」


 ロージュは動揺からか呂律が回らなくなり、後ずさり、壁にもぶつかった。

 そして羞恥心から顔を真っ赤に紅葉させ、その赤色は顔だけでなく、徐々に全身へと広がっていく。

 そして頭から湯気がーー比喩表現ではなく、実際にロージュの頭から煙が出始めた。

 

「そういえば、ロージュさんって恥ずかし過ぎると火が吹き出る体質だった……!ええと、ロージュさん落ち着いて……! その、すごく可愛らしい下着だったよ! 恥ずかしがる必要ないって!」


 ライミの言葉は、慰めのつもりなのだろう。だが、ロージュにはそれが逆効果だった。

 “可愛らしい”などと下着の感想を述べられるとは――つまり、じっくり見られていたということではないか。

 ロージュの羞恥心は限界を超え、全身が熱を帯びていく。


「う、うううう………うァァァァァァァァ! は、恥ずかしいのだ!!!」


 ロージュの全身からおびただしい数の火の粉が舞う。

 この家が大理石ではなく木造であったなら、全焼してしまうほどの火力がロージュから吹き出した。

 そしてその火の粉は飛ぶ相手を選ばない。

 ついにはライミのスカートに火の粉がつき、フリルが燃え始めた。


「あっっっっつい! 僕のスカートが燃えるっ! 燃える!!」


「うわぁぁぁぁん! お嫁に行けないのだ! うわぁぁぁぁぁ!」


「熱い! このお気に入りのスカートは燃やしたくないのに! あっ、フリルが燃え尽きた! うわぁぁぁ! お気にのスカートが!」


「「うわぁぁぁぁぁぁ!!」」


 悲鳴と焦げた匂いと煙が上がってから、異変に気づいてヒロトが助けにくるまでの2分間は、『地獄だった』と振り返った2人は述べたとか、述べてないとか。


 ********************


「……で、なんでこんなことになったんだ」


 正座をするロージュとライミ。2人の服は未だに所々黒ずんでおり、焦げ臭い。

 2人を見下ろすように腕を組んで立ったヒロトが問うと、ロージュがモゴモゴしながら口を開いた。


「その、、、ライミ殿が私の下着姿を見たから……」


「ぼ、僕のせいなの!? ロージュさんが一緒に着替えようって言ったんじゃん! 見せたのはそっちじゃん!」


「なっ……! 見せたとはなんだ! 男の人だとは思わなかったのだ!」


 ワー、ギャーと喚き散らす二人を見ながら、ヒロトは眉間にしわを寄せ、深く息を吐いた。

 「……落ち着け」と低く声をかける。

 

「まぁ、事故みたいなもんだ。お互いを責めあっても仕方ないだろう?」


「「そもそもヒロト(君)が事前にライミ殿(僕)が男であることを言うべきだったでしょう!?」」


「俺が悪いのかよ!?」


 仲介者としてこの場に立っている筈が、まさかのとばっちり。

 当事者に引きずりこまれてヒロトは困惑する。


「とにかく、とにかく、無事で良かったと考えよう! ボヤ騒ぎだけで済んだんだから良いだろう?」


「良くないよ! 僕のスカートが一着燃えたんだから!」


「それについてはすまない……。返す言葉もない。シース家が、いや、私が弁償させていただく」


「それだけじゃなくて、一緒にロージュさんも選んでね!? そしたら許してあげる」


「……む? わたしの意見で良いのか? あまり期待しないで欲しいのだが」


「ううん、そんなことないよ。率直な意見で良いから欲しいんだ」


「む、、そうか、いや、分かった。是非お供させていただこう。ふふふ、服を友人と選ぶか。憧れていたのだ」


「……なんか、普通に仲直りしそうだな。後でリーボンさんにももう一度謝っておけよ」


 ボヤ騒ぎを抑えるのに時間がかかり、落ち着くまで半日かかってしまい、気が付けば夜だ。

 貴重な一日を消費してしまった。

 「捜索は明日からにしよう」とヒロトが言って解散にしようとした時、ロージュが手を上げた。


「そうだ。ヒロト。何といえばよいかな……ボヤ騒ぎがあってから、心境の変化というか、頭のもやが晴れた感覚があるのだ。今朝まで奇跡の少女を崇拝していたが、今は全く崇拝する気が起きないのだ」


「あっ、僕も同じだよ。頭が鮮明になった気がする。奇跡の少女を崇拝する気持ちはもうないかな……」


 ライミはロージュの言葉に力強く頷き、手を高く掲げた。

 ヒロトは驚き少し困惑しながら答えた。


「急に二人の洗脳が同時に解けたってことか? ……どういうことだろうか」


 同時に二人の洗脳が解ける……偶然とは思えない。

 何がキッカケだ?

 ヒロトは眉をひそめて、熟慮すること数十秒。

 ふと頭にある可能性がよぎった。


「……熱か? このボヤ騒ぎによる、急激な体温上昇が原因だったりはしないか?」


「体温上昇? どうしてそう思うの?」


「いや、俺も断言はできないんだけど……。ええと、何か奇跡の少女(あいつ)が言っていたような」


 頭をぐりぐりと人差し指で押しながら、思い出す。

 そうだ。

 奇跡の少女(あいつ)が言っていたんだ。


『炎属性どころか魔力すらないんか』


 開口一番、奇跡の少女(あいつ)は俺が魔力なしだと言ったことに対しての返事がこれだ。

 これは洗脳にかからずに部屋まで訪ねてきた不詳の男を『炎属性』だと予測していたということだ。


 奇跡の少女(あいつ)が洗脳が解けるのが「炎属性」に関連していると知っていれば、不詳の男を「炎属性」だと予測していたことにも筋が通るのではないだろうか。


 ヒロトは思案の末に肯定の意を示した。


「いや、可能性は高い。奇跡の少女との会話でもヒントになる発言をあいつはしていた」


「ふむ……なるほど」


「じゃあこれからの目的と手段に改めて整理しよう。俺らの一番の目的は、奇跡の少女による全人類の洗脳を止めることだ。そこは異論ないよな。問題がどうやって止めるか、だよな」


 早速暗礁に乗り上げ、ヒロトが唸ると、ライミが再び手を挙げる。


「そもそも、奇跡の少女はどうやって全人類を洗脳しようとしてるのかな?」


「そりゃあ、白い花を全世界に咲かせるんだろう。白い花の洗脳効果はライミやロージュが一番良く分かってるだろう」


「じゃあ、どうやって白い花を全世界に咲かせようとしてるんだろう」


「この国の地面を見てみろ、もうほとんどの地面が白い花で覆われてるんだ。白い花の繁殖能力は異常だ。一週間もあれば十分に世界を覆い尽くすだろうよ」


 そうヒロトが答えると、ライミが「うーん」と唸った。


「何か気になるのか?」


「うん……ちょっとね。世界中に花を咲かせる……そんなことを一人の少女で出来るのかなって。そんな簡単なことじゃないと思うんだ」


「世界中に白い花を咲かせるには何か制約や条件があるんじゃないかって言いたいのか?」


 ライミは頷く。


「うん。僕はそう思う。その条件を突き止めることが、まずすべきことだと思う」


「なるほど……色んな観点から調べないといけないな」


「うん。僕も明日この国の資料館にいって調査してみるよ」


「では私はこの国への影響を調べつつ、お父様に連絡をとって白い花について調べてみよう。もしかしたら同じ魔法が過去にあったかもしれない」


「まずは各自調査をして情報収集だな。奇跡の少女が言う“Xデー”――白い花によって全世界が洗脳される日まで、あと5日。絶対に奇跡の少女を止めるぞ」


 そうヒロトが言うと、ロージュとライミは互いに視線を交わし、決意を込めて首を縦に振った。


ブクマ、高評価ありがとうございます。

モチベに繋がります。

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