表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/68

『*****』No4

20万字超えました。

やたー


 バタンとドアが閉まる音がした。

 神崎ヒロトが退出した後、部屋に残ったイルに対して、グリーンは言った。


「イル。一瞬……一瞬だが、笑顔に陰りが見えた」


「……うん。自覚はあったんや。けど、ユリのことを言われると……」


「言い訳を口にするなっ」


 グリーンが突如として声を荒げると、その手から植物の茎のようなものが無数に伸び、イルの首元や全身にまとわりつく。

 そしてそのまま、軽いイルの体を持ち上げ、宙に浮かせた。


 グリーンはかすれた声で言う。


「言い訳を口にして、笑顔が綺麗になるのか? イル」


 イルの首元に絡みついた茎が、首を一周し、少しずつ絞めていく。


「ゔっ……」


 うめき声を上げるイルをひたすらに見つめながら、グリーンは続けた。


「苦しいか? 息が詰まるか? そんな時、どうすればいいか分かるよなぁ、イル」


 血流が悪くなり、イルの顔色が青白くなっていく。

 それでも、青白い顔のままイルは、


「あはははは!」


 と高らかに笑った。

 その笑い声には一切の陰りがなく、青白い顔でさえも気にならないほど眩しく、弾けるような笑みを浮かべる。

 狂気を一切滲ませない、狂気の笑みを見ながら、グリーンはにこりとほくそ笑む。


「そうだ、イル。それでいい。どんなに苦しくても笑うんだ。お前が笑えば、世界中のみんなが幸せになるんだ。お前こそが、本当の笑みを持つ唯一の人間だ。一週間後、お前は死ぬ。でも、それは悲しいことか?」


「あははは! 死ぬことは悲しくないわ。その代わりに、皆が幸せになるんやから、私も幸せや」


「素晴らしい……。そうだ。勇者とは、他人のために100%を、命すらも捧げられる人物。つまりお前だ、イル・ガーデン。奇跡の少女よ。お前こそが真の勇者なんだ。神崎ヒロトなどという、偽善とエゴに塗れた偽勇者とは違う。お前こそが、勇者なんだ。ふふふ……。グハハハ、デハハハハ」


「あはははははっ」


「ハハハハハァ!」


 体にまとわりついた茎が、その少女の服をめくり、少女の背中の素肌が部屋の鏡に映る。

 その素肌には、リンゴにドクロがまとわりつく紋章――数字の『4』が刻まれていた。

 それは虚教徒(ホロウド)の証。


「あはははははっ」


 少女は首を絞められながら、なおも笑い続ける。

 もう、その笑みに陰りは一切なかった。

 

 *****************************


 イル・ガーデンとの会話を終えて、部屋を後にしたヒロトは城の門へと向かう。

 ヒロトの心の中を支配していた感情は怒りと困惑だった。

 もうどうしたら良いのか分からなかった。

 ユリが笑顔にならなくて、家族も見つからなかった。

 どうにかユリを笑顔にするきっかけを探して求めて、俺は八馬大国(ここ)に来た。

 その結果、ユリの姉であるイルと奇跡的な邂逅を果たし、イルの力によってユリは笑顔を取り戻した。


 これ以上ない、最良の結果だと言える。

 それでも、胸の奥のもやもやがとれない。

 霞みがかった心が「こんなのは嫌だ」と叫んでいる。

 グリーンの言葉が頭によぎった。


 『それはお前のエゴだ。お前の願いは幸せになってほしいんじゃない、幸せにしたいだ』


「ーークソッ!」


 怒りに任せて、ヒロトは拳を城の大理石の壁に叩きつけた。

 壁に当てた左拳がずきずきと痛み、手から血が流れた。

 だが、痛みすらも今の俺にはどうでも――。


「理解できないな。なぜ、貴方は拳を壁にぶつけたんだ?」


「ーーあ? 誰だよ、てめぇは」


 突如、廊下を歩くヒロトの後方から声を掛けられる。

 痛みで顔を歪ませながら、ヒロトは不機嫌そうに振り返ると、そこにいたのは橙色の短髪に、図体が筋骨隆々とした男だった。

 一瞬、その男の瞳にヒロトはたじろぐ。

 その男の目は少し輝いていた。ワクワクといった好奇心を含んだ瞳でヒロトを見ながら、一気にヒロトとの距離をつめてきて、気づいたら目の前にいる。


「だ、誰だよ、てめぇはッ」


「あぁ、ごめんごめん。そうだね。誰だと問われているんだ、答えなくちゃね。皆、俺のことを理解できないと言われちゃうから、名前くらいはすぐに教えないと。ええと、俺の名はウルーガって言うんだ」


「ウルーガ……?」


 その名前をどこかで聞いたことがある気がして、ヒロトは眉をひそめた。

 ウルーガ、ウルーガ……最近どこかで聞いたことがある気がする。


「あっ……ウルーガって……まさか」


「おお、知ってた? 俺は炎の眷属に任命されているんだ。ウルーガって言うんだ」


 アクシスさんの言葉を思い出す。

 勇者パーティは勇者と7人の眷属であり、7人の眷属は勇者を支える、いわば世界最強の術者であると。

 つまり、目の前にいるこの男こそがーー


「世界最強の炎属性の術者、か」


 すると男はハハハと楽しげに眉を上げて笑った。


「まぁ、世間ではそう言われているよ。だけど、炎があっても、他人のことは理解できない。皆、俺の炎を温かい、温かいとありがたがるけど、俺は自分の炎に温もりを感じることはない」


「……?」


 少しできず、ヒロトは口を噤む。

 するとウルーガが慌てて口を開く。


「あぁ、悪い悪い。皆、俺の言うことは困難で理解できないらしい。まぁ、変な俺が悪いんだよ。だからさ、皆のことを教えてほしいんだ。皆が俺を理解できないって言うのなら、俺の方が皆を理解するようにしたいからさっ。それで、君のことを教えてほしいんだ。なぜ、拳を壁にぶつけたんだ?」


 顔を近づけてきながら、ウルーガがヒロトに問う。

 顔が近づいてきて、思わずヒロトは顔を逸らす。

 ふと、ロージュの言葉を思い出した。ロージュはウルーガを『苦手』と言っていた。

 もう既にその言葉の真髄を味わっている気がする。


「むしゃくしゃしたんだよ。八つ当たりだ。責めてんのなら、悪かったよ」


「つまり、一種の自傷行為か。では、八つ当たりで壁を選んだ理由はなんだ? 床ではダメだったのか?」


「床……?」


「あぁ、そうだ。壁を選んだのにはなにか理由があるはずだろう? 床でもなく、壁を選んだ理由だ。教えてくれ。俺が皆になるために」


「理由、理由なんて知らねぇよ」


「それは困るよ! 理由があるはずだろう。あぁ、いいや、悪かった。俺の悪い癖だ。皆を理解しようとしすぎて、皆を疲弊させてしまう。聞く前に自分で試せば良いんだな」


 ヒロトが疑問を口にする前にウルーガは腰をかがめて、拳を引いた。

 そしてそのまま、勢いよく拳を壁に当てる。

 途端、周囲には衝撃波が発生し、ヒロトは吹っ飛ばされる。そして壁はウルーガの拳を中心としてヒビが広がっていき、ガラガラと音を立てて壁が崩れた。

 景色の悪かった廊下からは一転して、街を見下ろせる名スポットが誕生した。


「ーーは?」


 唖然とするヒロト。

 するとウルーガはなぜか一人納得したかのように頷くと、


「なるほど。確かに壁が壊れると景色が絶景になり、ストレスの緩和につながるということだな。床を壊してはこのような開けた景色は拝めない。あぁ、ありがとう。神崎ヒロトくんだね。君のお陰で俺は皆に近づけたよ。あぁ、今日も俺は皆に近づけたなぁ」


 ウルーガははにかんだ笑みを浮かべると、呆然とするヒロトに気に掛けることなく、スキップしながら横を通りすぎていった。


「な、なんだ、あいつ……」


 頭がおかしいのか、と心の中で毒づく。

 だが同時にその男の力に恐怖を感じた。ウルーガは素手の拳で殴っただけだ。それだけで壁がこんなに崩れるとは。

 世界最強の肩書きは伊達じゃない……そう思わされるには十分だった。


ブクマ、高評価していただけるとモチベに繋がります。

よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ