突撃
惚けた顔の3人をリーボンさんは玄関で出迎えてくれた。
そして余程気になっていたのだろう、開口一番に奇跡の少女に対する印象を聞いてきた。
「それで、それで、奇跡の少女はどうでした!?」
「最高だったぞ!」
「うん、凄かったよ〜! 僕、感動しちゃった!」
玄関先で話に花を咲かせる3名とリーボンさん。
盛り上がる4人の横を通り過ぎて、ヒロトは靴を脱ぐと、話の輪に入ることもなく無言で階段を上がっていく。
ーー俺がどうにかしないと、行かないんだ。
そんな決意を胸にして、リーボンさんから割り当てられた客室に入った。
タオルで簡単に汗を拭きながら、ベットの端に腰を下ろした。
時間がない。時間を無駄にしないためにも、これからの動きを考えなければ。
まず自分の最終的な目標はーー奇跡の少女を止めることだ。
奇跡の少女は一週間後に何かをする、と言っていた。
だが、今日の出来事を踏まえるとロクでもないことに決まってる。
重傷をあった冒険者たちを地面に転がせておいて、それを見て彼女は満面の笑みを浮かべていた。
彼女が咲かせる白い花がどれだけ美しくても、彼女自身のことを信じられる訳がないのだ。
「まずは、奇跡の少女が一週間後に何をしようとしているのかを探ること……だな」
だが、どうやって奇跡の少女を探ろうか。
そもそも彼女は普段どこにいるのだろうか……。
圧倒的な情報不足により、早速暗礁に乗り上げヒロトは肩をすくめた。
「とりあえず……城に向かうか?」
奇跡の少女は城から出てきた。もしかしたら城に住んでいて、今も城にいるのではないか。
全て憶測にすぎないが、他に考えも思いつかない。
よし、明日は城に行こう。
門前払いされるのなら、侵入だってしてやる。
そう決意をし、明日に備えて風呂に入ろうと立ち上がって部屋を出ようとドアノブに手を伸ばした時。
部屋の外から扉が開かれ、ヒロトの額に扉が直撃する。
「ゔごぉぉぉぉ…」
うめき声を上げて、しゃがみ込むヒロト。
すると、頭上から心配そうに声をかけられた。
「あ、ごめんなさい……ヒロト」
痛む額を抑えながら顔を上げると、目の前にいたのは申し訳なさそうに口を結んだユリだった。
「大丈夫だよ……。それでユリ、どうしたんだ?」
「いえ……ヒロトの様子が変だったので、気になったんです」
「おおお……」
どうも、ユリが俺のことを心配して部屋に来てくれたようだ。
そして表情も少しだが、絆されているように思える。まだ無表情ではあるが、少しだけ顔の筋肉が動くようになった気がする。
それが奇跡の少女によるものだと思うと、少し歯がゆいが、今は素直にユリの変化を如実に喜ぼう。
額を赤く腫らしながらも、少し嬉しそうに微笑むヒロト。
すると、どうすれば良いか分からなくなったのかユリは困ったような表情を浮かべながら言った。
「……元気そうであれば問題ないです。それでは失礼します」
そう言って足早に部屋を退出し、去っていこうとするユリ。
そんな彼女の背姿を見ているとーーふと脳裏に二つのワードが過った。
それは踊る奇跡の少女を見て、ユリが口にしていた二つの言葉。
「万の舞いとお姉様ってなんだ……?」
情報不足を自覚し、状況を変えなければという責任感と焦りから、思い浮かんだワードを遠慮なく言葉にしてしまった。
ヒロトの問いを受け、途端にユリの体が強張る。
表情が硬くなり、少しだけ眉をよせた。
「どうして、お姉様のことを……ヒロトが知ってるのですか。万の舞いのことも……」
どうもユリはこの二つのワードを呟いていたことも忘れているようだ。
そして、ユリの態度を受けて、ヒロトはようやく自分が浅慮な発言をしてしまったと気づく。
「い、いやー、悪い。やっぱり忘れてくれ。言いたくないことは、言わなくていい」
すると、ユリは硬い動きのまま、自分の服をぎゅっと掴んだ。
少し目が泳ぎながらも、意を決したように顔を上げる。
「お姉様はかつて、いました。けど……今はいません」
声を震わせて話すユリ。
お姉様は今はいない……。
死んだということだろうか。
その言葉の真意をいやでも察したヒロトは苦悩の表情を浮かべそうになる。
だが、ユリはヒロトの頭の中の考えを察したのか、先回るように言った。
「亡くなったわけではありません。けど、ある日……家族であることを辞めよう、と言われたんです。絶縁を言い渡されました。だから、生きているのかも知れません。けど、もう家族ではありません」
淡々と、けれど少し早口でユリは自分の過去を語る。
「……絶縁か。それは酷い話だ。その話はずっとユリは抱えて続けていたのか? 俺らに話すことも出来なかったのか?」
発言後、ヒロトは「どうしてその事をもっと早く言ってくれなかったんだ」とユリを責めるような言い方になってしまったと気づいた。
ユリは首を横に振った。
「もう家族ではない……ただの他人です。伝えても意味がないと思いました」
ユリは少し目を閉じながら語る。
ユリにとってはその出来事はトラウマなのだろう、と察した。
これ以上の言及をしてはいけない、とヒロトは判断した。
「……分かった。ありがとう。万の舞いに関しては何か言えることはないか?」
こくり、とユリは頷いた。
「万の舞いは……ククリス村に伝わる伝統の踊りです」
「ククリス村……」
初めて聞く村の名前だ。
まぁ、異世界転生してきてこの世界のことは何も知らないから当然か。
「ごめんなさい、それ以上は思い出せないんです。今の今まで、ククリス村についても忘れていました。なぜ、今になって思い出せたのかも……分かりません」
「いや、大丈夫。教えてくれてありがとう。じゃあ、おやすみ、ユリ」
そう言ってヒロトはユリに手を振ると、すぐにドアを閉め、壁に寄りかかる。
そして再度考える。
ユリが色々と思い出したキッカケは……奇跡の少女だろう。彼女との邂逅がキッカケで、ユリが蓋していた記憶が蘇ってきたのだろう。
「ククリス村……万の舞い、ユリの姉……」
手札のカードは少しだが増えた。
改めて、整理してみる。
まず、ユリがククリス村出身者である可能性は高い。もしくは、その近隣に住んでいたんだ。
だから、奇跡の少女の踊りを見て、すぐにククリス村の伝統的な踊り想起させることが出来たのだ。ユリの出身についてはこの村を調べることでキッカケを掴めるかもしれない。
そして、次にユリの姉のこと。
どうしても頭にある仮説が過ぎり、我慢できずに口にした。
「奇跡の少女が、ユリの姉……?」
それは飛躍しすぎだろう、ともう一人の自分が咎めてくる。
少ない情報を無理やり繋げているだけかもしれない。
だがその可能性は拭いきれない。
拭いたくない。
ユリが、奇跡の少女を見て咄嗟に出た「お姉様」の言葉。
あれが嘘でないとしたら……奇跡の少女は、ユリの姉だ。
「そうだったらいいな……」
そうだったら、ユリにも家族が見つかったことになる。
そうだったら、ユリも心の底から笑える日が来るんじゃないかって、本気でそう思うから。
奇跡の少女がユリの姉だとしたら、なおさら奇跡の少女と俺は話したい。
やはり、奇跡の少女と話さなければ始まらない。
「よし、明日は王城に突撃だな」
ブクマ、高評価よろしくお願いします。
モチベにつながります。




