気味の悪い演出
ロージュとユリが風呂から上がり、次いでヒロトとライミが入り、時刻はすっかり夜になっているらしい。
夜になっているらしい、と根拠に自信がないのも理由がある。
この八馬大国からは空が見えないのだ。空を覆い隠すように黒い球体が上空を塞いでいるため、外の景色が分からない。
だが、夜空のようなものは見える。
バルコニーから顔を出し、見上げると、黒い鉱石の中にまばらに存在していた白い鉱石が、まるで星のように輝いていた。
「絶景だな……」
少し蒸し暑いことを除けば、良い夜だと言える。
バルコニーから顔を出し、街の風景を見渡してみる。
大小様々な大きさの人が通りを行き交っている。
行き交う人々の会話に耳をすましてみると、
「明日、奇跡の少女が現れるんだよね」
「お店、結構閉店するらしいよ。無理もないよね。今話題の少女だもん」
「奇跡の少女が現れるのは場所は王城の庭だっけか」
その言葉を受けて、顔を右に向けて一際目立つ建築物へと視線を向ける。
赤い宝石を基調とした、3本の塔伸びている特徴的な城。
紅く煌々と光るこの城は、この国に入ってまず目に入った。
そんなことを考えていると、
「……ヒロト。私は寝ます。おやすみなさい」
後方から声をかけられた。
振り向くと、そこに居たのは黒髪の小さな背の少女、ユリ。
「あぁ、おやすみ……。あぁ、その前にちょっと聞かせてくれないか」
「……? はい、わかりました」
なんのことだろう、とユリは一瞬首を傾げながらも頷いた。
「明日さ、もしかしたら奇跡の少女の力でユリは笑顔になれるかもしれない。どんな原理かは分からないけど。例えば……そうだな、奇跡の少女の喜びの感情が、俺らの中にも入ってきて笑顔になるとか、そんな感じかもしれない」
自分で口にしながら、なかなか素っ頓狂なことを言ってるなと思う。
「そんなことあり得ません。他人感情が自分に流れ込んでくることなんてあり得ません。他人と自分とは何の線も繋がってないんですから」
少し早口で、正論を並べるユリ。
「あくまで、それは例えだけど……」
「ヒロトは、随分と奇跡の少女を疑っているんですね」
ユリはこちらに一歩踏み込んだ問いかけをしてくる。
あいも変わらず無表情のままで。
ヒロトは頷く。
「ずっと胡散臭さが拭えないんだ。だから、そんな少女のもとにユリを連れてっていいのか迷ってる」
「ありがとうございます。けど、せっかくここまで来たので私は見ます。では、おやすみなさい」
そう言ったあとにユリは丁寧に手を重ねてからお辞儀をした。
「……」
ユリの立ち去る背中を眺めたあと、バルコニーの手すりに肘をつき、ヒロトはため息をついた。
なんで、こんなに嫌な予感がするのか自分でも分からない。
胡散臭さはある。けど、なんで俺は……。
結局モヤモヤが取れることはなく、ヒロトは眠りついた。
その時の眠りが浅かったのは言うまでもない。
ーー翌朝。
眠たい目をこすりながら、服を着替えて部屋を出る。
すると自分が一番遅く起きたようで他3人は既に準備ができてそうだった。
……ってロージュも!?
髪も整えて、優雅に紅茶を飲んでいるロージュを見つけ、驚嘆の声を漏らすヒロト。
すると、ロージュはヒロトの反応を受けて、得意げに鼻を鳴らした。
「ふふふん、ヒロト。今日はお寝坊さんだったな。まぁ! 私はもう起きていたがなっ!」
勝ち誇ったような顔がムカつくが、ロージュが自分よりも早く起きていたのは事実だ。
起こしたのはリーボンさんだろう。
あのメイさんでさえ、起こすのに手こずるロージュをどうやって……と答えを求めてリーボンさんを見る。
すると、リーボンさんはその問いに答えるかのように、何かを取り出した。
その何かを見た瞬間にロージュは青ざめる。
リーボンさんが持っていたのは……大量のミミズが入った透明な箱だった。
……どのようにして起こしたのか、これ以上言及しないことにしよう。
ヒロトはさっと顔を洗い、髪を整えてバックを背負う。
「……ヨシッ! じゃあ、行こうか」
「行ってらっしゃいませ。場所は王城の庭園です。大通りを進み突き当たりに王城があります。では、良いお時間を」
丁重に頭を下げるリーボンさんと別れ、4人は大通りに合流する。
大通りには既に多くの人々がごった返しており、昨日に比べると、ドワーフ以外にも多くの種族が城に向かって歩いていた。
おそらく、奇跡の少女目当ての旅行者だろう。
人混みに紛れて、4人も城へと向かう。
歩いて数分、城門に着くと門番からは招待状を見せるように言われる。
アクシスさんから貰った紙を見せると、門番は短く「通れ」と言った。
城門を抜けると、右に曲がるように誘導され、ツルやツタなどが幾何学的に伸ばされ、まるで植物のトンネルのようになった道を進む。
そして、トンネルを抜けた先にあったのはーー巨大な庭園だった。
ここからでは全容を把握できないほどの大きさで、中心には巨大な白い噴水が設置されており、そこから十字路に通路が伸びている。
通路のそばには様々な花壇が設置されており、赤や青、黄色といった様々な種類の花が鮮やかに咲いていた。
そして、その庭園を囲うようにして格子状のフェンスが設置されており、人々はフェンス越しに庭園の中をのぞいている。
城の従者らしき人物が、「庭園の中には入らないでくださいー。フェンス越しで、奇跡の少女をご観戦ください」と大声で何度も注意を上げている。
「……奇跡の少女は、ここで何をする気なのだ?」
ロージュが疑問を口にする。
「奇跡、を見せるんだろ」
適当な相槌をうち、4人は人の少ない場所を発見し、フェンスの前に立つ。
「ユリ、見えるか? 肩車するか?」
「いえ、不要です」
「そっか」
端的に断られ、ヒロトは少し悲しげな表情を浮かべながらも時間を確認する。
「もう少しで始まるんじゃないか?」
「うん。もうそろそろだと思うよ」
周囲の人々も少し浮足立っているのか、落ち着かない様子でキョロキョロと周囲を見渡している。
少しいつ始まるんだと、ソワソワし始めた、その時だった。
庭園の中を照らしていたスポットライトが消灯、周囲が一瞬にして真っ暗になった。
「キャッ!? 何!?」
突然の暗転に驚き、人々の喧騒が大きくなる。
演出だと疑う人が大半であったが、一部の人が不安の声を上げる。どこからか赤子が鳴き声が聞こえた。
そんなとき、どこからか鈴の音のような、少女の声が聞こえた。
『皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。初めまして。私は奇跡の少女と言います。私の奇跡をお見せする前に、少しお話をさせてください。私の持つ力はーー皆さんを笑顔にする能力です。どんな悲しい人間でも、どんなに辛い境遇にいる人物でも、私は笑顔にすることが出来ます。皆さんは、普段心の底から笑えていますか? 面白くもないのに、悲しいのに、周囲に笑顔を振りまいていませんか? それは残念ながら偽りの笑顔です。私は、この世界を本当の笑顔で包み込みたいのです。それでは、お見せしましょうーー。奇跡の力を』
プツリと音声が途切れ、スポットライトが庭園の入り口を照らした。
皆の視線がその光の先へと誘導される。
そして、扉が開き、庭園の中へとなだれ込んできたのは……血だらけの冒険者たちだった。
「キャーーーーーッ」
女性の悲鳴が上がる。
血だらけの冒険者たちは相当重症なのか、噴水に辿り着く前にバタバタと道に倒れていく。
ヒロトはぎゅっと拳を握った。当然、怒りからだ。
「……これも演出か? 趣味が悪い」
吐き捨てるようにヒロトは呟いた。
この反応はヒロト以外の3名も同様で、顔に動揺や憐憫といった表情を浮かべていた。
そして、ここから奇跡の少女の力を目の当たりにすることになる。
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