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八馬大国に到着!


 八馬大国は一人の職人から始まった国である。

 平原に太古から存在していた、半径1キロを超える巨大な黒い球体。

 宇宙から飛んできた隕石なのか、それとも地下から浮き上がってきたのか、出自不明の謎の球体の物質は鋼鉄以上の固さを誇り、削ることも出来ない人々はその球体を避けるように生活していた。

 だが、とある男が鉄のピッケルを片手に「俺に掘れないものはない」と豪語する。

 誰もがその男の発言を真に受けず、鼻で笑っていたのだが、その男は黒い物質を鉄のピッケルで掘っていったのだ。

 他の人間が同じピッケルを持っても黒い物質は削れもしない。

 だが、その男が鉄のピッケルをもてば簡単に黒い物質は崩れるのだ。

 道具ではなく、その男の技術が異常なんだと人々が気づくまで時間は要さなかった。

 次いで男は、この黒い球体の中に世界一の鍛治屋を建設すると豪語した。


 その男の名はヤマ。

 その男への敬意として、ここは八馬(ヤマ)大国と呼ばれているのだ。 

 10年後、ヤマが立ち上げた鍛治屋を中心に人が集まっていき、やがてそこは国と呼ばれるまで成長をした。


「なんだ、あの黒い球体は……」


 八馬大国に近づくにつれて、唖然とするヒロトの反応も無理はない。

 真っ黒の物質が地面から500m上まで空に向かって天高く伸びており、馬車が球体に近づくほどその大きさに圧倒される。

 そして八馬大国は、この球体の中に存在しているのだとライミは言う。


 球体の近くで馬車が止まり、ヒロトたちは数十時間ぶりに地面に足を付ける。

 宿を出てから10時間近く移動をしていたのだ。乗っているだけとは言え、慣れない揺れに体力を持って行かれたのか、体は疲労困憊と言える。

 だが、黒い球体に対する好奇心が体を突き動かし、ヒロトは黒い球体に近づく。

 こうして近づいてみると、球体というよりも、ただの黒い巨大な壁である。

 そっと黒壁に触れてみると硬さは当然のこと、なぜか少し暖かかった。

 そして遠目からはただの漆黒の闇のような真っ黒な見た目であったが、こうして近づてみると人の拳大くらいの白い結晶がまばらに埋め込まれていた。


「この中に国があるのか……? なんだか、信じられねぇな」


 そうヒロトが呟くと、知らぬ間にロージュが後ろにいたようで解説を始めた。


「本当なのだ。この黒球の中は空洞になっていてな、多くのドワーフが生活しているのだ。国民性としては、気難しい職人気質の人が多いらしい。少しこの球体が温かいのもな、中で人々が火を使って鍛治をしている熱が伝わっているのだとか」


「……すげぇな、色々と。早く中に入ってみたい」


 すると、タイミングよく「通行証が承認されたよー」とライミの声が響く。


「では、入ろうか」


 ヒロトは期待に胸を一杯にしながら、八馬大国へと足を踏み入れた。


 ***************


 黒い球体の中に入り、まずは蒸し暑い空気に顔をしかめた。

 まるで窯の中にいるような暑さだ。

 入って数秒、全身から汗が噴き出してきた。


「……暑い」


 そう呟くと、ライミから飲み物を渡される。


「入口の近くは高いから、特に暑いみたいだよ。服がべとべとだよ……」


「さっさとアクシスさんに言われた場所に移動するか」


 その提案に3人はすぐさま首肯する。

 ちらりとユリの様子を伺うと、相変わらず無表情であった。特段、この熱気のこもった空間に対しても不快感を持っていないようだ。


 アクシスさんに言われた場所へと向かうため、4人は足早に入口から降りて大通りを進んだ。

 大通りを歩きながら、周囲の人々の様子を伺う。

 すれ違う人々のほとんどが、身長はそこまで高くないが、体躯が太くゴツイ。

 長い髭を生やしているものも多く、耳が尖っている。

 恐らくこれらがドワーフといった人種の特徴なのだろうと推測できた。


 大通りを歩いて数分、大通りから一つ外れた路地を進み、4人は立ち止まった。

 目のまえの豪邸を見ながら、ヒロトは本当にここで良いのかとアクシスさんからの地図と現在地を見比べる。


「流石は貴族の紹介……。デカすぎねぇか」


 ヒロトたちの前にある豪邸は、大きさは勿論のこと風貌は白い建材を基調としており、他の建物が赤や黒を基調としている中では異質の存在のように目立っていた。

 大きさに圧倒されるライミ、無表情のユリ、平然としているロージュ。

 それぞれが異なる反応をしているとき、メイド姿の女性が顔を出した。


「あぁ、ロージュ様とそのご友人の方々ですね。お出迎えできず、申し訳ありません。この国は暑いでしょう。中は冷えていますから、どうぞ中にお入りください」


 中は冷えている、そのワードだけで有無を言わさず屋敷へと身体は吸い込まれていく。


「お言葉に甘えます。ちなみに、ここは……アクシスさんにとってどのようなお家なんですか?」


「ただの別荘でございます。あまりアクシスさんはいらっしゃらないので、メイドも私一人でございます」


「ただの別荘……なのにメイドは常に雇っているのか」


 色々と過ごしてきて思うのは、アクシスさんは常識人のように思えて少し金銭感覚がおかしい。

 だが、そのおかげでこうして異国で優雅な暮らしが提供されるのだから、ありがたいことこの上ない。

 

「おじゃまします……」


 一人でこの別荘を維持している、メイドさんの名前はリーボンさんというらしい。

 一応、メイさんの親戚らしいがメイさんの面影はあまり感じない。

 リーボンさんの言う通り、屋敷の中は冷やされており、久しぶりに深呼吸をしても肺が熱くない空気に感動する。

 リーボンさんは気をきかせて、既にお風呂も沸いていると言い、ロージュとユリは大喜びで風呂場へと向かった。

 ちなみに、その際にロージュはライミを風呂に誘っていた。ライミは普通に断ったが、それを受けて不思議そうな顔を浮かべるロージュが面白かった。

 そういえば、ロージュにライミが男とは一言も説明していない。

 確かにこの容貌を見て、男だと察するのは無理だろうしなぁと思いつつ、面白かったのでロージュの誤解は解かずにそのままにしている。


 ロージュとユリが風呂に入っている間に、ライミが一枚の紙を持ってヒロトの隣に腰を下ろした。


「明日だよね? 奇跡の少女がこの国に来るのは……。なんでこの国に来るのかは分からないけど……」


「この国の国王が多額の金を積んで呼んだらしい。この国は働きすぎで皆が神妙な顔をしているから、たまにはリラックスをしてほしいと」


「リラックスかぁ……。えへへ、楽しみだなぁ。奇跡の少女。どんな人も笑顔にしちゃうんでしょう? ユリちゃんも笑顔になるといいね」


 それを聞いて、ヒロトは「うーん」と唸った。


「どうしたの?」


「……あぁ、いや。そうだな、ユリには笑顔になってほしいよ。けどよぉ、理想を言えば俺らが笑わせたかった。こんな奇跡の少女だとか、よく分からん力に頼るよりも。ちなみにその奇跡の少女はどんな力を持っているか、知っている?」


「その少女を見れば、体の傷だけじゃない、心の傷まで治すんだって聞いたことがあるよ」


「心の傷……」


 ユリが無表情のままなのは、奴隷生活が確実に影響をしている。

 奴隷生活で負った心の傷がまだ癒えないのだと思う。それが治るのか。それが治るのなら、良いことなのか。

 ーー心の傷は、そんな簡単に直るものなのか? そして、治して良いものなのか?

 そこまで考えて、ハッと我に返る。

 何を言っているんだ。

 傷が治るのなら、心も体も治した方が良い。当たり前のことだ。


「まぁ、ここまで来たんだ。今更、後戻りは出来ない。明日になったら分かることだ。奇跡の少女の力の謎も、な」



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よろしくお願いします。

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