八馬大国へ向かおう
八馬大国へ向けて、ヒロト、ロージュ、ライミ、ユリの4名は馬車の荷台に乗っていた。
舗装された道を進んでいるからか、揺れは少なく快適な旅と言える。
「八馬大国までどれくらい掛かるんだ?」
「大体、二日くらいだよ。途中で馬を休める宿があるから、そこで一泊をするんだ」
ヒロトの問いにライミが答える。
「へぇ、ライミは行ったことはあるn」
「んがっ……んんん……ぐー」
ヒロトの発言を妨げるようにロージュがいびきを上げる。
隣で座りながら器用に眠るロージュを一瞥し、ため息をつくヒロト。
ライミが話を再開する。
「他国に行ったことはないなぁ。宿もお金掛かるし、冒険者を雇う必要があるからねぇ」
「冒険者を雇うのはなんで? 虚物対策?」
「虚物ってよりも、盗賊への対抗策かな。国から溢れたならず者が襲ってーー」
そうライミが説明する最中、突如として馬車が急停止した。
思わぬ急停止にバランスを崩し、座席から落ちかけたヒロト。
隣のロージュは眠っていた最中のため、踏ん張ることができずに床を転がり、壁に後頭部を激突。
流石のロージュも強い衝撃から、目を覚まし、「いたい……」と呻く。
ヒロトは前は行き、手綱を握る運転者に声をかける。
「急にどうしたんですか?」
「す、すいやせん。前方に突然馬車が現れまして。恐らくあれは盗賊です。しかも今話題のオカリベス団です」
「アクシスさんは盗賊に襲われるかも、なんて警告なかったな……」
つまり、こんなものは警告するに足らないということ。勇者を目指すのなら、これくらい簡単に乗り越えろということだろう。
ヒロトは腰の剣を抜くと、ロージュに声をかける。
「ロージュ。盗賊が出た。倒すぞ」
後頭部を抑えながらロージュは立ち上がると、頷いた。
ロージュの剣の輪郭が赤く燃える。
「あぁ。分かった」
「ライミはユリを守るためにここにいてくれるか?」
「うん、分かった」
「よしっ」
ヒロトは荷台から降り、盗賊団の前に立つ。
盗賊団はスカーフを頭に巻き、黒白のボーダー服を着込み、手にはカトラス。
男たちが叫ぶ。
「おい、てめぇら! 貴族の馬車かぁ? 金目のもん持っていけや、女は命までとらねぇよ! ははは!」
品のない罵声。
ヒロトの隣にロージュが立つと、男たちは下世話な視線をロージュに向ける。
「おいおい、べっぴんがいるじゃねぇか! てか、なんで寝間着なんだ?」
ロージュはため息をつくと、剣を構える。
「言っておくが、私に指一本触れられると思うなよ」
ロージュは恰好の良いことを言っているが、服は寝間着のままである。
朝から眠りつづけたロージュは、当然ながら着替える時間など無く寝間着のままなのだ。
だが、その状況に突っ込んている暇などないため、ヒロトも臨戦態勢になるために深呼吸する。
意識を手放しつつ、心臓の鼓動だけは早める。
すると、すぐに髪の毛先が白ずみ、右腕に水晶体がまとい始めた。
盗賊団の下卑た笑い声が止み、動揺が走る。
その隙を逃さず、ヒロトは盗賊団の馬車に距離をつめ、荷台を持ち上げる。
「うわぁー! なんだこいつ!」
「ここには20人以上も乗ってるんだぞ!? どんな怪力だよ!」
「うらぁッ!」
ぐるりと、ヒロトは20人ほど乗っていた荷台をひっくり返す。
荷台に乗っていた盗賊団は反転する地面に耐えられず、悲鳴が上がる。
ヒロトが荷台の中に顔を覗き込むと、すでに盗賊団のほとんどが目を回しており、戦意を喪失している。
「野郎ども、かかれぇーっ!」
すると、両端から声が聞こえ茂みの中から再びボーダー服の男たちが突撃してきた。
どうやら、茂みにも伏兵を配置していたらしい。
伏兵が切りかかってきた剣を、右腕の水晶体で受ける。すぐに剣が折れ、唖然とする男の腹部に拳をめり込ませる。
うめき声を上げて倒れる男の背中から、弓矢が複数飛んでくる。
その全てを水晶体で弾くと、わずかだが水晶体が赤く光った。
どうも伏兵の数も多そうだ。一度びびらせてやるか。
腕に力を込めて、水晶体に溜まったパワーを全て放出する感じで、
「うおおおおおお!!」
声を上げながら、地面に拳を当てる。
瞬間、雷が落ちたかのような轟音と共に地面に大きな凹みが出来る。
そして、自分の足元に拳を振り下ろした俺は当然のことながら、足元の地面が消えて穴に落ちる。
「いてて、何やってんだ俺」
自分でも馬鹿だと思いながら、穴から上がる。
そして周囲を見渡すと、どうも周囲から物音がしなくなっていた。
「ヒロトの一撃で、盗賊は全員逃げだしたのだ。これほどまでに地面を抉る一撃。自分が喰らう想像をして怖気ついたのだろう」
そう言う、ロージュの足元には数十人の盗賊が転がっている。
二人で一瞬で盗賊団を壊滅させたことに、馬車の操縦士は唖然とする。
「アクシスさんから、何を見ても他言するなとは言われてましたが……驚きました。オカリベス団は、ここらへんで有名な盗賊です。それを二人で撃退するなど……。ロージュ様もお強くなりましたな」
「いや、まだまだだ。私はもっと強くならなければならないのだ。炎の眷属を目指すのなら、こんなものでは足らないのだ」
「大きくなられましたなぁ」
昔馴染みのつき合いなのだろう、操縦士が感嘆の息を漏らす。
褒められたロージュは満更でもないのか、得意げな表情を浮かべて意気揚々と歩き始めた。
そしてーーそのままカッコイイままで終わるはずがなかった。
木の枝にロージュの寝間着が引っかかり、ビリビリという音とともに服が破ける。
一瞬にして、ロージュは下着姿となる。
「う、うわぁーーーッ!」
悲鳴を上げるロージュ。
一瞬にして顔が紅葉し、両手で自分の体を隠す。
そして、奇妙なことにーーロージュが発火しはじめた。
「は?」
下着姿に見惚れるというよりも、目も前の現象が理解できずに呆然とロージュを見るヒロト。
すると、操縦士がため息まじりに言った。
「ロージュ様……羞恥心を感じると発火する癖、まだ治ってないんですね」
え? そんな発火癖なんてあるの?
じっとロージュを見てみると、耐火性のある下着なのか全く燃えてない。
すると、なぜかロージュがより発火し、周囲の温度が上がる。
「あ、あまり、ジロジロ見ないでくれ、ヒロト! 恥ずかしすぎて顔から火が出そうだ!」
「顔どころか体から火吹いてんじゃねぇか! 顔から火が出るって比喩じゃないことあんのかよ!」
「わぁぁ〜! 恥ずかしいから早く荷台に戻ってくれぇ! 火が止まらない!」
……そうして30分後、普段着を身に纏ったロージュが荷台に戻ってきた。
体をしゅんと萎ませて、一言。
「色々とすまぬ……」
「いや、いいよ」
ちらりとライミの方を見ると、当初の憧れはどこか遠くに行ったようで、苦笑していた。
その後、宿に一泊。特にハプニングが怒ることもなく、一向は八馬大国へとたどり着いたのだった。
ストレスは心と体を乖離させる、恐ろしいものだと最近初めて知りました。
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