八馬大国へ行かないか!?
今回ちょい短いです。
ロージュのさながらプロポーズのようなものを受けたヒロトは、その足でユリの元へと向かった。
向かう道中、ロージュがなぜあんなプロポーズのようなことをしたのかと考えてみた。
結論が出た。
あいつ、恋愛物語を読み過ぎたのだ。
多分あのようなシーンが乗っていて、大事な宣言をするときに使うのだと勘違いしたのだろう。
……うん、俺もロージュのことをちょっとずつ分かってきたな。
考察を終えると、丁度ユリの部屋に着いた。
コンコン、と部屋をノックするとドアノブが下がり、小さな黒髪の少女が顔を出す。
改めてユリをじっと観察する。
細い体躯に、小さな顔。だが目は丸々としており、髪はクセ毛があるのか、ところどころ髪が跳ねている。
そして面白いことに前頭部の髪の一部だけが異常にクセが凄く、跳ねた髪がそりかえり、毛先が前頭部に触れている。
「2番。用事がないのなら帰ってくれませんか?」
突き放すような冷たい言葉で、ヒロトは意識が戻される。
誤魔化すように、ヒロトは頭をかいた。
「あぁ、悪い。えっと、伝えたいことがあってさ。今いい?」
「はい」
端的に答えるユリ。
相変わらず表情は鉄仮面のように変化はない。
それに自分のことを今も「2番」と奴隷の時の番号で呼ぶ。
ヒロトで良いと言っているのに、「違和感があります」と言われ、呼び名は2番のままだ。
ちなみにロージュやメイさんには「ロージュさん」「メイさん」と言っている。二人がそうお願いすれば、ユリはすぐに承諾していた。
ヒロトは腕を組み、一つの結論にたどり着いた。
ーーどう考えても俺は嫌われているのではないだろうか。
アクシスやロージュはユリが俺に一番懐いていると言っていたが、とてもそうは思えない。
「2番。早く要件を述べてください」
小さい子に急かされる、青年の図。
情けないな、と思いながらもヒロトはようやく本題に入る。
「奇跡の少女ってのが、隣国に来るんだ。そんで、アクシスさんが良ければ俺たちに行かないかって。ユリはどうしたい?」
「……どうしたい、ですか」
ユリは元々無表情だった顔が、動きを止めた。
どうやら悩んでいるようだ。
数秒間が空き、ユリは答える。
「すいません、分かりません」
その答えでヒロトは何となくユリが何で悩んでいたのかを察した。
ユリは奴隷生活が長かった弊害なのか、自分の意思が何なのか分からくなることがあるのだ。
……さて、どうしたものか。
無理強いは良くないが、行きたくないと言ってる訳でもないしなぁ。
ヒロトが悩んでいると、ユリが少し顔を上げて言った。
「ヒロトは、どうして欲しいですか? 言って欲しいですか?」
予想外の角度の質問に驚きながら、ヒロトは素直に答えた。
「俺? そりゃあ、ユリと、一緒に行きたいよ」
すると、ユリが少し自分のクセ毛に手を伸ばしいじり始めた。
そしてゆっくりと頷いた。
何か今表情が緩んだ気がしたが、気のせいだろうか。
「……分かりました。では、行かせていただきます」
「へ、おぉ……」
「他に用事はありますか?」
ユリの表情に変化が起こったのかと思ったのも束の間。
気がついたらユリは鉄仮面をつけて、いつもの無感情な口調に戻っていた。
「いや、以上だよ」
「そうですか、では失礼します」
話が終わるや否や、ユリはパタンとすぐに扉を閉めた。
閉じられた扉の前で、廊下の冷気に晒されながら俺は心の中で呟いた。
……どう考えても懐かれてなくね?
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時は1時間後、ヒロトは下町に向かってライミの家の前に立っていた。
要件は当然、ライミを誘うためだ。
家の前にあった呼び鈴を鳴らすと部屋からまつ毛の長い高身長の女性が玄関を開けた。
「あら、あなたはヒロトさんね。ライミを探しにきたの?」
「はい」
恐らくライミの母親だろう。
目元とかがそっくりだし。
初対面で俺のことが分かったのは、偽勇者として認知していたからだろう。だが、特に警戒している様子はなかった。
「ごめんなさいね、今向かいのおばあさん家に行ってていないの。もう少しで戻ってくると思うけど」
「あ、ヒロト君。どうしたの?」
ライミの母の説明と被るように、ライミが現れる。
前見た時よりもフリルや装飾が増えたスカートを履いていることに気づいた。
ヒロトの視線から察したのか、ライミは嬉しそうに自分の履いているスカートの説明をする。
「これはね、向かいのおばさんに貰ったんだー。おばさんも昔スカート好きだったみたいでね、沢山くれたの。それで何の用? クエストのお誘い?」
スカートの裾を掴みながら、鼻歌まじりにライミはくるくるとその場で回る。
前まではスカートを周囲に見せることに抵抗がありそうだったが、今は楽しそうだな。
「今度さ、奇跡の少女ってのが八馬大国に来るんだって。それを見に行かないかって誘い。もちろん費用はシース家が出す。2泊3日」
「えっ!? もちろん行くよ! 奇跡の少女かぁ、見たかったんだよね」
二つ返事で快諾。
ライミは緩んだ両頬に両手を当てて、嬉しそうに笑う。
「ライミも奇跡の少女を知ってるの?」
「うん。聞いたことあるって人は多いんじゃないかなぁ。万病を治すらしいね」
やはり俺が知らないだけで知名度は高いようだ。
「うわぁー、嬉しいなぁ。どのスカート持っていこうかな」
浮足立つライミ。
正直ライミは用事がない限り、断らないと思っていた。
じゃあ、メンバーは決まったな。俺と、ロージュとライミ、ユリの4名か。
まぁこれ以上知り合いもいないけど。
……頭のどこかでルーナという少女が飛び跳ねた気がするが、気のせいだろう。
そして、二日後。
シース家の早朝に馬車が到着する。
現れたのは4名。
朝に強いのか、髪まで整えておしゃれなスカートを履いたライミと。
相変わらず無表情だが、きちんと寝ぐせなどは治し、白いワンピースを着こんだユリ。
未だに鼻提灯を膨らませ、着崩れた服のまま眠りながら立つ女、ロージュ。
そして早朝ロージュを起こしに行った結果、複数回殴られた被害者、神崎ヒロト。
腫れた顔の状態で、ヒロトが手を上げて言った。
「じゃあ、各自馬車に乗り込もうーー」
ライミはちらりと半目状態で、鼻提灯を出しているロージュの方に目を向けると、
「なんだがヒロト君が言っていたことが分かった気がするよ……」
と少し残念そうに呟いた。
ロージュがオチとして使いやすすぎる。
ブクマ、高評価していただけるとモチベが上がります。




