奇跡の少女
ある日、アクシスさんに呼ばれてロージュとヒロトは主室にいた。
何の件かと尋ねると、ユリの件だとアクシスさんは答えた。
「ユリちゃんが、少し心配でな。ずっと屋敷にこもったままで、外に出ない。だが外に出なければ気分転換にもならないだろう。もっと外で遊んでほしいが、それを強要するのも違う気がしてな。そんな時に、これだ」
そう言ってアクシスは一枚の髪を書斎机の上に置いた。
ロージュが立ち上がり、その紙を手にし、ヒロトとロージュの間に紙を置く。
ヒロトはその紙をみると、デカデカと大きな文字で『奇跡の少女、現る!』と書かれていた。そしてその文字の下には少女らしきシルエットと、白い花がイラストとして書かれていた。
「奇跡の少女ってーーなんですか?」
アクシスに疑問を投げかけながら、ヒロトはちらりとロージュを伺い、「知ってる?」と目で聞く。
するとロージュは小さく頷いた。
アクシスがヒロトの問いに答える。
「この世界の救世主、と呼ばれている少女のことだよ。その紙にも描かれているだろう?」
「シルエットだけですけどね。顔は描かれてないや」
「素顔は誰も知らていないんだ。そんな彼女が奇跡の少女と呼ばれているのには当然理由がある」
ヒロトは思案する。
奇跡の少女と呼ばれる少女は、どんな人なのだろうか。
例えばとても綺麗な人とか? 世界一美しい人で、誰もがその美貌に目を取られ、良いものを見たと幸福を感じるような少女なのだろうか。
いや、それとも宝石を生み出せる少女だとか?
様々な答えが一瞬のうちに脳内を巡ったとき、アクシスが答えを口にした。
「その少女を見れば、周囲の人々を自然と笑顔になるらしい。そして、どんな病気も治るだとか。実際に医者から不治の病と言われていた青年も治ったのだとか」
「……はぁ」
思わずため息のような相槌を打ってしまった。
全くもって具体性がない。加えて、どんな病気も治るとは眉唾感が半端ない。
ちらりとロージュの様子を伺う。
ロージュも口を尖らせて、目を細めていた。
どうもロージュも同じ感想を抱いてそうだ。
「それは……魔法ですか? その少女が凄い回復魔法の持ち主だとか?」
「まぁ、魔法だろうな。回復魔法かどうかは分からないな。詳細は公表されていない」
「それは、どんな感じの魔法なんですか? 少女を見ると治るって魔法ですか??」
「分からない」
「へっ」
「分からないんだ。誰も詳細を語らないんだ。いや、正しくは語れないというべきか。少女が現れたところまでは多幸感に包まるらしいが、誰もそれ以上は思い出せない。だが傷ついた体は治っているのは確からしい。少女によると、それは奇跡の力らしい」
「はぁ……」
早くも本日二度目のため息のような相槌。
胡散臭さが一気に上がった。もともと天井まで達していたのに、その天井をぶち抜いた。
その少女を見たものは多幸感につつまれる、かつ傷口も治る。
だがその手口は一切分からない。
それは皆が記憶喪失になるから。
ここまで聞くと怪しさしかない。
「それで、この奇跡の少女がユリとどう繋がるんですか?」
改めて冒頭の話題へと戻る。
「あぁ、ユリちゃんはずっと屋敷にいるだろう? それでな、このイベントをキッカケに外に出た方が良いかと思ってな。それにな、奇跡の少女と会えば何かユリちゃんにも好転するのではないかと思ったんだ」
「まさに奇跡に縋ろうというわけですね」
「正直申し訳ないと思っているんだ。子供一つの笑う居場所も作れないことにな。他国にはなるが、行ってくれないか? もちろん泊まる場所も用意するし、ご飯だって用意しよう。人数は誰を誘ってくれても良い」
ずっと黙っていたロージュが手を上げた。
「どこの国なのだ?」
「八馬大国だ。ドワーフの多い国だな。勇者の剣を作ったとされている国だ。そうだ、勇者パーティの炎の眷属、ウルーガがいる国でもある」
「炎の眷属?」
聞き慣れない言葉で、ヒロトは疑問を口にする。
炎の、というなら水の眷属もいるのだろうか。
「あぁ、勇者パーティは勇者と7人の眷属で構成されているんだ。そのうちの一人だ。つまり、簡単に言うと世界で1番の炎魔術師ということだ。今勇者が昏睡中で、それぞれの眷属も自分の国へ戻ってるんだ」
案の定、水の眷属もいるし風や土、光の眷属もいるようだ。
そしてその炎の眷属がいるのがドワーフの国で、勇者の剣を作ったと。
おおお……異世界っぽいな。
うん、この世界に来て初めてと言っていいくらい世界観にワクワクしてきた。
これまでの異世界転生生活を一言でまとめると「世知辛い」だけだったからな。
世知辛いことなんて、元の世界で十分味わったわ。
「それで、結局八馬大国には行くと言うことで良いか?」
もちろん、断る余地なし。
ヒロトはすぐに高速で頷いた。
ロージュは少し目を泳いだが、結局こくりと頷いた。
二人の合意を取ったアクシスは話を続ける。
「分かった。あ、そうだ。このことをユリちゃんに伝えといてくれ、ヒロト君」
突然の名指しにヒロトは驚愕する。
「えっ、俺ですか? 別にいいですけど、なんで俺?」
「そりゃあ、ユリちゃんが一番なついているのがヒロト君だからだよ」
何を今更、と言わんばかりに俺の質問に対して逆にアクシスさんが少し驚いている。
ロージュのほうに目を向けると、同調するように首肯する。
「はぁ、まぁわかりました」
ユリが俺に懐いている?
全然会話をしていても、生返事ばかりで嫌われているのかと思うことがあるほどだが。
その後、アクシスさんから二日後に馬車が来るからそれまでに準備しといてね、と言われて解散となった。
部屋を出て、ロージュと廊下を歩きながらヒロトは他に誰を誘おうかと悩んでいた。
アクシスさんはだれを誘っても良いって言ってたよな。やっぱり、ライミは誘いたいな。他に誘うとしたら、ルーナ? いや却下。うん、あいつを馬車に乗せると煩いだろうし、嫌だな。
ってなると、八馬大国に向かうメンバーは俺とロージュと、ライミの三名かな?
あ、そういえばロージュにも誘いたい人はいるかな?
「ロージュ、ロージュが誘いたい人ってだれかいるか?」
くるりと振り返り、ロージュに問いかける。
するとロージュの表情が少し暗いことに気づいた。眉をよせて神妙な顔をしている。
「どうした、何か悩んでる? あまり八馬大国に行きたくない?」
そういえば、さっきもアクシスさんから八馬大国に行くかと聞かれた際、少し間が空いてから頷いていたな。
もしかして、あまり八馬大国が好きじゃないとか?
そんなことを考えていると、ロージュは慌てて顔の前で手を振り否定を表現する。
「いや、行きたくないわけじゃない。行きたいのだがーー、なんというか今更のことに気づいたというか、私はどうもウルーガ殿が苦手なのだ。だが、そうも言ってられないなと思っているのも事実なのだ」
「ーー?」
なんかいくつか飛躍していて、まったく話が見えてこない。
ウルーガってさっきアクシスさんが言っていた、炎の眷属のことだよな?
俺が困った表情から察したのかロージュが慌てて補足を口にした。
「す、すまない。始めから話そう。ヒロトはさ、勇者を目指すのだろう?」
ロージュは上目遣いでジッとこちらを見つめてくる。
そして正直この問いは答えが詰まる。
お世話になっているアクシスさんのお願いだから、真剣に目指すのであって、俺は自分が勇者になりたいと思っているわけではない。
いやまぁ、結局勇者を目指すことには変わらないかと思い、ヒロトは首を縦に動かした。
ロージュは俺の反応を受けて言葉を続けた。
「うむ。その時、私も思ったのだ。私は炎の眷属を目指したいと。転生当初、私はヒロトとパーティを組みたいと言った。その気持ちは今も偽りではない。私はヒロトと冒険に行きたい。だが今の炎の眷属はウルーガ殿だ。私はウルーガ殿を越えなければならない」
真剣な眼差しでロージュは言う。
なるほど。俺は俺で勇者ルーシェを超える必要があるが、ロージュが超えるべき対象は現・炎の眷属ウルーガなのか。
「だが、改めてウルーガ殿の名前を聞いたら萎縮してしまってたんだ。情けない話だ。確かに彼は天才だ。だが、諦めたくはない。私はヒロトの勇者パーティの一員になりたい。ーーヒロト」
すると、突然自分の手をロージュが掴む。
突如現れた柔らかな感触と温もりに驚いていたところ、手の甲にもっと柔らかな感触が与えられる。
一瞬、状況が理解できなかったが遅れて理解する。
ロージュが片膝を地面につけて、俺の手の甲にキスをしていたのだ。
ロージュがこちらを見上げるようにして言う。
「ヒロト。私は必ず、強くなる。炎の眷属に相応しい存在になると誓おう。だからそうなった暁にはどうか、私をあなたの傍にいさせてもらえないだろうか」
真剣な眼差しでロージュは言う。
いやーーこれ立場男女逆だろっと心の中でツッコミをしながらも、どうにか動揺を隠して頷く。
「あぁ、分かった。俺も必ず勇者になってみせるよ」
その場の雰囲気に流されて、俺も思わず必ずと言ってしまった。
俺は流されやすいのかもしれない。
だが、ロージュにとっては満点の回答だったようで、満面の笑みを浮かべると、
「あぁ!」
と廊下に響きわたるほどの大きな声で返事をした。
ようやく物語の大筋に乗せれた感じ。
もっと早く
勇者パーティvs偽勇者パーティ
の構造をしたかったのになぁと後悔。




