第3章 プロローグ★
ようやく、書きたい話が始められます。
喧騒の街の中、奇妙な組み合わせの二人が歩いていた。
すれ違う人々が思わず、視線を送ってしまうような二人組。
だが、それも無理はない。
一人は2メートルを優に超え3メートル近い身長に達しており、そのくせ全身を黒装束で覆い帽子も深々と被り目元は見えない。
もう片方は逆に身長は隣の大男の半分ほどであり、さながら子供のように見える。そして大男と同様に黒装束を着ているのだ。背格好からして少女だろうか。
こんな怪しい恰好をした凹凸コンビが街を闊歩しているのだから、街の人々の興味が惹かれるのも無理がないというものだ。
「まだ時間がある。どこかの店に入って時間をつぶそう」
大男が言う。
その声は低く、周囲の空気が張り詰めるほど高圧的だった。
「せやなぁー。流石に今着いたら迷惑やろうしなぁ」
大男の隣にいる少女は対照的に高く、鈴の音のような声だった。
時間をつぶすことを合意した二人は、近くにあった店の暖簾をくぐる。
「いらっしゃいませーー」
店員が歓迎と言わんばかりに、陽気な声を上げて二人を迎える。
誘導されて、丸テーブルと丸椅子に二人は腰を下ろす。
大男には椅子が小さすぎたのか、思わずバランスを崩しそうになり「おおっ」と声を上げる。
それを見て少女がくすりと笑った。
店員が水を持ってきた。
「どれを注文します? 今日は近くでデカい魚が取れたんで、魚料理とか良いですよ」
大男は「ふむ」と少し悩むと、
「では、それで。あぁ、3人前をください。何、私が二人前いただくのです。如何せん、体がデカいものでね、燃費が悪いのです」
と、小粋なジョークを挟んだ。
店員がそれに釣られ、「ははは」と笑みを浮かべた。
すると、カウンターから怒声に近いような声が飛んできた。
「おい、いつまで注文を取ってんだノロマ! 早く飯を運べ!」
その怒声に、店員はビクリと全身を震わせると掠れた声で「しょ、承知しましたぁ」と言って、そそくさと声を飛ばした男の方へと駆け寄っていった。
どうやら、怒声を飛ばしたあの男が店主のようだ。店主は小言をいうと、店員はすぐに平伏しながら、「すいません、すいません……」と少し笑みを浮かべながら言う。
その様子を見ていた大男が言う。
「あの店員、怒られても笑ってやがる。怒られたら悲しいとか、怒りとかが湧いてくるのが普通だろうに」
「……せやな。けど、グリーン。まわりを見てみぃや。そんなもんや」
大男が周囲を見渡す。
この店には様々なタイプの人が座っていた。
男女のカップル。男二人。そして年の差のある男女。
少女はそれぞれの人たちの表情を伺い、耳をすまして会話を聞いてみる。
まずはカップル。
「ねぇ、それでさ、この魔道具可愛くない? 買って欲しいなー」
「えっ、けど、ちょっと高そうなんだけど」
「でもさ、この恰好をつけた私を見たくない?」
「えーと、それは欲しいけど」
「じゃさ、買ってよ。お願い。おねがーい」
「ええっと、は、ははは……」
男はひきつった笑みを浮かべている。
じゃあ次は男二人組。
「お前さ。もう少し魔法上手くなろうよ」
「いや、分かってんだけどさ」
「なんつーか、下手なんだよ。センスがない」
「そ、それはいいすぎだろうが、馬鹿」
「は? なんだよ、ここは俺のおごりなんだ。文句いうなよ」
「それはーーまぁ、そうだけど。折角なら楽しい話をしようよ」
「いやぁ、俺はな、お前のことを思って言っているんだ。お前さ、魔素の扱いが下手なんだよ」
「だから、その、やめろってば。ははは……」
次は年の差が50歳はありそうな男女。
最初はカップルかと思ったが、どうも違うようだ。
「いいですか? 信じるものは救われるのです」
「はい、はい……」
「この教本を買いなさい。そうすれば、あなたは救われます」
「はい、はい」
「値段は安い。20万ルピアです。安いでしょう?」
「はい。はい……えへへへ、ありがとうございます」
「いえいえ、あなたを思ってのことです」
……他にも客はいるけれど、もういいだろう。
大男がため息をつき、言った。
「なんだろうな。だーれも笑ってねぇよ。気持ち悪い」
「何を今更言ってるんや。そのために私たちがいるんやないか」
「まぁ……そうなんだけどな」
すると店員が料理を運んできた。
大きな焼き魚の乗った料理。それが3つ。店員はなんとか両腕を駆使して、一度に運んできた。
「ありがとなー」
そういって少女は魚にかぶりついた。
魚をモグモグと食べている間も、店内には多種多様な笑い声が反響し続けていた。
「魚の骨が喉に引っかかったわ……」
おえーっと、涙声になりながら少女は喉奥に手を突っ込む。
「おい、行儀が悪いぞ」
「へいへい」
大男の窘めも軽く横に流し、少女は魚の骨を取り出してお皿の上に置いた。
太い骨だ。どうりで喉が痛むわけだ。
「あははは」
「へへへへ」
「うふふふ」
店内の笑い声は絶えない。
少女は気分が悪くなったのか、青白い顔をした。
それを察した大男が急いで二匹の魚を平らげた。なんと、丸のみである。魚の骨も取らずに男は魚を曲芸のように飲み込むと立ち上がった。
「すいません、お会計」
「えっ、もうですか」
「あぁ、頼むよ。面倒なんでつりはいらん」
大男は顔色の悪い少女の肩をポンポンと優しくたたき、店員にコインを渡した。
店員はその金額を数えると、えっと声を上げた。
「いくらなんでも多いですよ」
「構わんさ。貰っておけ」
「……はぁ」
呆然とする店員を横目に大男は立ち上がると、少女の手を引き店を後にした。
店を後にするときも、相変わらず乾いた笑い声が終始響いていた。
「……変えないとな」
大男はポツリと呟いた。
そして、少女の方へ顔を向ける。
少女は口元を手で押さえながら、ゆっくりと頷いた。




