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目指す道

すいません、いつもよりも1.5倍長いです。


 神崎ヒロトは、主室で萎縮して座っていた。

 その理由は当然、アクシスさんが頭を抱えてから5分が経過しようとしていたからだ。

 ボロボロの体になって帰ってきた昨夜。

 ロージュやアクシスさん、メイさんは凄く心配をしてくれた。

 そしてそのまま何があったのかと聞かれることは至極当然のことで、素直に余すことなく起こった出来事を伝えた。この主室で。


 その結果、アクシスさんが頭を抱えてしまったのだ。

 すると、ようやくアクシスさんが口を開いた。


虚教徒(ホロウド)に邂逅して……。倒した、か。それは凄いことだが」


 すると、それに同調するようにロージュが立ち上がった。


「凄いのだ! 相手は虚物を操る存在だったのだろう!? それを倒すなんて凄いのだ!」


 興奮して鼻息を荒くするロージュ。

 メイがまぁまぁとロージュを宥めて、落ち着かせる。

 アクシスがこくりと頷く。


「そこに関しては異論はない。私の中の問題点は、虚者(ホロ)の力を悪人が使えるという点だ。とんでもないことだ」


 ヒロトは頷く。


「はい。異能を使える者があと4人いる。受付嬢の力だけでも驚異的でした。トラップに掛かると、骨になり受付嬢の配下になる。避けようがない強い力です」


「あぁ、そうだな。受付嬢一人いれば、国さえもひっくり返す。それほどの能力だ。街を壊滅させる力とは聞いていたが、やはり認識が甘かったな」


 頭をかきながら、渋い顔をするアクシス。

 ヒロトは改めて考えてみる。

 今思えば受付嬢は不意打ちを得意とする能力だったと思う。その能力でありながら、こちらを舐めて正面戦闘で挑んできた。だから勝てただけだ。

 受付嬢に慢心が無かったとすると……。

 背筋がゾッとした。

 負けていたのは確実にこちらだ。


「俺の異能の覚醒とライミのサポートがなければ、こちらが負けていました」


「どんな異能だったんだ。水晶体が右腕を覆うということは聞いていたが」


「はい。俺の異能はーー」


 そう言う途中で、見せた方が早いかと思ったヒロトは立ち上がった。

 そして右腕をめくり、目を閉じた。

 あの感覚を思い出せ。

 深呼吸をする。そして息を止める。

 そして『死』をイメージする。

 口から魂が抜けていく感覚。そして手先を冷たくする。

 けれど、心臓だけは。心臓だけは鼓動を早める。


 死んでいくのか、生きるのか境界線を綱渡りするような感じでーー。


 その瞬間、ヒロトの髪の先端が白く染まっていく。

 そして心臓がバクンバクンと脈をあげていく。目にはドス黒い静脈の血が流れ、目が黒ずんでいく。

 途端、耳の奥からパキパキと音が聞こえた。

 水晶体がどこからか発生し、右手を覆い始める。


「ふーッ。ふーッ」


 呼吸を繰り返し、心臓に空気を通し続ける。

 一歩間違えれば本当に死んでしまいそうだな、と自分でも思う。


「……これが、ヒロト君の虚者(ホロ)状態か。初めて見たな」


「はい。これがーー」


 そう受け答えをしようとした瞬間、体がふらつき、床に倒れ込む。

 その衝撃で全身の虚物化が切れてしまったようだ。

 右手の結晶が音を立てて霧散した。


「身体への負担も高そうだな。というか、いつから自由に異能が発現出来るようになったんだな」


 ヒロトは息を切らし、地面で座る。

 慌ててロージュが水とタオルを持ってきて、「大丈夫か」といいタオルでヒロトの汗を拭う。


「はい。感覚として、生と死の境界線を綱渡りで歩く感じです。そのイメージさえあれば、多分これからいつでも異能を使えます」


「それは喜ばしいことだが……同時に恐ろしいことでもあるな」


「恐ろしいこと、ですか?」


 自分が異能を発現出来るようになったのは喜ばしいこと以外の何者でもないと思っていたため、思わず食い気味に聞き返した。

 アクシスさんは冷静に答える。


「あぁ恐ろしいさ。異能は不特定多数の人を殺せる能力だ」


「お父様。ヒロトはそんなことに能力を使わないぞ」


 ロージュがフォローを入れる。


「分かってるさ。だが異能とはそれほどまでに恐ろしいとヒロト君も認識しておくべきだ。ちなみに異能の詳細はどうなんだ?」


「おそらくですが……」


 ヒロトは改めて思い出しながら、答える。


「この水晶体は特殊な能力があります。ただ、その本質はカウンターです。この水晶体はダメージを受けるとエネルギーを蓄積して、最後にそれを一撃必殺として放つことが出来ます」


「相手からのダメージとは物理攻撃か? それとも魔法もか?」


「多分、両方です。ガルフォード家では電流もこの水晶体が吸収していたと聞きました。受付嬢との戦いでは受けたのは物理攻撃でしたが」


「なるほど……」


 アクシスさんが椅子にもたれかかる。

 ヒロトは自分で能力の説明をしながら思った。

 この異能は外れだろう。

 受付嬢のような相手を骨にすると言った理外の力とは程遠い。

 ある意味良かったのかもしれない。

 そう思った時。


「やはり、驚異的だな異能は。この世の理の外の力と言われても納得だ。ヒロト君の異能も強い」


「えっ、いやいや、アクシスさん。これ強くないですよ。水晶体が覆うのは右手だけで、他の場所は普通にダメージくらいますし」


「確かに欠点も多いと思う。けど、その能力はどんな格上さえも倒せる可能性がある。ダメージを吸収し続けて、最後にそれを相手に返す。理論上、どんな敵も倒せるはずだ」


「……確かに」


「魔王さえも倒せるかもね」


 その言葉にヒロトは思わず吹き出した。


「ははは、それは無理でしょう。俺が勇者になれって言うんですか?」


 笑うヒロト。

 だが、アクシスさんはくすりともせずに真剣な眼差し、真剣な口調で言った。


「冗談ではないよ。可能性はある。それに偽勇者と呼ばれた男が、本物の勇者になる……。よく出来たストーリーじゃないか。そうは思わないか?」


「それは……まぁ、確かに?」


 一度考えてみる。

 勇者になんてなれっこないと思っていたが……一度偽勇者の烙印が押されたこの俺が再度勇者に返り咲く……。

 俺が勇者となった時の、あの国王やルーシェの吠え面を考えたら、確かにありだな。

 うん、ありだ。


 そう思いながら、相手の吠え面をみるために勇者を目指すなど、とても勇者とは程遠いなと苦笑する。

 だが面白そうだ。

 俺は立ち上がり、高らかに宣言する。


「よし、アクシスさん。決めました! 俺、勇者目指します!」


「その意気だ。ヒロト君」


「どうすれば勇者になれるんですか?」


「ギルドで実績を上げることだよ。勇者以上にね。難しいことのように思えるが、今回ヒロト君は虚教徒(ホロウド)を倒した。勇者以上の実績を出したと言っても過言ではない」


「なるほど……分かりました。流石アクシスさんです! ありがとうございます!」


 ヒロトがそう高らかに宣言をしたとき、ロージュが手を上げた。

 そして訝し気な表情を浮かべる。


「ちょっと待ってくれ、お父様。なんだか話が妙だ。ギルドで実績を上げれば、勇者になれるなど聞いたことがないぞ」


「もともと、7属性の魔法を使えるものが勇者じゃない。魔王と倒すものが勇者だ。だから、7属性を使える勇者ルーシェよりもヒロト君、君の方が実績を上げて強いことを世間に証明すれば良いということだよ」


 ヒロトは理にかなっているな、と頷いた。

 ダメ元かもしれないが、ギルドで実績を上げることは望むことだと思った。

 だがロージュはどこか納得が出来ていないのか、訝し気な表情のまま。


「……やはり、変だ。お父様はもともとヒロトが異能を使うことに反対していたはずだ。虚者(ホロ)を宿したヒロトを目立たせたくない、とも。だが今のお父様はヒロトを目立たせようとしている。話がへんなのだ。お父様、何を焦っているのだ?」


 するとロージュの問いに対して、どうやら確信をついた問いだったのか、アクシスは急に無言になる。

 そして何かを言うか言わないかを迷っているようだった。

 当初、アクシスさんが口を開かなかったのは、自分に対して呆れていたわけではなく、その『何か』のせいなのではないか?と悩むアクシスへ顔を向けた。

 

「鋭いな、ロージュ。これは……世界を揺るがしかねない事実だから、伝えることは避けたかったのだが仕方あるまい。今、勇者ルーシェは……命に別状はないが大量出血の大けがをして治療中なんだ」


「「……は!?」」


 その言葉を聞いた瞬間、ロージュは驚きの声を上げる。

 もう一人の声はメイさんだ。

 主であるアクシスに対して思わず「は?」と言うという、失礼極まりない反応をしてしまっている。

 直後メイさんは「やべっ」と言ってに口元を手で覆った。

 だが、それほどまでに勇者ルーシェ、勇者が意識不明になっているということは衝撃だったとも言える。


「だ、誰にやられたのだ!? 勇者がそのような状態になるなど、聞いたことがない」


 狼狽するロージュとメイ。

 だが一方でヒロトは二人とは温度感が違い、むしろなぜ二人がここまで動揺するのかと疑問に思った。

 むしろ、あの俺を殺したルーシェがケガを負ったのならざまぁみろと思うほどである。


「えっと、ルーシェがケガをしたのがそんなに衝撃か? そりゃあ、ケガするだろう。虚者(ホロ)と戦ってるんだから。それにあいつ剣は別世界でそんなに習ってないだろうし」


 思ったことをそのまま口にする。

 すると、メイさんがすくりと立ち上がり、ロージュとアクシスに代わりに説明を始めた。


「いいえ、ヒロト様。それはもう大ニュースです。勇者が切り傷を負うだけでニュースとなるのに、大けがなど、世界に動揺が走るでしょう。奈羅佳の国際問題にまでつながりかねません。それほどまでに、勇者とは絶対的な存在なのです」


「……なるほど」


 メイさんの解説を聞きながら、ヒロトは思い出した。

 そういえばこの世界に転生してきたときのこと。

 世界が危機に陥り、勇者が召喚されたというのに、お披露目会なんてことをやっていた。

 あの時は空気の緩みに違和感を覚えたが、今となっては理解できた。

 あの気の緩みは、勇者に対する絶対的な信頼があったからなのだ。

 勇者が召喚できたのだから、魔王は討伐したも同然ーーそう考えていたのだとしたら、納得できた。


「そして、そんな絶対的な勇者が大量出血のケガをしたーーと。そりゃあ、大問題だな。そんで、一度その勇者を騙った俺も大罪人だったってことか」


 メイさんはヒロトの言葉の前半は頷きつつも、後半に対しては頷かず、「そんなことはないですからね」とフォロー。

 流石はスーパーメイド。

 気の使いようが半端ない。気回しが凄すぎて、たまに部屋にエロ本を置いてくるのは勘弁してほしいが。

 それはともかく、ようやくヒロトもこの世界の温度感を理解した上で、次の話へ。


「それで、結局誰が勇者にケガをさせたのだ? 回復魔法でもすぐには治せないほどの重症か?」


 ーーあっ、そうか。

 そういえばこの世界には回復魔法があるんだっけ。 

 確かメイさんが回復魔法使えるんだっけか。うーん、やはりスーパーメイド。

 そんなことを考えていると、アクシスさんがロージュの問いに答える。


虚教徒(ホロウド)だ。今朝、虚者(ホロ)を狩って帰る勇者パーティの馬車を、虚教徒(ホロウド)の二人が強襲してきたらしい。どうにか撃退することは出来たみたいだが、勇者は大けがを負い、重症だ。どうもその時、勇者は魔法が使えなくなり、負わされた傷は回復魔法をもってしても傷が塞がることはないらしい。まるで時が止まったかのようにな」


 ヒロトは、いやヒロトでなくても察したことだろう。

 誰もがこの二文字を頭に思い浮かべた。


「異能」


 アクシスは頷く。


「そうだ、異能だ。この事件はーー異能を操る人間が勇者までも倒せる力を持っていることを示している。今までは勇者と魔王の戦いだった。だが、我々は認識を改めなければならない。虚者(ホロ)を宿した人間は、勇者と魔王の戦いに多いに割り込む。そしてそれはーー」


 アクシスさんがちらりと顔をヒロトに向ける。

 ロージュも、メイさんもそれに続いてヒロトの方を見る。


「ーーへ?」


 急に注目を浴びて、ヒロトは素っ頓狂な声を出した。

 そして数秒後遅れてアクシスさんが言おうとしていることを理解をした。

 

「……俺が魔王を倒せって、もしかしてダメ元ではない?」


 アクシスは当然だと言わんばかりに頷く。


「もともと、ダメ元で言っていない。冗談抜きで世界の危機だ。ヒロト君、改めて冗談でもなく言おう。これは、シース家の当主としてではない。ただ一人のこの世界の一員としてのお願いだ。ーー勇者を目指してくれないか?」


「……!」


 俺の名前は神崎ヒロト。

 勇者として転生をしたのだが、魔力がなく、しかも虚者(ホロ)とかいう人類の敵の能力を持った体に転生したのだった。

 そのせいで、偽勇者と罵倒をされ奴隷落ちも経験したが、


「まじか……」


 こうしてーー転生から一か月が経過しようというとき、俺は再び勇者を目指すこととなった。


第2章終わり。


ちょっと語りします。

主人公が偽勇者と呼ばれた時点で、勇者を目指す話にしようとは思ってました。

ただ、自分の中で周囲から偽勇者と罵倒された人間がすぐに切り替えて勇者を目指そうとする話にすると、どうも気持ち悪くて……。

かと言って虚物を宿すヒロトを勇者を目指すように周りが言うのもなーとか色々と考えていたら、なんと再び主人公が勇者を目指すように起動修正するのに47話かかりました。

ストーリーの構成も、小説の力もまだまだだと痛感しています。面白いと思っていただけるやつを書きたいですね。


ブクマ、高評価をしていただけるとモチベが上がります。

よろしくお願いいたします。


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