ライミのスカート★
帰りの二人はトカゲッピの上で死んだように眠っていた。
特にヒロト君はほとんど気を失っていたと言っても良いくらい爆睡していて、最初はコモドに揺れを抑えてもらおうと思ったけど、あまりに深く眠るから、いつも通りのスピードで奈羅佳へと戻ってもらった。
「眠い……」
奈羅佳到着後、ヒロト君の第1声がこれである。
本来ならば初クエスト達成できたね!と祝いたいところではあるが、そんな体力の余裕も当然なく、僕とヒロト君は死んだ顔で食虫植物の納品を行った。
納品を行う際、茶髪髪の女性が言った。
「あのーー、ヨリファー・リンさんをご存じですか? 今、見当たらなくて」
当然骨になりました、などと言えるわけもなく僕は「知らない」とだけ言った。
食虫植物の納品を終了し、報酬を受け取る。
報酬は5000スピア。
「うーん、安い……」
全く疲労感と費用が合っていない。
それもそのはず。
自分たちは虚物を倒したと言っても過言ではないのだ。
虚物を倒すなど、Sランク冒険者パーティがやることである。
それをCランクの僕とEランクのヒロト君の二人で倒したのだ。
もっと世間をおおいに騒がせて良いのだが、本来であれば。
しかし受付嬢が敵だったことや虚教徒の一員だったことの証明なんて出来ることもなく、依頼者もいないから、何の報酬も得られない。
「ていうか、虚教徒って何。聞いたこともないよ」
受付嬢は自分が腹部に5の数字が書かれた紋章を付けていた。
つまり、受付嬢のような存在があと4名もいるってこと……?
う~ん、とライミは頭を悩ませた。
なんだか、自分は凄いことに巻き込まれたんじゃないだろうか。
ちらりと隣にいるヒロト君へ視線を移すと、ヒロト君は大きな欠伸をしていた。
ヒロト君の方が自分よりもよっぽど騒動の渦にいそうだけど、当の本人は特段気にしてなさそうだ。
ライミはヒロトとともにギルドのテーブルに腰を下ろす。
「ヒロト君。この後、どうする? こっちとしては色々と聞きたいことはあるけど」
時刻は太陽が傾き始めている。
ヒロト君は重い瞼を必死に開けながら答えた。
「そうだよな。俺も色々と言わなきゃいけないことはあるけど、とりあえず後日にさせてくれないか。正直、俺も良く分かっていないことが多いんだ。虚物についても、自分自身についても」
「受付嬢の虚教徒については……?」
「聞いたことがある程度だよ。正直関わることなんてないと思っていたけど、ちゃんと今回の件を報告しないとなぁ。あぁ……アクシスさんに何を言われるか検討もつかねぇや。絶対怒られるよ」
そう言ってヒロト君は遠い目をしている。
ヒロト君にとっては、アクシスさんに怒られることの方がよっぽど重要なのかと思うと少しおかしかった。
「うん、そうだね。今日はもう帰ろうか。僕もスカートがボロボロだよ……」
「そうだな。また明後日とかにギルドで待ち合わせで。今度はロージュも連れていくよ」
「ロージュさんかぁ……。近くで見れるなんて光栄だなぁ」
ライミのその反応に、少しヒロトは目を丸くする。
「あいつ、そんなに有名なの?」
「あ、あいつって……勿論有名だよ。女性初の上級騎士だもん」
「そーなのか、あいつが……あんな涎垂らしてんのになぁ」
ヒロトはしみじみと何かを思い出すように言う。
……どうも一緒に暮らすからこそ知れる一面もあるようだ。
「まぁ、とにかく今日は解散しようか」
「そうだなー」
「また明日」
「あぁ、またな」
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帰路を歩く。
道行く人がジロリジロリと僕に視線を送る。
無理もない。
スカートがボロボロで、泥だらけだ。
僕は頭を掻こうと手を伸ばし、頭髪にも泥がついてることに気づいた。
「早く風呂に入りたいなぁ……」
冷たい風に煽られること10分。
ようやく家に着いた。
「ただいまー」
「おかえり。……って、あら。泥だらけじゃない」
ママが心配そうな声を上げる。
「うん。お風呂入ってきていい?」
「えぇ、勿論」
泥だらけでボロボロのスカートを脱ぐ。
改めてひっくり返したりして、全身を眺める。
枝毛とかに当たりまくっていたからか、いろんなところに傷が入っているし、ぬかるんだ地面を蹴っ飛ばして走ったから白かった靴下までも茶色くなっている。
「靴下は捨てて……うーん、スカートはどうしようか。とりあえず洗おうか」
水桶に水を溜めて、スカートを軽く漬ける。
面白いくらいに水が茶色になり、ライミは苦笑した。
「あーあ、これすごい高いのに。泥だらけになっちゃったよ」
この前までだったら、泣いてたかもな。
あの時、僕にとっての世界はスカートだけだったから。
可愛い格好をすることだけが、僕の生き様だった。
「今は……スカートだけじゃなくなったってことなんだろうなぁ」
今はスカートと、友達がいる。
それに自分もいる。
「なんたって、僕は虚教徒を倒したんだから! 僕の世界も、僕を無視することは出来ないでしょう? ……虚教徒ってなんなのか知らないけど」
汚れを落としたスカートを持ち上げる。
クシュンッとくしゃみが出た。当然か。半裸で洗っていたのだから。
ライミは軽く体を流して、暖かいお湯へと体を投げ込んだ。
「はぁーーー、良い湯だなぁ」
湯気がたちこもる浴室で、ライミは目を閉じた。
今日は色んなことがあったなぁ……本当に、ありすぎたくらいだけど。
ふと、受付嬢の言葉を思い出した。
『肌の色や、髪の色、角の有無だけで殺される人がいる! この世は狂ってるの!』
あの言葉が頭によぎった。
ヒロト君は、狂った殺人者の言葉と吐き捨てていた。
でも、僕にとってはそう簡単に捨てられる言葉じゃなかった。
男がスカートを吐くことで、白い目で見られる。
この世界は狂っているのだろうか。
受付嬢は見た目で判断する世界がおかしいと叫んでいた。
理解は出来る。ちょっと賛同も出来る。
全てを骨にしたいとはとても思えないけど。
僕は思う。
「おかしくはないんじゃないかなぁ……」
誰だって外見で判断するものだ。
見たことない人を見ると、怖がる。警戒する。
それは至極当然のことではないか。
僕だって変貌したヒロト君を見て怖かった。最初は怖かった。
僕は湯船から上がり、スカートを物干し竿につらす。
欠伸をしながら、パジャマを着込む。
リビングから声が聞こえた。パパの声だ。
「ライミー。飯だぞぉ、今日はどんな冒険をしたのかおしえてくぇ」
「うんー」
もう、パパとママはスカートを履くことに何も言わない。
重要なのは、見た目で判断しないことじゃない。
見た目で得られることが全てじゃないって、ほんの少しでも知ることだ。
そして、勇気を出して他人に対して一歩踏み出すことだと思う。
ヒロト君は他人からの視線に対して、無視すれば良いと言った。
けど僕は臆病だから、そんなことはできない。
出来ることは僕を知ってもらうように努力をすること。
そうだ。
近所のおばあちゃん。僕に対して気持ち悪いと言ったあの人に会いに行こうか。
そして、スカートの良さを熱弁してやろう。
僕がどれだけスカートを好きかを伝えてやろう。
そうすれば、気持ち悪いなんて思わなくなるんじゃないだろうか。
ライミは明日スカートを買いに行こうと決意をし、
「パパ、ママ。お腹減ったー」
そう言って、陽気に一歩踏み出した。




