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地獄3年


「神崎ヒロトォォォォ!」


 怒りに震えた受付嬢が吠える。

 再びヒロトの視界から受付嬢が消える。

 ヒロトは目を閉じて耳を研ぎ澄ます。

 どうせ見えないんだ。視覚ではなく、それ以外の感覚で研ぎ澄ます。

 一瞬、右側から音がした。

 すぐにヒロトは右手を上げて左側頭部を守る。

 直後、衝撃。ヒロトの体が地面に転がる。

 

 相手の体は骨だから、地面の石との接触すれば音が出る。

 その音を聞いてどうにか対処をーー。


 ヒロトが起きあがろうとした瞬間、右側からカランと音がする。

 再びヒロトは右頭部を守ろうと右手を構える。

 受付嬢が右頭部を攻撃しようとする根拠はなかった。

 だが、受付嬢の姿を捉えることが出来ないヒロトは、致命傷となる頭を守るしかなかった。


「ヒロト君!」


 ライミがスライム水を放ち、ヒロトの背中を守るようにスライム水を広げる。

 ヒロトの背中に衝撃が走る。だがライミのスライム水が衝撃を和らげてくれたおかげか、痛みは少ない。


 そんな一歩防御を間違えれば死んでしまう、紙一重の防衛線をヒロトは繰り返した。

 ヒロトは頭部を守り、ライミのスライム水で他の部分を守る。

 ダメージは最小限でヒロトは耐える。

 どこからともなく声が聞こえた。


「こんなことを繰り返して何になるの? さっさと骨になった方が楽なのに。ヒロト様。あなたもライミ様も私の姿を捉えられてない。守ったところで勝てないわよ?」


 受付嬢の攻撃が結晶に当たる。

 ビシリと結晶のどこかが割れた音が聞こえた。

 同時に結晶がより熱くなる。淡い青色だった結晶が、赤く変色していく。


「……?」


 受付嬢が動きを止める。

 受付嬢もヒロトの右手の異変に気づいたのだ。

 

「ルーア!」


 受付嬢が動きを止めた瞬間に、ライミがスライム水を放つ。

 だが柔いスライム水は当然硬い骨には何のダメージも与えられない。


「ライミ様は後で骨にしてあげますよ。無駄なことせず、待っていてください」


 ヒロトが言う。


「おいおい、どうした受付嬢……。何をビビってんだ? もしかして、死ぬのが怖いのか? お前の理想はその程度か?」


「……はぁ? そんなわけでないでしょう。私の体は理想のためにあるだけ。死ぬのが怖い訳ないでしょう?」


「だったらかかってこいよ」


 ヒロトの安い挑発。

 だが、受付嬢にとっては安くない侮辱だった。


「ルーア! ルーア!」


 ライミは幾度もスライム水を散らしていく。

 受付嬢はライミの方へ一瞥するだけで、体はヒロトに向けている。

 防御一辺倒だったヒロトが、ついに動き始めた。

 赤く光る水晶を右手に纏い、ヒロトは一歩一歩受付嬢へと近づいていく。

 防御を全て捨てて、だらんと両腕を垂らしながらヒロトは受付嬢だけを睨んで近づいていく。


 受付嬢はヒロトに気圧されそうになり、一歩後ずさってしまう。

 受付嬢が一人でに言う。


「違う……。私は何を恐れているの。ヒロト様など怖くない。死ぬことなんて怖く……」


 ヒロトが近づいていく。

 ヒロトは今、自分の命を一切勘定に入れていない。

 ただただ受付嬢(てき)を倒すことにのみ、その一点のみに自分の命を使っている、まさに狂気の沙汰。

 受付嬢がもう一歩後退する。

 その一歩は、受付嬢にとってはこれ以上ない屈辱だった。

 自分の信念をーー命よりも大事だと思っている思っている信念をその程度のものだと嘲笑されたようだった。


「~~~! 私はぁ!」


 受付嬢が吠えて、ヒロトに向けて一歩踏み出そうとした。

 その時、受付嬢は自分の骨足が地面から離れないことに気づいた。


「えっ……」


 地面を見る。

 そこには大量のスライム水が広がっていた。そのどれもが粘着量が高く、身動きが取れなくなる。

 

「~~~ッ!」


 骨足が地面から離れない。

 受付嬢はどうにか体をひねり、スライム水から逃れようとするが、バランスを崩してしまう。

 地面に倒れ、よりスライム水が全身に絡まる。


「もう逃げられねぇな、受付嬢」


 スライム水に覆われてもがく受付嬢の前に、赤い水晶体を覆われた右拳を携えたヒロトが経つ。

 

「ヒッ……!」


「受付嬢。最後に何か言うことはあるか?」


 ヒロトが体勢を低くし、右拳を引く。

 受付嬢はスライム水に塗れ、もう逃げられない。

 受付嬢が全身全霊で叫んだ。

 

「私はーー理想の世界のために生きてきたわ! 外見のない差別のない世界を作りたかった! 肌の色や、髪の色、角の有無だけで殺される人がいる! この世は狂ってるの! 私には大義がある! この世をより良くする! そのために、228人を骨にしたの! その228人の意志を否定する権利があなたにあるの!!?? 神崎ヒロト! あなたには何の大義があって、私を倒すの!?」


「大義……。大義か。そうだな……」


 神崎ヒロトが顔を上げて受付嬢を見る。そして言った。


「俺と友達の冒険を邪魔すんじゃねぇよ。そんだけだ」


「ふ、ふざけーー!」


「ずっと、ふざけてんのはてめぇだろうが!!」


 神崎ヒロトはそう言って、拳をより強く握った。

 その瞬間、水晶体が紅く発火した。


炎拳骨(エンコツ)!」


 そう叫びながら、燃える右拳を受付嬢の頭蓋骨に食らわせた。

 

「ぎゃあああああああああああああ!」


 受付嬢の頭蓋骨にヒビが入り、ボロボロと崩れていく。

 スライム水に体が取られている受付嬢はもがくことも出来ずに、悲鳴を上げながらスライム水に倒れこんだ。

 同時に神崎ヒロトの右腕を覆う水晶が限界を迎えたのか、バリンと大きな音を立てて崩れる。

 ヒロトが息を切らし、「これで……俺たちの……勝……」と言ったところで、ヒロトはフラフラと後ろに倒れる。

 そのヒロトをライミが受け止める。


「ありがとう、ヒロト君。僕たちの勝利だ。……生きてる?」


「生きてる、さ……。そんな毎回気を失って溜まるか」


 そう言ってヒロトは足取りがおぼつかず、フラフラだった。

 ライミはヒロトに肩を貸し、ヒロトとライミと肩を並べながら歩いた。


 その場を後にするとき、ヒロトは尻目に倒れている受付嬢を見た。

 受付嬢はピクリとも動かない。

 倒せたと言って良いだろう。仮に生きていたところで、もう俺たちには倒す手段はない……。

 ヒロトとライミはそれ以上受付嬢の生存を確認することなく、その場から遠ざかった。


 *******************************


 ヒロト達が去って10分後、カランコロンと骨の音が鳴った。

 右目付近の骨が砕かれた受付嬢がゆっくりと、ゆっくりと起き上がった。


「う、う゛あああああ……」


 うめき声を上げながら、受付嬢は起き上がった。


「まだ……まだよ。まだ死んではいない。ふふふ、ヒロト様。甘いわ。スケルトンの特性を忘れたの? スケルトンは何度でも蘇る……!」


 呟きながら、受付嬢は自分の頭蓋骨に触れた。

 少し損傷している。粉になって崩れた場所はもう戻らないのか。

 けど、死ななければ何度でも理想を叶えるために奔走できる。

 なぜなら、私には骨になった仲間がいるから!


 ーーガツン。

 そうして、起き上がった受付嬢は突如として後頭部に強い衝撃を受ける。

 衝撃を受けた受付嬢は地面に再び倒れこむ。

 顔を上げると、自分の周囲をスケルトンたちが囲んでいた。

 受付嬢は感極まり、感動していた。


 みんなが私を慕ってくれている。

 皆が、私の復活を願ってくれているのだ!!


 ガツン。

 だが、再び受付嬢は頭上から鈍い衝撃を受けた。


「……?」


 衝撃から遅れて数秒後、受付嬢はようやく周りのスケルトンが自分を殴っていることに気づいた。

 顔を上げて、360度振り返る。

 周囲はスケルトンに囲まれており、逃げ場は完全に塞がれていた。


「えっ……皆、どうしたの。私よ、私。あなたたちの仲間。どうしてこんなことをするの……?」


 再び衝撃。

 そしてその一撃を皮切りに、次々と受付嬢に上から暴行が加えられる。

 受付嬢は体を丸めながら、「?」と疑問符が頭を充満していた。

 すると、どこからから声が聞こえた。


「お前の、せいだ。ただ俺は農場をしていただけなのに、お前が俺を骨に」

「返して。私の家族を」

「俺はこれからA級になるはずだったのに、よくも……!」


 そしてすぐにその声が自分のスケルトンたちの声だったと気づいた。

 暴行の合間、どうにか受付嬢は声を上げた。


「あなたたち、良かった……! 喋れるようになったのね!」


 すると、スケルトンの中の誰かが答えた。


「ようやくな。てめぇが弱ってくれたおかげで、支配力が弱まったんだ」

「おかげでてめえにようやく復讐出来る」

「死ね!」

「お願い、死んで」


 次々に浴びせられる言葉と暴力。

 この時、受付嬢はようやく理解した。

 自分が彼らを操っていたことに。

 彼らは自分に賛同して手を貸してくれたんじゃない。

 まさに、ヒロト様の言う通りだったのだ。


 ーー私は狂った殺人者だった。


「そうかぁ……」


 罪を犯したのなら罰は受けないといけない。

 受付嬢は言った。


「ごめんなさい、私を殺してください」


 受付嬢は自分の過ちを認め、死を受け入れた。

 だが、それに対するスケルトンたちの返答は。


「「「何すぐに楽になろうとしてんだ。スケルトンなんだから中々死なないだろう。お前を弱め続ければ、ずっと甚振ってられるよな」」」


「ーーえっ」


 受付嬢は顔だけを上げて周囲を見る。

 周りにいるのはスケルトンばかり。骨になった彼らからは表情がくみ取れない。

 

「えっと、ごめんなさい。本当に反省しているわ」


「それで? 俺らを生き返らせることは出来るのか?」


「それは……出来ないわ」


「なら、仕方ねぇよなぁ」


 再び受付嬢は衝撃を受けて地面に転がる。そして、再度暴行が上から浴びせられる。

 いつ止まるかも分からない、地獄のような暴力が始まった。


 ーーそうか。

 殺してもらえると思ったことが間違いだった。

 スケルトン(かれら)の怨念は思った以上に深いのだ。


 暴力を受けながら、受付嬢は願った。

 ーーあぁ、出来れば1週間以内には殺して欲しいなぁ。


 そう心の中で受付嬢は願った。


 ーー余談ではあるが、ここから3年間は環状の森でスケルトンの目撃情報が絶えることはなかった。

 だがスケルトンたちは冒険者に危害を加えることは一切なかったのだと言う。


次、2章最終話。多分。

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