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真価を引き出せ


「無駄な肉をようやく削ぎ落とした気分」


 肉を削ぎ落とし、スケルトンとなった受付嬢は陽気に踊る。

 もうこの姿にギルドの冒険者達が憧れた美しい受付嬢の面影などない。

 

 息を切らすヒロト。

 全身が倦怠感に苛まれ、顔色も悪くなっている。

 ライミがヒロトに向けて言う。


「ヒロト君。大丈夫……? その虚物の力、もしかして凄い体に負担が掛かるんじゃ」


「……大丈夫だ。まだ、動ける」


 そう言いながら、ヒロトは心臓の痛みに耐えていた。

 ルーナの言葉がよぎる。

 ーー虚物の力を使い過ぎればいつか、あなたの心臓は虚物にやって食いちぎられる、と。

 グッとヒロトは自分の胸を叩きながら言った。


「体は重い。だが、動かない訳じゃねぇ。俺はまだ死んじゃいねぇ。痛みじゃあ、俺は止められねぇぞ」


 ヒロトはそういうと、目を細めて受付嬢を睨む。

 骨だけの存在と受付嬢の全身からは、表情の機微など読み取れるわけもないが、こちらに強烈な殺意を抱いていることは分かった。


 受付嬢が言う。


「体が軽い」


 その刹那、ヒロトの視界から受付嬢が消えた。 

 直後、反射的にヒロトは左頬の前に右手を上げる。その瞬間、右手に強い衝撃が走った。

 ヒロトの体が真横に吹っ飛ばされる。


「ーーっ!」


 声にならない声を上げて、ヒロトは地面に転がる。

 が、すぐに起き上がり周囲を見渡す。

 だが、受付嬢の姿は見えない。

 何かを察したヒロトは後頭部を守るように右手を回す。0コンマ1秒後、再び右手に衝撃が走り、ヒロトの体は宙に浮き、地面に激突する。

 地面との摩耗により、肌が擦り切れ、ヒロトは血だらけになった。

 受付嬢はくるくると踊る。

 自分の体の美を強調するかのように、骨と骨をぶつけ、カタカタと音を立てながら陽気に踊る。


「ねぇ、どう? これ、骨ダンス。これからの世界は踊りで感情を表現するの。骨の音もアクセントになりそう……! とっても良い世界になると思わない?」


 ヒロトは受付嬢を無視して考える。

 受付嬢の動きが速すぎて追えない。

 たまたまだ。偶然、奇跡的に2回防げただけ。次も防げる保証なんてどこにもない。

 これを避け続けた上であいつに攻撃をぶつけないと倒せないのか。


 ーービシッ。


 ヒロトの耳に何かが割れたような音が届いた。

 音のした右手に視線を移す。

 割れてる。ヒロトの右腕を覆う水晶にヒビが入っているのだ。


「嘘だろ……。2回喰らっただけだ。今まで他のスケルトンからは何十発喰らっても平気だったのに……」


 ヒロトは痛感した。

 受付嬢(オリジナル)のスケルトン形態はーー今まで相対したスケルトンとはレベルが違う。

 硬さも、速さも、何もかもを凌駕している。


 この右手でぶん殴れば、勝てると思った。

 だが違う。この右手より受付嬢の骨の方が硬い。

 ぶん殴ったところで、砕けるのはこちらの拳の方だ。


 ヒロトの右手のヒビに、受付嬢が気づく。


「ヒロト様。そのヒビが証拠です。人本来は骨なのです。骨が負ける訳ないんです。骨の素晴らしさに気づいたでしょう? 人は外見ではなく、内見で判断すべきなのです」


 勝ち誇ったようにいう受付嬢。

 けれど、言い返せない。

 ヒロトは奥歯を噛み締めた。俺たちにはコイツを倒す手段がない。殴って倒す手段がなくなった。


「ライミ、悪い……俺が時間を稼ぐ。だから」


 そこまで口にすると、ライミがヒロトに近づき、ヒロトの頬をつねった。

 ライミはぷくりと頬を膨らませる。


「ヒロト君。もう僕は君を置いて行ったりしないって言ったでしょう。大丈夫。ヒビは多少なら僕で直せるよ」


 そういうと、ライミは手から小さなスライム水をいくつか生み出すと、ヒビの隙間に器用にスライム水を入れていく。


「スライム水って、スライムと水の割合を調整すれば、粘着力を上げれるんだ。ヒビ割れ部分に入れれば、多少は補強出来るよ」

 

 ライミの目の闘志は全く消えていなかった。

 この状況でも、ライミは慌てふためくことなく、自分のやるべきことを見つけている。今まで怯えていた面影はライミには残っていなかった。

 ライミは力強く言う。


「ヒロト君。あいつの足止めは僕が必ずやる。だから、ヒロト君があいつを倒して欲しい」


 ライミの目に戸惑いはない。

 今、気後れしていたのは俺の方かとヒロトは苦笑する。

 怖いな。自分の命が消えるだけならどんな決断を気軽に出来るが、友達の命をかけた決断は恐ろしい。

 でも、ライミは信じてるんだ。

 この状況でも俺が受付嬢を倒してくれるって。


「分かった。必ずあいつを倒して見せる」


 ヒロトも力強く答えた。

 今度は俺が殻を破る番だ。


 だけどどうすれば良い。何をすれば倒せる。

 右手の水晶ももう割れそうだ。この状態で殴ったところで……。

 俺は左手で右手の結晶に触れた。


「あっつ……!」


 この時、初めて気づいた。

 水晶が異常なほど結晶が熱を発していることに。こんなに熱を持っていなかったはずだ。


 その時、ふとヒロトの脳裏に疑問がよぎった。

 そうだ。そもそも俺はこの異能を使いこなせているのだろうか。

 自分の異能は、軽くて硬い青い結晶を右手に覆わせる能力だと思っていた。

 だけど、俺の右手を覆う水晶の能力は本当にそれだけなのだろうか。

 俺はこの水晶の真価をまだ引き出せていないのではないだろうか。

 その真価を俺が引き出したのなら、この受付嬢(バケモノ)を倒せるんじゃないだろうか。いいやそれしかない。


 ペタペタとヒロトは結晶を触りまくる。

 すると、場所ごとに温度が違うことに気づいた。先ほど受付嬢からの攻撃を塞いだ場所が、異常に発熱している。

 その時、ふと思い出した。

 いつかロージュが言っていた気がする。

 ガルフォード家で俺が初めて暴走したとき、ブレスレットから流れる電流をこの水晶が受け止めていたと言っていた気がする。

 つまり、この水晶の真髄は「硬くて軽い」だけではなくーー。


「受けたダメージを吸収する能力もある……?」


 そう仮定すれば、今の現象もガルフォード家のことも納得が出来る。

 受けたダメージを水晶体が吸収し、熱に変えているのだとしたら納得できる。 


「検証をする時間などないか。もうそう信じるしかない」


 一人でにヒロトは呟く。

 この水晶が壊れる極限まで、あいつの攻撃を受けて受けて水晶の熱を高める。

 そしてその状態であいつをぶん殴る。

 それが今出せる俺の想像上の最高火力。


「ライミ。作戦を思いついた。でも俺があいつを殴れるのは一回だけだ。ある瞬間まで俺はあいつの攻撃を受けて受けて受ける。そして、俺が殴ろうとした瞬間、あいつを足止めしてくれ」


 作戦というにはあまりにも薄っぺらい考え。

 だが今詳細を練ってる暇などない。

 ライミはこくりと頷いた。


「うん。分かった。全力でサポートするよ」

 

「あぁ、お前には意識を向けないようにするよ」


 ヒロトは意を決して、受付嬢の方へ体を向ける。

 受付嬢(こいつ)は意外と、挑発に弱い。特に骨のことに関して馬鹿にされると怒る。

 ちょうど良い。言いたいことなどいくらでもある。


「おい、受付嬢! 骨になった気分はどうだ?」


「言うまでもなく、最高よ……! (しがらみ)から開放されたの。今、確信したわ。老若男女問わず、いろんな人を骨にしてきたけど間違っていなかった! 皆、私に従ってくれてるのは、私に対して感謝しているからなの!」


「さっきもそんなことを言っていたな。お前はスケルトンと会話でも出来るのか?」


「……それは、出来ないけど。分かるの。彼らの気持ちが。喜んでいるって分かるの」


「ーーあ、そういうことか。ちょっと気になってたんだよ。お前さ、何度も何度も自分が操っているわけじゃないって繰り返し言うのはなんでかなって。お前、もしかして不安なんだろう? そうだよなぁ。スケルトンが自分の意志で操っているとしたら、お前の骨の世界なんて、お前の独裁政治だもんな。そう思わないと、お前は気の狂った殺人者になるもんなぁ」


 同情するかのように、ヒロトは受付嬢の心の柔いところに触れていく。

 受付嬢に余裕がなくなっているのが、ライミからでも分かった。


「ヒロト様。やめて下さい。私は殺人者じゃありません。骨になることは死ではないのです。柵から開放されること。より良い生き方を皆さんに提供しているだけなのです」


「はははは! くだらねぇ! 気持ち悪いよ! 何度でも言うさ、てめぇは狂った頭のおかしい殺人者だっ!」


 ヒロトがそう大声で叫んだ瞬間、受付嬢の全身の骨がギシギシと軋む音を発した。

 骨が殺意を内包すると、こんな音が聞こえるんだなと思いながらヒロトは水晶体を構える。

 これでライミが狙われることはないだろう。


 これが最後の攻防だ。受付嬢。


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