外見と偏見
「ヨリファーさん!? なんでここに?」
ライミが声を上げて近づこうとすると、ヒロトが手で制する。
ヒロトが受付嬢を見ながら言った。
「お前は、何者だ。このスケルトンはなんだ。何をしている」
受付嬢はフフフと笑った。
「私こそ聞きたいわ。神崎ヒロト様。あなたは何者? この体になってから、色んな生物を見るたびに心臓を食べたくなるのだけど……あなただけには食指が全く動かなかったの」
ヒロトは怪訝な表情を浮かべる。
「何を言ってるんだ。誤魔化さず、俺の問いに答えろ」
「そうね。私は虚教徒の一人。ヨリファー・リンよ。虚教徒って知らない?」
そう言って受付嬢はお腹に刻まれた紋章を見せた。
そこにはリンゴにドクローーそして数字の『5』が刻まれていた。
これが虚物徒の証だとでも言うのだろうか。
「聞いたことがある」
……ルーナの言っていた奴だ。
ルーナは『虚物を自分たちの神とするイかれた奴ら』と表現していた。
「じゃあ話が早いわね。私はそこに属しているの」
「イカれた奴らだと聞いていたが、間違っていないようだな。そのスケルトン、模造品ではないだろう? 元人間だ。一体何人殺したんだ」
「……う~ん。人殺しかぁ」
そう言って受付嬢は近くにいたスケルトンの頭蓋骨を撫でた。それは愛する子供を愛でるように、優しく愛情をこめて丁重に。
「今はそう思われても仕方ないかも。でもね、ヒロト様。私はこの姿こそ本当の人間の姿だと思うの。ねぇ、ヒロト様。あなたはこの世界についてどう思う? 私は、地獄だと思うわ。多種多様の見た目での差別。角があるかないか、肌の色がどうか、毛の色がどうか……。見た目が違うだけで、排他される世界。ヒロト様はどう思う?」
「何を言ってる?」
「あなたは分からないのね。幸せ者ね。ねぇ、ライミちゃん。あなたなら分かるんじゃないかしら。見た目で判断される苦痛を……」
「……」
ライミはぐっと下唇を噛み、無言になる。
その様子を肯定と受け取ったのか、受付嬢は言葉を続ける。
「私もそうだった」
そう言って受付嬢は服の裾をめくると、一部の肌が真っ黒に色づいた二の腕が見えた。
「私もこの腕の変色のせいで、親から見捨てられたわ。あっ、ごめんね。不幸自慢がしたいわけじゃないの。私なんでまだマシな方だってことは理解しているつもり。見た目が少し違うだけで……殺されてる人だって……いることくらい知っているわ」
そう言いながら、受付嬢は感極まったのか道中言葉に詰まる。
神崎ヒロトはゴクリとつばを飲み込み、周囲を見渡す。
360度全方位スケルトンに囲まれているようだ。
逃げる隙は見当たらないが、一体一体は脅威ではない。逃げようと思えば逃げれるか?
いや、受付嬢の真意が分からない。まだ……話を聞く。
「だから、変えようと思ったの。外見と偏見に満ちたこの世界を。そんな時に……虚教徒に出会った。ヒロト様、あなたは虚教徒をイカれた奴らだと言ったわね。ハッキリと否定させてもらうわ。彼らは……この世界を良くしようとしているだけ。決してイカれてなどいないわ」
「悪いが、てめぇから言われても説得力がないな。その大量のスケルトンはお前が大量殺人者の証拠だ。てめぇで大量に殺人しておいて、この世界の悲劇を嘆くなんて、イカれているとしか思えねぇよ」
「イカれてない。殺したんじゃないの。肉は消えてしまったけど、魂は骨に宿っているのよ。つまり、彼らは生きている。見た目が代わっただけ。骨だけになれば、肌の色や髪色の違いで苦しむ人は減るわ。あるべき姿へと戻るのよ」
「話にならない。ライミ、逃げるぞ」
「う、うん……」
頷くライミ。
「ライミ様! あなたは私の理想の世界に共鳴しないのですか!? 見た目で判断されない世界! あなたの生きる苦しみは、次の世界にはないっ!」
「……」
ライミは顔を逸らして、ヒロトについていく。
すると唸るように受付嬢が声を荒げた。
「逃すわけないでしょう!? 私は誰一人漏らさず、理想の世界へ導きます!」
途端、スケルトンがカタカタと音を立ててヒロトたちに向かって進み始めた。
悲鳴を上げるライミだが、ヒロトはライミを引っ張って、受付嬢のいる逆方向へと駆け抜けていく。
「ヒロト君!? そこは森の出口から逆方向だよ!?」
「わかってる。けど、あいつのいる方向には行けない。どのトラップがあるか分からない」
そう言ってヒロトは目の前にいるスケルトンに剣を振り下ろし、抜けようとする。
だが、ヒロトの振り下ろした剣はスケルトンの骨と衝突した途端、ガキンという硬い音が鳴り響き、剣が弾かれる。
「……っ。さっきまでは、この一撃で崩れたのに硬いな。受付嬢がなんかしてるのか?」
ヒロトがそう言って受付嬢の方に目をやると、受付嬢の見た目が少し変貌していた。
髪の毛先が白色化し、目の色は黒くなる。そして体からは血管が浮き出ていた。
……俺が暴走したのと同じ状態だなとヒロトは冷静に見た。
だが、当然ライミは狼狽える。
「な、なに、その姿は……?」
怯えながら問うライミに、受付嬢は神妙な顔をした。
そして、「ごめんなさい、ごめんなさい……」と涙を流した。
「これはね、虚物を体に宿して力を発揮するときにこうなるの。自分の心臓を高ぶるとね、虚物がより力を与えてくれるの。ごめんね、ライミ様。見た目で怖がらせてしまって。世界を骨にした後、私も、骨になるからッ! そしたら、怖く無いからッ! ごめんなさい、ごめんなさい……」
「虚物を体に宿す……? なに、それ……そんなの聴いたことない。ひ、ヒロト君、どうしよう、どうしよう!?」
ライミは恐怖で足がすくみ、立てなくなる。
縋るようにヒロトの足にしがみついた。
だがヒロトはブツブツと何か考え事をしていた。
「心臓を活性化させれば、力が使えるのか……? けれど、心臓の活性化方法なんて知らないな」
「ヒロト君!?」
「あっ……悪い。考え事をしてた。けど、どうしような。スケルトンが強化されてた。間違いなく、受付嬢の力だろう。周囲をバフ強化するのか、詳細は分からないけど。強化されたスケルトンがザッと数えて50体か。加えて受付嬢か」
冷静にヒロトは現状を述べる。
考えれば考えるほど絶望の状況だ。
ライミも自分の能力は防御寄りであり、この状況を打破できるものではなかった。
「……アレコレ言ってられねぇな。どうせこのままだと死ぬ」
するとヒロトがため息をついた。
「ライミ。どっか一つのスケルトンたちを倒す。だから、その隙に逃げてくれ。後で追いつくから」
「な、何を言ってるの、ヒロト君。こっから打破することなんて……」
するとヒロトがブツブツの再び独り言を呟く。
「意識を失う方法……。睡眠? いや、寝たところで異能が発言するとは限らないか。寝るんじゃなく、気絶……か」
そう言ってヒロトは自分の近くにあった石を持ち上げると、じっと見つめた。
「ヒロト君……?」
「ライミ。俺が必ず道を切り開く、俺を信じて、今すぐあっちに向かって走ってくれ。今すぐだ。俺がどう変わっても、俺は俺だ。俺を信じてくれ」
そう言ってヒロト君はーー石を自分の前頭葉に向けて勢いよく叩きつけた。
「えっ、えっ、えっ!?」
ヒロトは前頭部から大きく血を吹き出すと、そのままバタリと地面に倒れこんだ。
ブクマ、感想、評価等ございましたら遠慮なくよろしくお願いします。
モチベに繋がります。




