スケルトン★
ライミ視点とヒロト視点
ガサガサと音を立てながら、ヒロト君は悲鳴のした方向へと走っていく。
木の枝などで服や肌が多少切れても、意を介すことなくヒロト君は進んでいく。
僕はあの場で取り残されるのが怖くなり、ヒロト君の背中を追っている。
そして、背を追いながら僕は再びヒロトを説得する。
「ヒロト君、さっき悲鳴を上げていたのはリガルト君のパーティだよ!? 多分、虚物が出たんだって!」
「分かってるよ。だから助けに行くんだろ」
「分かってないよ! 虚物が出たんだ! S級パーティレベルの相手だよ!? 逃げないと! 僕たちはかないっこない!」
「そんなの、やってみないと分からないじゃないか」
聞く耳持たず。
ヒロト君はどんどんと道を進んでいく。
ライミは思った。
ヒロト君は知らないだけだ。虚物の怖さを。
この世界にいる人は皆、虚物に怯える。
皆が恐怖を感じる瞬間は、誰かの死に際ではない。
新しい生命の誕生の瞬間こそ、恐ろしいのだ。
生まれてくる生物に魂が宿っている保証などどこにもないから。
そのことをよく知ってるから、虚物を怖いと思うのだ。
ライミは諦めずにヒロトの肩を掴んだ。
「落ち着いて話を聞いて、ヒロト君! 助けに行くと僕らも危ないんだって、ヒロト君は今冷静じゃないんだよ!!」
ゼー、ハーッと息を切らし、膝に手をつきながら僕は言う。
ちらりとスカートが視界に入った。
少し汚れてしまっている。これくらいなら洗えば落ちる……かな。
「俺は冷静だよ。虚物の怖さも知ってるつもりだ。黒狼もこの目で見たことある」
「じゃ、じゃあなんで助けに行くの!? どんな理由があるの?」
「なんでって……助けに行きたいと思ったから」
「えっ……ど、どういうこと?」
「いや、それ以上の理由はねぇよ。助けに行きたいと思ったから、行くだけだ」
「なんで、どういうこと!?」
理解できない。全く理解が出来ない。
愛しの人がピンチになり、助けに行くのなら分かる。
けど助けに行く相手はリガルトだ。僕らを散々虐めた酷いやつだ。
「それ以上の理由を考えたこともない。助けたいから、助けに行く。俺は俺のために行動する、それだけだ。けど危ないのは分かってる。ライミは先に帰っててくれ」
「……」
ライミは何も言葉が出てこなかった。
ヒロト君は取り繕う言葉も無しに、自分の意思だけを述べた。
言いたいことを言い切ったと言わんばかりに、ヒロト君はすぐに前に進んで行った。
葛藤などは無く、ただただ進んでいく。
彼は、彼のやりたいことをやる。他人の意見など意に介さない。
僕は今日彼の背中しか見ていないことに気づいた。
僕は掠れた声を上げながら、
「嫌だよ……置いていかないで……」
と言った。
やりたくもない冒険者をやり、大好きなスカートをボロボロにしながら僕は彼を追った。
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ヒロトは草をかき分けると、広場へと飛び出した。
まずヒロトの視界に入ってきたのは、いくつものスケルトンだった。
20体はいるだろうか。
おびただしい数のスケルトンがカタカタと音を立てながら、動いていた。
「なんだこのスケルトンどもはぁぁぁ!」
レグルスパーティは4人1組となり、全員が背中を合わせて迫ってくるスケルトンを倒している。
レグルスが腕を上げると地面から根っこが生え、スケルトンを薙ぎ倒していく。
どうも、スケルトン一人一人は強くなく、ダメージを喰らえば簡単に音を立てて崩れていく。
だが、いかんせん数が多い。そして何より厄介なのは不死身であることだ。
リガルトが先ほど倒したはずのスケルトンがガチャガチャとひとりでに骨を組み立てていく。
そして最後に頭蓋骨を背骨の上に載せると、再びスケルトンは剣を握ってレグルスへと進んでいく。
レグルスたちは終わりの見えない戦いに、焦燥と疲れが見え始めた。
「あっ!」
レグルスパーティの一人が、ぬかるんだ地面に足を取られ、尻餅をつく。
その一瞬の隙が致命的だった。
雪崩れ込むようにスケルトンたちが転んだ人に向かって剣を下ろす。
なんとか剣を払いのけるが、他パーティメンバーも余裕がなくカバーに向かえない。
レグルスパーティが全滅するのは、明らかに時間の問題だった。
「こっちに来い、スケルトンども!」
ヒロトが剣を振り回しながら、スケルトンの群れに突入していく。
剣術はまだ未熟なため、力一杯鈍器のように振り回す。
それでもスケルトン相手には十分だった。
一気に5体を音を立てて崩すと、ヒロトは叫ぶ。
「おいレグルス! B級冒険者なら、意地見せやがれ!」
ヒロトがそう煽ると、レグルスが叫ぶ。
「お前に言われなくても、そのつもりだ!」
レグルスが力をこめるために静止すると呪文を唱え続ける。
防御を解いた瞬間、スケルトンが剣を振りかざし、レグルスの肩に剣が食い込む。
それでもレグルスは呪文を途切れることなく、唱え続けた。
「大樹の枝!」
レグルスが呪文を唱えた瞬間、地面から太い枝がいくつも生えてきた。直後その枝がレグルスの周りをぐるりと薙ぎ払うと、レグルスたちの周りにいたスケルトンを全て打ち崩した。
レグルスが叫ぶ。
「今だ! こいつらが蘇ってくる前に逃げるぞ!」
レグルスパーティが一気に崩れたスケルトンを踏み越え、広場から脱出する。
ヒロトもそれに応じて、ライミに逃げるぞと目配せを送り広場から立ち去る。
レグルスとヒロトが並走し、森の中を進むとレグルスは言った。
「……助かった」
「気にすんな、俺は俺のためにやっただけだ」
走りながら、ヒロトは後方に目を向ける。
大丈夫だ。スケルトンは追ってきていない。足が遅いの、そこまで知能が無いのかは分からないが……。
とりあえず、この場はこれで一安心だ。
まだ分からないことも多いが。
結局、あのスケルトンはなんだったのだろうか。それに、湖にいた虚物……。これからこの森への調査で慌ただしくなりそうだ。
そんなことを考えていると、レグルスが少し口をモゴモゴとさせると、言った。
「あの……偽勇者。いや、ヒロト。今まで悪かっ……ああああああああ!?」
途端、地面から巨大なタコ足が生えて、レグルスに巻きつく。
ボコッと大きな音が周囲から鳴り響き、レグルスパーティに絡まっていく。
「っ!」
ライミが「何!? どういうこと!?」と悲鳴を上げる。
レグルスパーティの4人全員の体にタコ足の吸盤ーーいや、口が4人の体を吸っていく。
「な、何が起こってやがるッ!」
悲鳴を上げるレグルス。
地面からはニョキニョキとタコ足が生え、レグルスたちに絡まっていく。
そしてタコ足にレグルスたちが覆われて、見えなくなった瞬間、ヒロトは何かを察して、ライミを抱き返えると、その場から脱兎の如く逃げる。ひたすらに逃げる
「とにかく逃げるぞ!」
だがヒロトとライミが向かおうとした先に、大量のスケルトンが立ち逃げ道を塞いでいた。
そして、大量のガイコツの影からーーある女性が現れた。
「また会いましたね、ヒロト様。ライミ様」
草陰から、にこやかに微笑むヨリファー・リン……受付嬢が現れた。
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