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死体の湖★

ライミ視点


「じゃあ、戻るか。レグルスたちと邂逅したくねぇし」


 そう言ってヒロト君はゆっくりと立ち上がった。


「そうだねぇ、虚物が現れるか分からないしねぇ」


 ライミはあくびをしながら返事をする。

 歩き回っただけなのに少し脚が重い。

 本当に僕は体力がないなぁ。

 ちらりとヒロト君の様子を見ると、全く息切れどころか汗ひとつかいていない。


「虚物……」


 するとそんな元気いっぱいのヒロト君は少しだけ顔を曇らせた。

 トカゲッピのころから気づいていたことがある。

 ヒロト君は虚物というキーワードを聞くと表情が暗くなる。

 一瞬何かを考えこんだような表情になり、そのあとに何か言葉を飲み込み、平然とした顔をする。

 僕自身がずっと周囲に怯えて生きてきたから分かる。ヒロト君は虚物恐れている。

 

「早速戻ろうか! ヒロト君!」


 ヒロト君を励ますように僕はあえて大きな声を出した。


「あ、あぁ……」


 だがヒロト君はまだ気が晴れないようで、返事が覚束ない。

 するとヒロトはおもむろに顔を上げて口を開いた。


「なぁ、ライミ。俺、お前に言わなければいけないことがーー」


「おーーい、おいおい、こんなところにいるのはぁ、ザコどもじゃねぇかよ。俺の前に二度と現れるなって言ったはずだよなぁ……ライミちゅわぁん?」


 突然、ヒロト君の声を遮るようにして不快な声が森の中に響いた。

 そして案の定現れたのは禿げ頭マッチョのレグルスを含めたパーティ。

 キラリと頭で太陽光を反射させて、大きな斧を背負ったレグルスを先頭に他3人が木の影から現れる。

 レグルスの顔を見た途端、僕は足が震えて脱兎の如くヒロトの背中に隠れた。

 

「何の用だよ、レグルス」


 ヒロト君が睥睨しながらレグルスに問う。

 

「レグルス様だろ、偽勇者。EランクがBランクの俺様を呼び捨てにするなよ」


「用がないならどけよ」


 怯える僕とは対照的にヒロト君は一ミリたりとも竦むことなくレグルスに答える。

 するとレグルスの顔が一瞬歪んだが、すぐに貼り付けたような笑みへ変わる。


「いやー、実はね。今僕ら困っていてねぇ……。仲間が足りないんだ。一緒に来てくれないか?」


 胡散臭い口調で胡散臭い言葉を吐くレグルス。


「行くわけねぇだろ」


 そうヒロト君が言った瞬間ーー突如足元からニョキニョキと棘の生えた枝が伸びてきて身体中に巻きついた。

 小さな棘が身体中に当たり、痛みで僕は顔をしかめた。

 にやりとレグルスは薄ら笑いを浮かべると、


「ーーあぁ、言い忘れたが強制だ。何、同じ冒険者として助けて合おうじゃねぇか」


 と言った。

 従うしかない。僕はすぐにそう思った。

 身体中に巻き付いた棘。少しでも動けば僕の服はビリビリに切り裂いてしまう。当然それだけでなく、棘が肌を切り裂いて血だらけになってしまう。

 そう思っていると、ヒロト君が自分に巻きついた木の枝を握りしめた。


「えっ……」


 僕は唖然とする。

 当然、棘付きの枝を握りしめるほどヒロト君の手は血だらけになっていく。

 

「ただの枝だ。千切れねぇ訳がねぇよ」


 そう言ってギリギリと枝を千切ろうとしていく。

 ポタポタと手から血を流してもなお、怯むことないヒロト君の姿にレグルスのパーティーも唖然とする。

 枝が千切れそうになる刹那、レグルスがハッと我に返り大声で叫んだ。


「偽勇者ヒロト! 枝を千切ればライミを殺すぞ! 首元の棘で切り裂けば一瞬だ!」


 レグルスがそう言って僕の方に手を向ける。

 するとギリギリと体に巻きつく枝が強く締め付けてくる。

 棘が身体にどんどん食い込んでいく。


「ゔっああぁ……い、痛い……」


 ヒロト君がチラリと僕の方に視線を向けて枝から手を離した。


「分かった。抵抗はしねぇ。だからライミの枝を緩めろ」


「は? 緩めろだと?」


「……緩めて下さい」


「はっ、最初からそうしろってんだ。ボケが」


 レグルスがそう言うと枝が少し緩んだ。

 そしてレグルスがくるりと背中を向けて続けた。


「着いてこい。足の枝だけは緩ませてやる。言っておくが逃げるなよ?」


 逃げれば殺す、と言うことだろう。

 首元にナイフを突きつけられている状況に僕は足が震えた。

 殺されるんじゃないか。

 そう思うと体の内側から恐怖が込み上げてくる。

 だけどヒロトは怯えることなく下草を踏みしめながらレグルスの後を追う。


「わっ、待ってよぉ……」


 僕は数歩遅れてヒロト君の後ろを歩いた。

 ヒロト君は怯まない。

 ……そういえば、僕はいつもヒロト君の後ろを歩いてばかりだ。

 さっきみたいにずっとヒロト君の足を引っ張っている気がする。


 レグルスの後を追って数分。

 徐々に周りの道が狭く獣道になっていく。

 下草も高くなっており、かき分けながら進んでいく。

 どこにいくのだろうと頭には不安が過ぎっていると、ようやく開けた場所に着いた。

 そしてその瞬間息を呑んだ。


 開けた場所の中央には巨大な少し赤みがかった湖が広がっていたのだ。

 そう言えば受付嬢が赤みがかっている理由は湖の底に死体があるからだとか。そんな逸話を言っていた気がする。

 するとリガルトが口を開いた。


「俺らのクエストが大変でねぇ。最近悪い噂の絶えない、この湖の調査をしているんだ。だが、厄介なことが分かってねぇ。折角手伝ってくれるんだ、貴様らにも情報共有してやろうか」


 そう言うと、リガルドは湖付近に落ちていた魚の死骸を手に取って、死骸をこちらに向けた。

 ライミが魚の死骸を見て、ヒッと目を逸らす。

 

「見ろ、この死骸を。ただ死んでいるだけじゃない。心臓が喰われてるんだよ。それもこの湖にいる魚全部が、心臓を喰われて絶命している。何が言いたいか分かるか? 普通の生物はこんな喰い方をしない」


 その先の言葉を察したライミは青白い表情を浮かべて言った。


「虚物が……この湖に生まれた?」


「正解だ。博識なんだぁ、ライミちゃぁん。間違いないだろう。間違いなく、この湖に虚物が生まれたのさ。そこでだ、お前らにぜひともどの生物が虚物になったのか調査をしてほしいんだ」


 ニコニコと軽やかな笑みを浮かべて言うレグルス。

 だがライミは悲鳴のような声を上げる。


「なっ……何を言ってるんだよ、レグルス君! 虚物関連のクエストは最低でもランクはS級以上だよ! どんな異能を使ってくるかも分からないんだ! 虚物のいる湖に入って僕らが無事に帰ってこれるわけがない!!」


「ん~~、そうかぁ? もしかしたら運よく帰ってこれるかもしれねぇぞ」 


 そう言いながら、レグルスは指先をはじく。

 瞬間、体に絡まっていた枝が強く締まる。「痛いッ」と小さな悲鳴を僕は上げた。

 するとヒロト君がライミを庇うように一歩前に踏み出した。 


「レグルス。湖に入って、虚物がどの生物なのかを見てくれば良いんだな?」


「ははぁ、お利巧さんだなぁ偽勇者は。その通りだ。だが湖に入るだけは入って、調査はせずに嘘をつく可能性がある。この湖の底に咲いている青い花ーーフォールンを手に入れてきたうえで、どの生物だったのかを回答してもらおう」


「分かった。なら俺の体に巻き付いてる枝を解いてくれ」


「抵抗すればライミを殺す。分かっているな?」


「分かってる」


 ヒロトが答えると、レグルスはヒロトに巻き付いていた棘の枝を解いた。

 淡々とヒロトは自分の上半身を脱ぎ、湖に飛び込む準備を進めていく。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ、ヒロト君。な、何を普通に湖に入ろうとしているのさ! 虚物がいるんだよ!? 死ぬかもしれないんだよ!?」


「そりゃあ、そうだけど。けど、このままでは埒が明かないだろ。行くしかないじゃないか」


「で、でも……!」


「大丈夫だ。心配すんな。すぐに戻ってくる」


 そう言うと、ヒロトはそのまま湖の中へと飛び込んだ。赤い水しぶきが上がる。

 僕はただただ、ヒロト君の後ろ姿を見ることしか出来なかった。


感想、評価、ブクマ等ありがとうございます。

大変励みになっております。


SAOを読み始めました。

文章力・語彙力の塊のような本なので完全に教科書読んでる気分です。

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