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環状の森

 

「速ぇ……」


 コモドの背中の上で思わずヒロトは感嘆の息を漏らした。

 だが、それも無理はない。

 奈羅佳の国門を抜けてからはコモドが最高速に達し、コモドがドシンと足音を響かせるたびに周囲の景色が一気に変わっていくのだ。

 そして不思議なことに背中に乗っているヒロト達は全く揺れの振動や風はほとんど感じない。


 隣でモグモグとおにぎりと食べているライミは、ご飯粒を頬に付けながら紙を取り出した。


「じゃあ着くまでにクエストの確認をしよっか」


 そして紙をコモドの首元で広げて指を差す。

 

「これが僕たちの目標のクエストだね。食虫植物の確保」


「あぁ。つっても難易度も低いから大丈夫じゃないのか?」


 するとライミは首を横に振る。


「確かに食虫植物の確保だけならやり方をしっていれば子供でも出来るよ。けどここでは何が起こるか分からないんだ」


 真剣な眼差しを向けるライミ。

 緊張感が伝わり、ごくりとヒロトは唾を飲み、受付嬢の話を思い出した。


「環状の森のガイコツの噂のことか? あんなのただの迷信じゃないのか?」


 こくりとライミは頷く。


「うん。僕もそれはそう思っているけど。クエストでは油断しない方が良いと思っているんだ。今まで二つしかクエストをやってないけど、どっちも予想通りに行くことはなかったよ。冒険にアクシデントはつきものなんだ。突然虚物(ホロ)が割り込んできたりしたから……」


虚物(ホロ)


 その単語を聞いた途端にヒロトの体が一瞬硬直し、不安げな表情が浮かんだ。


 ……俺はライミに虚物であることを言うべきなんじゃないか?

 未だに力を制御できていない危険な存在。それが俺だ。


「あの、ライミ……」


 ライミは首を傾げる。


「なあに? ヒロト君」


「……。いや、悪い。なんでもない」


 怖い。

 この先を言うことが何より怖い。もしライミが俺を怖がったら。

 俺はこの世界でようやく出来た友達を失うことになるんだ。

 そう思うとなかなか言葉が喉を通らない。


 するとライミがあぁと合点が言ったように頷いて言った。


「もしかして……ヒロト君が偽勇者ってことを言いたいの? あはは、知ったうえで僕は君と友達になってるんだ。今更強調しなくてよいんだよ」


 そう言ってライミは黄金色の髪を靡かせながらほほ笑んだ。


 違う。そうじゃないんだ。

 そんな言葉が胸の奥ーー罪悪感を格納している場所からこみあげてきた。

 喉元にへばりついたその言葉。あとは喉を震わせて発音するだけ。


「あ、あぁ。そうなんだよ……!」

 

 だがヒロトはその言葉を言うことが出来ずに強張った笑みを浮かべ、その場しのぎの言葉が口から洩れた。

 ライミはフフフと疑うことなく少女のような可憐な笑みで返す。


 環状の森に着くまで言う時間は山ほどあった。

 でも俺は……言えなかった。

 言ったとたんに嫌われるのではないかと思った。怖がられるのだと思った。

 俺はよく知らない第3者のやつらにはどんな目で見られたって構わない。どうでも良いと思う。

 けれど一度持った関係を手放すことになるのは怖いのだな、と思った。


 移動すること20分。

 「あっ」というライミの声を合図にヒロトは視線を上げてると、目的の場所とおぼしき森林が目に入った。


「おっ、あれか?」


「そうそう。他の地域から孤立したとこにあるから、環状の森は独自の生態系を築いてて、ここでしか採れない果物も多いん」


 すると突然言葉途中で口を閉じ、ライミは目を凝らして前を見始める。


「……なんか見たことあるトカゲッピが環状の森の入り口に停めてある」


 ヒロトもライミの見ている方向を覗き込んで目を凝らす。確かに青色のトカゲッピが大人しく森の手前に佇んでいる様子が見えた。

 だがそれが何だと言うのだろう。

 すると、そんなヒロトの疑問を汲み取ったようにライミは語り始めた。不安げな口調で。


「あの、青いトカゲッピは……レグルスパーティーの奴だよ」


「つまり……」


「レグルス達がこの環状の森に来てる」


 ライミは唇を曲げて言う。


「……冒険にアクシデントはつきもの、か」


 早速回収したくなかったフラグが回収されたことにヒロトはため息をこぼした。


 コドモが環状の森、入口の手前でピタリと動きを止めると、喉を震わせてピッと音を鳴らした。

 どうやらその鳴き声が到着の合図なようで、ライミと共に縄を掴んで降りていく。

 地面に足をつけ、顔を上げると左右を見回した。

 環状の森というだけあり、弧を描くように森林が左右伸び続けている。人工的な手入れをされてないにも関わらず森全体が綺麗に丸く輪郭を帯びているらしく、まさに自然の神秘であるらしい。

 そんなことを思い出しながら歩いていると、ライミのため息が聞こえた。


「やっぱりレグルスたちのトカゲッピだ……。尻尾についてる金のイヤリング。間違いないよ」


「まぁ、しょうがねぇよ。むしろ先にあいつらがいることを知れて良かったじゃないか」


「う〜〜……そう考えるしかないかなぁ……」


「じゃあ行こうぜ」


 そう言ってヒロトはライミを置いて下草をザクザクと踏みながら森道を進んでいく。

 

「わっ、待ってよぉ。僕も行く!」


 その後ろを慌ててライミが追った。


 ******************


 遥か頭上の葉から漏れだす光の柱に目を奪われながら、ヒロト達は道なりに進んでいく。

 後方で歩くライミが時々、木の根っこに足を取られそうになったり、スカートが枝に引っかかり破れたりして歩いて数分でなぜか服に傷がついているが。


 そうして歩いていると、ヒロトはふと疑問に思い立ち止まる。

 ライミの方にくるりと体を向けて問う。


「……なぁ、俺らの採取目標の食虫植物ってどこにあるんだ?」


 その疑問にライミは口をあんぐりとあけた。


「えっ!? 根拠があって先頭を進んでたんじゃないの!?」


「いや、とりあえず道なりに」


「……てっきり知ってると思ってた」


 そう言ってライミは一息つき、自身のスカートについた葉っぱを手で払うと口を開いた。


「食虫植物は木の幹に根を下ろしていることが多いんだ。光合成で木が得たエネルギーを奪って生活してる。あと木から落ちた果実のふりをしているんだ。りんごの赤色とかね。だから木の幹を注意深く見たほうがいいよ」


「なるほど……」


 幻想的な風景に囚われており、思いっきりクエストのことを忘れていたと反省しながらヒロトは視線を下げて再び道なりに進んでいく。


 再び歩いて30分程度が経過したころ。

 ヒロトの目に真っ赤な丸い物体が目に入る。


 りんごのように見えるが、どこか違う気がする。

 そんな違和感を持ったヒロトはそのリンゴに手を伸ばそうとした。その時、ライミが慌てた悲鳴をあげる。


「わっ! ダメだよヒロト君! 指、無くなっちゃうよぉ!」


 その声を聞いて手が止まる。間一髪。なんとか触れずに済んだ。

 食虫植物は指を噛み砕けるほどの鋭い歯を持っているんだった。

 冷や汗を浮かべながらヒロトは一歩後ろに下がる。


 ……ん、でも待てよ。

 

「触らないのならどうすりゃあ取れるんだ?」


「それはね、これを使うんだ」


 待ってましたと言わんばかりに、ライミは腰につけたポーチを漁ると真っ赤なソーセージのようなものを取り出した。


「食虫植物はね、なんでも口に入れるんだ。だからこのお肉で固めた肉でも口の中に飲み込む。そして、食べている最中は無防備になるから誰でも引っこ抜けるんだ!」


 そう言ってライミはしゃがみ込むと、ポイっとリンゴのような物体を食虫植物目掛けて投げた。


 すると、コツンと肉が当たった瞬間。

 リンゴのような物は姿を変形させ大きな牙を持った口になり、一口で肉を飲み込み、咀嚼を始めた。


「今だよ! ヒロト君!」


 その声を合図にヒロトはしゃがみ込み、食虫植物の茎を掴むやいなや思いっきり引っ張る。


「んんッ!」


 力を入れた瞬間、ブチッ!と大きな音が炸裂し食虫植物の根を引っこ抜いた。

 思わず衝撃で尻餅をつくヒロト。

 ヒロトの手に握られた食虫植物は、エネルギー源となる木から離れたためか力なくグッタリしていた。

 その様子を見てライミは手を大きく広げて喜んだ。


「やったぁ! ゲットだね!」


 ...意外と簡単だったな。

 少し拍子抜けに感じながらも、とりあえず無事に終わったことに安堵しつつヒロトは立ち上がった。

 

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