出発!
こうしてヒロトはライミとのパーティーを結成した。
早速クエストにライミが同行し、パーティー結成初クエストを行うこととなった。
クエスト出発の当日。
クエストの危険度は低いから大丈夫だろう、と呑気なことを考えて長ブーツを履き、リュックを背負うと立ち上がった。
ヒロトが出かけようと準備をする後方、ロージュが残念そうな表情で呟いた。
「私も同行したかったのだ……」
そう言ってロージュは綺麗な眉をひそめて肩を落とした。
ヒロトは困ったように頭をかきながら振り返る。
「いやぁ、しょうがねぇよ。突然上級騎士としての仕事が入ったんだろ?」
「ここ最近、上級騎士としての仕事ばかりだ。別に嫌いではないがこうして休日も潰れるのは好ましくないな」
そう言ってロージュは頬をぷくりと膨らませて不満を口にする。
上級騎士としての仕事、それはつまり国から命じられた仕事であり重要な任務である。
当然そちらの方が優先順位が高いのは仕方ない。
「ちなみに仕事の内容は?」
「聞いても呆れるだけだぞ。王女の飼い猫探しだ」
「飼い猫……」
「猫が逃げ出したんだと。それで上級騎士ほぼ総出で捜索を行うこととなったのだ」
「なんだそれは」
予想よりも遥かに呆れる業務内容にヒロトはあんぐりと開いた口が塞がらない。
上級騎士総出でやるようなことでは決してないのだが。
ロージュは光の失った目のまま苦笑いをする。
「まぁ、こういうことなのだ。バカらしいが仕事である以上断れない。とにかくヒロトは楽しんできてくれ」
「あぁ、ありがとう」
ヒロトはこくりと頷いた。
「行ってきます」と玄関を出た。
********************
ライミとの待ち合わせ場所の中央広場へと向かう。
奈羅佳の中央には巨大な円形の広場があり、その広場には巨大な噴水が置かれている。その噴水を目印に合流する約束なのだが。
「……人が多すぎるな」
いかんせん人がごった返している。
中央広場は大通りが十字に貫いており、各通りからの人が押し寄せてくるためとにかく人が多い。
スマホで待ち合わせをしていた世代としては、こういった電子機器での連絡が取れない合流はしたことがない。
ライミと合流出来るのだろうかと苦悩していると、噴水の前に立つ少女に目を惹かれた。
それは俺だけでなく、その少女の前を通る人のほとんどが無意識のうちか、その少女にちらりと視線を向けているようだ。
その少女は端正な顔立ちはもちろんのこと、灰色の刺繍が施された漆黒のスカートをはき、対照的な真っ白な細い足で立っていた。
ヒロトはその少女ーーいや少年に近づいて口を開く。
「悪い、待たせたなライミ」
「ううん。ちょうど今来たとこだよ!」
そう言ってライミは微笑むんだ。その瞬間、何人か立ち止まりライミの笑みに見惚れている様子。
恐らく広場の全員がライミを女だと思ってるのだろうな。
そんなことを考えていると、ライミがヒロトの裾をグイグイと引っ張って言った。
「早く行こう! もうトカゲッピはもう予約してあるから!」
「トカゲッピ……?」
ヒロトが疑問を口にするが、はやる気持ちを抑えられないライミの耳には届いておらず、ライミに引かれながら広場を抜けて西の大通りへ向かう。
そうして歩くこと数分。
ライミは古ぼけた木製の建物の前で立ち止まった。
建物から強烈な干し草と糞尿の匂いにヒロトは顔をしかめる。
思わず鼻を抑えていると中から無精ひげを生やした男がのそのそと気怠げに建物から姿を現し、訝しげにヒロト達を見つめる。
「お客さんか?」
そう言って男は大きなあくびをした。
ライミは強烈な異臭が染みついた男からの匂いに一瞬目を開きながらも口を開いた。
「あの、予約していたライミです。トカゲッピを貸してください」
「あーー、はいはい。予約していたライミさんね。少し準備するから待っててくれ。えーと、目的の場所はどこだっけ?」
「環状の森です」
「なら20分程度で着くな」
そう言って男は頭をぼりぼりと掻きながら店の中へと入っていった。
男が消えたことにより、多少は匂いが緩和され、ヒロトは改めて疑問を口にした。
「……で、トカゲッピって何?」
「えっ、トカゲッピを知らないの!? 一般的な移動手段……あ、そうか。ヒロト君は転生者だったね。ごめんごめん」
そう言ってライミは謝罪を口にして、続いて説明を始めた。
「すごく巨大なトカゲなんだ。温和な動物で餌ですぐ人になつくし、力も強くて荷台を引っ張って移動できるから移動手段として使われているんだ」
「なるほど。トカゲッピのトカゲはそういうことね。じゃあ、ッピってなんだ?」
「あぁ、それはすぐに分かるよ」
ライミがそう言った瞬間、ドシンドシンと大きな足音が店内から聞こえてきた。
地鳴りのような足音が鳴り響くたびに少し足元の地面が揺れる。
そして店内から巨大なシルエットが徐々に近づいてきて、店の暖簾を押しのけて姿を現した。
「で、でっけぇ」
そのトカゲの太陽下にて全貌が晒されてとき、ヒロトから思わず声が漏れた。
巨大なトカゲと聞いてヒロトは約1mのトカゲを想像していたのだが、それの倍以上。全長が3m近くはありそうな巨大な黄色の鱗肌をしたトカゲが姿を現した。
そして目を引くのが巨大な脚だ。脚一本一本が木の幹のように太く、怪力といわれる所以がここにあるのだろうと連想出来る。
そしてトカゲはギョロギョロと丸々とした眼球で周囲を見渡して喉を鳴らすと、大きく口を開いた。
喉が開いてく様子から間違いなく巨大な咆哮が轟くと直感したヒロトは瞬時に両耳を手で覆い備えようとする。だが、一瞬間に合わずにトカゲの咆哮が耳に届いたー。
「ーーッピ」
「……ん?」
歯を喰いしばろうとしていたヒロトの耳に届いたのは巨大な咆哮でもなく、犬の鳴き声にも大きく劣るーーまるで小鳥の鳴き声のような声だった。
耳を塞ごうとしていた俺の様子を見て、ライミは片頬でにやりと笑った。
「ふふふ、そうだよね。僕も最初聞いたときは驚いたもん。トカゲッピのピの意味が分かった?」
「……鳴き声ってことか」
肩透かしをくらったヒロトはため息まじりに答えた。
店の主人が慣れた手つきでロープをトカゲの体に巻き付けて鞍を取り付けると汗をぬぐう。
「よっし、これで完了だ。大荷物を運ばないなら荷台はつけなくていいだろう? ほれ、背中から垂れているロープに捕まってこいつの背中に乗れ」
そう言って主人が放り投げてきたロープを受け取り、ヒロトとライミはトカゲの側面の鱗につま先を当てながら登るとトカゲの背中に腰を下ろした。
「うわ、すげぇな」
そして頂点からの景色に思わずヒロトは感嘆の息を漏らした。
3mも高い位置から見下ろした景色は圧巻で、足元の人たちでさえも小さく見えた。
「トカゲッピの人気の理由の一つにこの景色の良さがあるんだ」
隣に座っているライミが誇らしげにに答えた。
「そいつは環状の森に行くようにしてるからもう出発できるぞ。出発するにはその手元にある縄を引っ張ればいけるぞ。あ、そうだ。そいつの名前はコモドって言うんだ。穏やかな奴だから安心して行ってこい」
そう言って主人は髭をいじりながら店内へと戻っていった。
早速ライミが興奮気味に縄を握ると、
「じゃあ! コモドちゃん! しゅっぱーつ!」
と大声を上げて縄を引っ張ると、待ってましたと言わんばかりにコモドは地面を蹴り上げた。
誤字報告ありがとうございます。
誤字多すぎやろ。
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