クエスト受注
ヒロトはルーナとの診断後にその足でギルドへと向かった。
診断結果は自分が意識を失わなければ良い訳だから、まぁ問題ないと言う事だろう、うん。
ヒロトは下町を進みむと、ギルドの中へ入った。
そのままカウンターに向かい受付嬢に声をかける。
「クエスト受注したいです」
「はーい。えーと今のクエストですと……少々お待ちくださいね」
そう言って受付嬢はガサガサの紙束をかき分けて、中から2枚の紙を取り出すとヒロトの前に出した。
「この2つのクエストがおすすめです」
1.難易度 ★1
クエスト:山椒の採取
おばあさんがぎっくり腰になってしまった。ぎっくり腰によく効くという山椒を取ってきてくれ。
場所:環状の森
報酬:1000スピア
2.難易度 ★2
クエスト:食虫植物の確保
最近、植物を育っていることにハマっているんだ。それで少し珍しい植物を育てたくてね。ぜひ食虫植物の種を取って来てほしい。大丈夫。食われたとしても指が無くなるくらいさ笑。
場所:環状の森
報酬:5000スピア
「どちらも環状の森って言う場所なんですね」
「はい。強いモンスターも出現しないので初心者向けなんです」
「なら安心ーー」
「で・す・が」
ヒロトの言葉を食い気味に遮ると、受付嬢が上半身を乗り出して迫ってきた。
思わず受付嬢の顔が近づいてきてヒロトは一歩後ろに下がる。
「ですが……?」
恐る恐るヒロトが尋ねると、受付嬢は頷いて慎重に言葉を紡いだ。
「環状の森……その中心部にある湖には決して近づいてはいけません。噂ですが……その湖にはあるそうなんです……!」
「な、何が……?」
「大量のガイコツが! そこの湖では昔大量の死体が捨てられてたんだとか……! その死体が今もあの湖には残っているのです!」
受付嬢はわざとらしく体をガタガタと震わせる。
芝居がかった演技にヒロトはどう反応すれば良いか分からず、くぐもった声が出る。
「えっと、食虫植物の確保を受注します」
「あ、ハイ。うーん、結構いろんな人にコレを言うんですけどねぇ、あんまり興味を持つ人がいないんですよねぇ」
「迷信にしか聞こえないです」
「最近もある女性が動くガイコツを見たというんですよ。そんな噂が広まってから、誰もあの湖に近寄らなくなったんです」
「動くガイコツねぇ……。異世界ならいてもいい気がするけど」
「やだぁ、いませんよ。意味わからないじゃないですか、ガイコツが動くとか。糸で操られてるとかならわかりますけど。けどこういう怖い話って怖いんですけど、つい興味出ちゃうんですよねぇ。あぁ、そういえば他にもーー」
どうやら受付嬢はオカルト話が好きなようだ。
話が長くなりそうなため、ヒロトは迷信を横流しにし、難易度2の食虫植物のクエストの紙を手に取り、朱印を押した。
すると、
「キャッッ」
ギルドの扉付近で小さな悲鳴が聞こえた。
「おい、まじキメぇな……。俺の前に二度と現れるなって言ったの覚えてないのか? あ?」
同時にドスの効いた聞いたことのある声。
誰がいるのか察しながらも振り返ると、案の定そこにいたのは昨日ヒロトを見下してきた禿げ頭マッチョ野郎のレグルス。
そしてレグルスに絡まれているのは金髪の少女だ。
少女は目を泳がせながらも言い返す。
「だ、だって……この国のギルドなんてここしかないし……」
「あ゛? お前、俺に逆らう気か!? このBランクの俺によぉ?」
そう言ってレグルスは思いっきり地面を踏みつけると大きな音を鳴らした。
すると少女は腰を抜かして地面に尻もちをついた。
「で、でも」
だがその少女の反論を遮るようにずいっとレグルスがにらみつける。
「うっ……」
少女は小さく声を漏らすと、腰を抜かしたまま少女は涙目になり、逃げるようにギルドから出ていった。
するとフンッとレグルスは鼻を鳴らし、静寂となっているギルドに目を向けた。
ギルドのメンバーには金髪の少女を虐めたクズだとレグルスを睨むものや、騒動を気に掛けることなく酒を飲むものなど多種多様であった。
そしてレグルスは手を大きく広げると、
「あーー、俺があいつを虐めたって思われてそうだな。いや違うんだよ。あいつが俺を騙したんだ。なぁ、皆。みんなはあいつのことを可愛い女の子だって思うだろ? だが違うんだよ。あいつ……ついてんの。アレが。男なんだよ」
すると途端にギルド内がザワザワと騒がしくなる。
それに気分が良くなったのか上機嫌にレグルスは話を続ける。
「皆驚いただろう? あいつとクエストを一緒にこなした奴もいるはずだ。あいつ騙してたんだよ。女装癖の気持ちの悪いやつだ。あんなやつこんなギルドから消えて当然だろう?」
そうレグルスが言うと、一部の冒険者がレグルスの行動を歓迎するように拍手をした。
「ははは……ありがとう。みんな、騒がしくして悪かったな」
レグルスが手を下して席に座ると再びギルド内が何事も無かったかのように元に戻る。
すると受付嬢がヒロトの裾を掴み、
「ヒロトさん、ヒロトさん……。ヒロトさんもレグルスに見つかったらまた騒動になりますよ。裏口があるのでそちらから出て下さい」
「あー、分かりました」
受付嬢に誘導されてカウンターの中に入り、裏扉を開けてヒロトは外に出た。
受付嬢に感謝を述べて裏口から出る。
「うっわ、なんだこれ……」
そうして裏口から出た先は見事な隘路だった。
地面にはゴミが散開しており、足の踏み場を探すのもやっと。
それに加えて排気ガスの匂い。
ヒロトは鼻を手で押さえた。
「服に匂いが付く前にさっさと抜けるか……」
ここがどこにあるのか見当もつかないが、少なくとも大通りに出れば何かしら分かるだろうと、ヒロトは光の指す方向へと進んでいった。
すると、
「うっ……ゔっ……」
と足元から小さな声が聞こえた。
違和感を感じてふと視線を下ろすと、乱雑に置かれていたゴミ箱とゴミ箱の間に例の金髪の少女が腰を下ろして丸まって泣いていた。
さきほどの少女だ。いや、少年という方が正しいのか……?
「おい、こんなとこで何してんだよ。臭いが服に移るぜ」
すると少年はビクッと体を震わせて恐る恐る顔を上げた。
「あっ君は……神崎ヒロト君だっけ……? まちがえてたらご、ごめん」
「合ってるよ。なんで知ってんだ?」
「偽勇者ヒロトって、ギルドで有名だから……」
あ、そりゃそうか。
俺を知らない人の方が珍しいのか。今日だってギルドくるまでの間に色んな人に白い目で見られてたし。
「えっと……悪い。お前の名前が分からねぇ」
すると少年は慌てふためき、
「あ、ぼ、僕の名前は……ライミって言うの。ハイド・ライミって言うんだ」
と少し照れたように自己紹介をした。
「ライミ、か」
「う、うん。よろしくね……えへへ」
そう言ってなぜか瞳を少し潤ませながら上目遣いで見つめてくる。
思わず心臓がドキリと飛び上がりそうになる。本当にコイツ、男か?
「とりあえずここから出ようぜ」
「うん」
こくりと従順にライミは頷いて立ち上がった。
灰色のフリル付きのドレスの裾が地面の汚れが付き、黒くなってしまっている。
「なんでこんな所にいたんだ?」
「暗い所にいたくて。暗いところが好きなんだ。真っ暗闇だとお互いの声は聞こえるけど、相手の姿は見えない。見た目で偏見を受ける事はないから」
「見た目で偏見か。なんかあったのか?」
「うん。僕ね、女に見えるでしょう? けど実は……男なんだ」
ライミは少し戸惑いながらも、スカートの裾をぎゅっと握り意を決したのか口を開いた。
だが、つい先ほどそのことを聞いていたヒロトは当然驚くことなく頷く。
「知ってるよ。さっきレグルスがギルド内で叫んでた」
するとライミは目を泳がせて「えっ、えっ……」と声を漏らしながら疑問を投げかけた。
「……ギルドの人たちの反応は?」
恐る恐るという表現が正しいだろう。
ビクビクとライミは体を震わせてヒロトに問う。
「大半は無反応。けど、その事実を知った途端にライミが出ていったことに拍手してた奴らもいた」
嘘をつくことも出来たが、正直に話した方がいい気がした。
それを聞いたライミはしゅんと頭を下げて俯く。
「そうかぁ……やっぱりそうなんだぁ」
「ライミはなんで冒険者になりたいんだ?」
「可愛い服を着たいから」
「……ん?」
ヒロトは理解が出来ずに首を傾げる。
するとライミは苦笑しながら話をつづけた。
「おかしいよね。でも、本当なんだ。僕は可愛い服を着たくて冒険者になったんだ」
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