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魔物研究者のルーナ②


「……はっ」


 体を起き上がるヒロト。そしてすぐに視界に入ったのは緑髪の悪魔だった。


「おはよーう! お目覚めね!」


「うわぁ」


「そんなにビビらないでよダーリン! 私だって女の子なのよ!」


「お前のどこが女の子なんだ。ただの犯罪者だろうが」


 冷たい目でルーナを睨むヒロト。

 だがその視線に晒されているのに気にもとめずに、ルーナはルンルンとスキップをしてヒロトの周りを回り始めた。


「色んなことが分かったわ!」


 そうしてスキップをしたかと思えば、気が付いたら鼻が触れるまで顔を近づけてくる。

 何かを言うことすら億劫に感じたヒロトは眉をひそめる。


「仕方ないわね! そんなに聞きたいなら教えててあげるわ! まず結論よ! ダーリンは虚物であることは間違いないわ」


 膝を曲げて腰をくねらせるとルーナは声を大にして叫んだ。


「さぁその根拠を教えるわ! ここにダーリンの胸と腹をナイフで切り裂いて中身をスケッチした紙がある!」


 寝ている間に体を切り裂かれていたらしい……その事実に怒る気力も失せたヒロトは流れに身を任せ、ルーナの描いたスケッチを眺める。

 人間の内部構造など知らないヒロトは首を傾げる。

 すると、ルーナは心臓部分に赤い丸をつけた。


「一見すると普通なのだけどね。この心臓よくよく見ると歯の跡があるの分かる?」


 そう言われてみて目を凝らしてみると、歯型がくっきりと心臓にあることに気づいた。


「ど、どういうことだよ。一体誰が俺の体の内部にある心臓に歯を立てられるんだよ」


「君の体が、君の心臓を食べようとしているの。虚物の研究をしてきた身としては初めての経験だけど」


「……意味わからん。なんで、自分で自分の心臓を食べようとしているんだ」


「魂が欲しいのよ。そこまでして、ね」


「魂ぃ……? 自分の心臓を喰って魂が得られるのか?」


「得られないわ。死ぬだけ。全く何の生産性のない、ただの自殺行為よ。けどね、虚物を理解するには理屈で考えてはいけないの。常識が通用しない相手なのだから。さて、次に気になるのが、いつ頃心臓に歯を立てるかよね。君は2時間ほど気絶していたけど、心臓に歯型は増えなかったわ。トリガーがあるはずなの。何か、分かる?」


 少し間があいて、ヒロトは思案して言った。


「異能発現時ーー。ガルフォード家の屋敷で、か?」


「恐らく正解。異能発現時、あなたの心臓は食われるわ。恐らく徐々に歯型が濃くなり、やがてーーあなたの心臓を喰らいつくすわ。その時死ぬのは言うまでもないわよね」


「……ッ」


 ルーナは動揺するヒロトを見て目を細める。

 いつか、心臓の歯形が深くなり殺される。異能を使えば使うほど。けれど、彼は魔法を使えない。絶望でしょうね。

 ルーナがそう思ったとき、ヒロトは言った。


「そうか。じゃあ、何回までなら異能を使える?」


「……へ?」


「いや、何回までなら異能を使えるのかなって。その回数までは死なないんだろう?」


「何を言っているの? もう使わない方が良いに決まっているでしょう? 自分が死ぬってこと分かっているの!?」


「分かってるさ。俺が死ぬだけだ。大したことじゃない」


「……怖くないの?」


「怖くないさ。やせ我慢じゃない」


 ルーナは眉を顰めながら言った。


「私ね。平気で死んでも良いと思う人間を私は理解できないの。死んだら、色んなことを知るチャンスを失うとことじゃない。まだまだこの世には未知が多いのに、そんな状況で故に死ぬのは勿体なさすぎると思うの。全くあなたのことが理解できないわ」


 突如として早口でまくし立てて喋り始めたルーナ。

 ヒロトはベッドから上半身を起こし、近くに置いてあった服を着る。

 

「なんだ、嫌われちまったか? 別に良いが」


 だが、この先に続くルーナの反応は予想外だった。


「いいえっ! ゆえにあなたのことをもっと知りたくなったわ! あぁ! こうしてまたこの世に未知が増えた! 嬉しいわッ!」


 ぴょんぴょんとルーナは飛び上がる。

 全くコイツの生態が理解できない……とヒロトは頭を悩ませた。

 だが同時に考えても無駄だと分かっていた。

 色んな言葉を飲み込んで、自分の欲する情報を引き出すためだけに言葉を使う。


「それで、回数は?」


「あぁ、ごめんね、回数は分からないわ。発動時間もよるでしょうし。代わりと言っては違うけど、発動条件なら予測できるわ。あなたはどう思う?」


「屋敷では電流を流されて、意識を失ったら化け物になってた。つまり……電流か?」


「いいえ、電流じゃなくて意識を失うことがトリガーよ。恐らく、その体の主導権をあなたの魂と、あなたの体の元持ち主が奪い合っているのよ。あなたの意識が飛んで、主導権が元の体の持ち主になったら、虚物化が進んで、異能が使えるようになるってのが仮説」


「なるほど。理に適ってるな。ん、けどそれって俺が自由に異能を使えないってことか?」


「そうなるわね。あなたは意識を失うのだから、あなたがコントロールできる訳ないじゃない。手があるとしたら。体の主導権は元の体の持ち主に渡すけど、あなたが体を動かす……とか?」


「矛盾してる気がする」


「……そうね。やっぱり異能を使わない方向にしたいわ。意識を失わないようにね」


「色々と助かったよ」


 そう言ってヒロトは起き上がると、机の上にあった服を着始める。


「あっ、待ってダーリン。話は終わってないわ。虚教徒(ホロウド)についても話すようにアクシスさんから言われていてね。聞くでしょう?」


 ヒロトは眉をひそめたが、アクシスさんには寝床の提供だけではなくご飯もいただいてる。

 アクシスさんの頼みとなれば断れるわけもない。

 さっさと帰りたかったが、諦めてベッドの上に胡座をかいて座るとルーナに向き合う。


「……話を聞くよ。ホロウドってのはなんだ? 聞いたこともない」


「虚教徒とかいて、ホロウドって呼ぶの。名前の通り、虚物を自分たちの神とするイかれた奴らよ」


「虚物を神……? 虚物は他者を喰らい続けるバケモノだろう? 神でも破壊神寄りだ」


「そうね。けれど破壊神に心打たれる人間もいるって話。今までは頭おかしい奴らとだけだったのだけど、最近妙な噂を聞いててね。虚教徒(ホロウド)の複数人が様々な異能を使い、街を壊滅させたという噂があるの」


「異能を使う人間……ってことか? 俺と同じ人の虚物か?」


「分からないわ。ダーリンのケースは特殊だと思うのよね。そんな個体が複数人現れるとは思えないの。何か特殊な事が起こってる気がするのよ。ちなみに、この虚教徒(ホロウド)の件は機密情報でね。貴族上層部しか知らないことだから口を割らないように」


「分かった」


「物分かり良いわね。流石よダーリン。とにかく虚教徒(ホロウド)に気をつけてね。虚教徒(ホロウド)があなたを知ればどんな行動を取るか分からないの。話は以上よ。本当はもっと色々と体をこねくり回したかったのだけど、アクシスさんに止められてね」


 残念そうに長いため息をつくルーナ。

 ヒロトは心の底からアクシスに感謝をした。

 ヒロトはベットから降りると、一瞬で扉の前に移動をする。

 ルーナは口を尖らせる。


「もうー、ダーリンったら。もう少しゆっくりしていかないの? 粗茶もだすわ」


 そう言ってルーナは床に散らばっていたゴミーー茶葉を集めると、給湯器を沸かし始めた。

 

「あっ、色々とありがとうございました」


 そう言ってヒロトは研究所から逃げ出した。


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