魔物研究者のルーナ
ギルドにて冒険者登録をして、ヒロトはシース家へと戻った。
玄関で靴を脱いでいると、
「あっ! ヒロト! もしかしてもうギルド登録は終わったのか!?」
どうやらついさっき起きたようだ。
ボサボサの髪の状態で慌ただしくロージュが近づいてきた。
後を追うつもりだったのか、服だけは整っている。
「終わったよ、ちょうど」
「無事登録出来たのか? ……む! 頬が腫れてるではないか! なにか騒動があったのだな!?」
「違う。これはロージュにやられた」
「……へ?」
「ロージュにやられた」
キョトンと不思議そうに表情を浮かべるロージュ。
寝ぼけたロージュにやられたと言っても信じてもらえそうにないため、ヒロトは話を逸らす。
「ともかく無事登録は出来た。なんかB級冒険者のレグルスって奴に絡まれたけど。……B級ってそんなに強いのか?」
「平均よりもちょい上の冒険者だ。だが冒険者では新人をいびり自分を強く見せようとする愚か者は多いのだ」
「くだらねぇな」
どんな世界でもプライドだけは高い奴がいるもんだな。
心底吐き捨てるように言う。
「そうだ。ヒロト。実は今日、ヒロトの来客があるのだ」
「…....俺? この世界に来客してくるような奴俺にはいねぇぞ」
「いや、ヒロトにだ。すまない。私としては会わせるつもりなかったのだが、お父様が……」
歯切れ悪そうにロージュは言う。
「もしかして、虚物研究者?」
「う、うむ……。だが一応肩書きは魔法研究者だ。前も言った通り、虚物研究は禁忌だからな。とにかく気を付けてくれとしか」
どこか遠くの方へと視線を向けるロージュ。
早速暗雲が立ち込めてきたんだが。気をつけろって言ったって、何を気をつければいいんだよ。
「あ、そうなのだ。ヒロトの冒険者カードを見たいのだ、貰えたのであろう?」
「あぁ、貰ったよ。けどなんか変でさ」
そう言ってロージュに銀色のカードを渡す。
カードを受け取ったロージュはまじまじと冒険者カードを眺め、首を傾げた。
「……む? ステータスの一部がERRORとなっているな」
「そうなんだよ。なんか冒険者の平均値より低すぎるとERRORってなるみたいだけど」
「いや1ヵ月鍛え続けたヒロトの筋力が低すぎることはないだろう。なぜだろうか」
そんなことを言われても、ヒロトにも分かる訳がなく「さぁ」としか相槌が打てない。
そんな時、突如としてバンと豪快な音と共に玄関が開いた。
「ーーいいえ! 違うわ! 虚物の肉体が常人とは違うから測定できないのよ!」
外から差し込まれる太陽の光を後光にしながら、見たことのない少女が屋敷に入ってくる。
「……え? 誰?」
「ふっふっふっ……。よくぞ聞いてくれたわね。私は世界一の天才、ルーナよ!」
そう言って鼻高々に白衣の少女は叫んだ。
特徴的な膝下まで伸びた美しい黒緑色の髪。だが手入れをしていないのか至る所に枝毛がありあちらこちらに跳ねている。
目の下にはくまがあり、疲れているのか眉毛も垂れ下がっているが、対照的に目は爛々と輝かせている。
「あぁ、あんたがルーナっていうのか。よろしく」
そう言ってヒロトは立ち上がり、ルーナに近づいて手を差し出した。
するとルーナはなぜか大きく体を震わせると後退をはじめた。
「……ってえぇ!!!? お、男が、私に……よろしくですって……!? まさか、あなた……私のことが……す、好きなのね!?」
「は?」
「漫画で見たことあるわ! 手を取り合ってから始まる恋愛! あぁ、そういうことなのね! この興奮は恋愛による動悸! 分かったわ! あなた……私のダーリンでしょ!?」
ルーナという少女の瞳孔がギラギラと開いていく。怖い。
即座にヒロトは答える。
「いや、違うぞ」
「さぁ、ダーリン! あなたの正体を見つけてあげる! 夢の世界へ行きましょう!」
「おいロージュ! なんだコイツは! 話にならねぇぞ!?」
助けを求めるようにロージュの方へ顔を向ける。だが、ロージュも呆れたように手を広げてため息をついた。
「すまない。こうなったルーナの止め方は幼馴染である私も知らない」
グイッと首元を掴まれるヒロト。
有無を言わさずにルーナはヒロトを引きずり、玄関外へ連れ出そうとする。
「おい! 服を引っ張るな! イテテテ! どこに連れていく気だ!」
「私とダーリンの愛の巣よ! 私の研究所に招待してあげる!」
「いらねぇ! ロージュ! 助けt」
だがヒロトの叫び声は玄関が閉じたことにより遮られた。
玄関先で一人取り残されたロージュはポリポリと頬を掻く。
「すまないな、ヒロト。大丈夫だ。よっぽどの事がない限り大丈夫なはず……だ」
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「よく来てくれたわね! さぁ、ここが私との愛の巣よ!」
ルーナは手を大きく広げて歓迎の意を示す。
「ただの誘拐だわ」
そう文句を言いながらヒロトは愛の巣とやらを見渡す。
医療用と思われるベッド、血のついた緑色のシート、地面に転がったチェンソー、ナイフ、紫色の液体が入った注射器……。
「愛の巣っていうか猟奇殺人の現場なんだが……こんなの何に使ってるんだ?」
そう言いながらヒロトは一番近くに転がっていた注射器をつまんでジロジロとのぞき込む。
すると、
「あ、あんまりその注射の先は触らない方がいいわよ。肌に当たった部分が壊死する薬入れてたから」
途端にゾッと背中に悪寒が走り、地面に注射器をぶん投げる。
「例えダーリンのどこが壊死しても私の愛は不変よ!」
「そういう話じゃねぇよ!」
声を荒げるヒロト。
だが既にルーナは話を聞いておらずに既にモソモソと段ボール箱を漁っていた。
……正直嫌な予感しかしない。
そしてルーナはお目当てのものを見つけたのか、「よっこしょ」と何か大きなものを担いだ。
ーーそれは全長1mにも及ぶ巨大な注射器であった。
「それじゃあこれを打つわ」
そう言ってルーナはキラリと光る針をこちらに向けてくる。
一瞬冗談かと思い笑いそうになったが、あまりにルーナの表情が真剣そのものであり、ヒロトの表情がひきつる。
「え、あのルーナさん……? 何を?」
「やだ、ルーナなんて。ハニーって呼んでくれていいわよ」
ちゅっと唇を突き出し、ウィンクするルーナ。
「大丈夫。少し眠くなるだけよ。眠らせないと解剖できないじゃない。虚物の肉体が普通の人間とどう違うのか気になるのよねぇ」
「ははは……俺はいいかなぁ。その量やばそうだし。死ぬだろ」
するとニコリとルーナはほほ笑むと答えた。
「だってどんな注射器が通るか分からないし。大丈夫よ。私は世界一の天才よ。だから大丈夫よ……たぶん」
「おい! 聞こえたぞ本音が!」
「まぁ、いいからいいから。とりあえず寝ましょうねーダーリン!」
ルーナがぽちりと地面のボタンを押すと、ヒロトの足元から突如ニョロニョロと木が生えてきて、全身を拘束し始めた。
「おい離せ! ああああああああああ!」
暴れるヒロト。
だがますます体の締め付けは強くなり、体の可動部が制限されていく。
「いたくなーい、いたくなーい!」
にっこりと微笑みながら近づいてくるルーナ。
「んんん!!!」
最後の叫び声も空しく、腕に巨大な注射器がぶっささった。
このルーナってキャラすごく喋りますね。
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