ギルド登録!
翌日、ヒロトはメイさんに告げられた場所へ腫れた頬を抑えながら向かった。
騒動が起きないように人が少ない早朝が良いと言われ、まだロクに陽も出ておらず薄暗い風景の中、貴族街を抜けて下町へと降りていく。
ちなみにロージュはいない。理由は言わずもがな、こんな早朝にあいつが起きれるわけがない。昨日はヒロトに付いていくと豪語していたが、実際に起こそうとすると……。
~30分前の回想~
長い銀髪を枕にへばりつかせながら、乱れた格好で寝るロージュ。
俺はドアを開けて部屋に入り、ベッドでぐうぐうと寝息を立てるロージュの体を揺らした。
「ロージュ、ロージュ。起きれるか?」
「ううん……」
すると予想外にロージュはすぐに上半身を起こし、ゆっくり体を回転しベッドから足を下ろすと立ち上がった。
「え……?」
衝撃の映像にヒロトは呆然とする。
だってロージュは朝が弱くて有名だから。こんな簡単に起きれるとは思わなかった。
「ロ、ロージュ。お前起きれたのか……!」
謎の感動を噛みしめるヒロト。
そしてその直後、頬にロージュの踵がめり込む。見事な回し蹴りである。
「ウボォッ……」
突然の衝撃に出所不明の声が口から飛び出す。
横からの衝撃に為すすべもなく体は真横に吹っ飛び、壁に衝突。
キラキラと輝く視界の中、目をつぶり鼻から鼻提灯を膨らませているロージュは何事も無かったかのように自分の巣ーーもとい、ベッドの中へと戻っていった。
つまりロージュは寝ている状態で綺麗な回し蹴りをしたのだ。
ーー以上、回想終わり。
ヒリヒリと痛む頬を後頭部を抑えながら、30分ほど前の出来事を思い出す。
毎朝メイさんはあのロージュを相手しているのか……。
そんなことを思いながら歩いていると、どこの店もシャッターが下りいる中、ただ一つ大きな木造建築の建物だけが窓から爛々と光を放っている?
ヒロトは一旦深呼吸をしてはやる心を落ち着かせるとスイングドアを押して建物の中へと入った。
建物の中はギルドということもあり通俗的な見た目であり、木製も丸テーブルと丸椅子が置かれ、その先には受付らしき空間がある。酒場も併設されており、屈強な男たちが酒ジョッキを片手にグビグビと喉を鳴らして酒を飲んでいた。
そんな酔っ払いたちを横目にヒロトは顔を伏せながら受付へ向かう。
「すいません。冒険者登録をしたいのですが」
すると受付嬢がにこやかな笑みを浮かべる。
「はい! 冒険者登録ですね! ではまずこちらにお名前と住所をお書きください。住所がない場合は不定、と書いていただければいいので!」
そう言って女性から紙を受け取る。
本名で書いていいのだろうか。偽勇者であることがバレて冒険者登録拒否とかされなければいいけど……。
そんな不安が頭をよぎり顔が曇った。
「大丈夫ですよ。あなたが何者であろうと冒険者登録を拒否することはありません。ここは強さこそが正義のギルドです」
受付嬢がこっそり小さな声で言う。
「ありがとうございます」
軽くお礼をして記入をする。
住所は……シース家の屋敷で問題ないだろう。
名前の欄にも正直に神崎ヒロトと書き込んだ。
そして紙を受付嬢に返す。
「はい。受け取りました。では、次に適正検査を行います。こちらの水晶体に手をかざしてください。そうすればあなたのパラメータが分かります」
女性はカウンターの上に置かれている水晶体を指さした。
その水晶体は俺が一か月ほど前に王城で手をかざした水晶とは一回り小さく、こじんまりとしている。
「パラメータって、具体的になんの数値が出るんですか?」
「そうですね。MP,STR,DEF,AGI,LUKです。MPは魔力量。STRは筋力量。DEFは耐久値。AGIは俊敏性。LUKは運です」
「運? 運って数値が出来るのか?」
「はい。この人運いいなーって人いるでしょう? 当然数値化できますよ」
……そういうものなのか。
確かに前世でもやけに運が良い人も悪い人もいたけど。ちなみに俺は悪い方である。間違いない。
そんなことを思いながらヒロトは水晶体に手をかざした。
すると、水晶体が一瞬きらりと輝き目の前に半透明の画面が現れる。
その画面にはこう表示されていた。
---------------------------------------------------------
氏名:神崎ヒロト
MP:0
STR:ERROR
DEF:ERROR
AGI:ERROR
LUK:10
----------------------------------------------------------
「え……。なんだこれ」
LUKは表示されている。だが、それ以外のステータスが低いどころではない。ERRRORと表示されている。
「すいません。なんか変な表示が」
「あ、ちょっと確認しますね」
受付嬢が画面に映し出されたステータスに一瞬眉をひそめる。
そして自身の手をかざすと、
---------------------------------------------------------
氏名:ヨリファー・リン
MP:150
STR:65
DEF:50
AGI:60
LUK:130
----------------------------------------------------------
「あれ、正常ですね……もう一度かざして頂いてよろしいですか?」
「はい」
再びヒロトが手をかざすが、相も変わらず映し出されるエラー表示は変わらない。
ますます受付嬢の眉が八の字になる。
「えぇ~~、こんなの初めてです。けど、魔力量と運はステータス化されているんですけどね……」
困ったように画面を見つめる。
すると、後方から笑い声が聞こえた。
「はははは! おい、おい。なんだこのステータスは。こんな男がいるんだな」
声のする方へ振り返ると、そこには図抜けた図体に男っぽく整った顔。
厚めの銀のアーマーを包んだハゲ頭の大男がこちらを見ていた。
「なんだよ。ただエラーが起こっているだけだろ」
「っは! ばぁ~~か! なんも分かってねぇな。たま~にガキが水晶体に手をかざしてエラー表示が出るんだ。値が低すぎるとエラー表示が出るのさ。つまり、何が言いたいか分かるか? お前、雑魚すぎるんだよ」
そう言うと愉快そうに男は笑い声をあげた。
同時にその男と同じテーブルに座っていた他3人も同様に笑い声をあげた。
無視だ。無視。騒動は起こさないってメイさんと約束したんだ。
どれだけ罵倒されようと構わない。
そう思い、何を言おうと表情が変わらないヒロトに苛立ちを感じたのか、男はビールジョッキを持ち立ち上がり手を大きく広げ、わざと周りに聞こえるように大きな声で叫んだ。
「お前が来る場所じゃねぇってことだよ、偽勇者……神崎ヒロトォ!」
すると男の声に反応して酒を飲んでいた騒いでいた他の冒険者たちがピタリを動きを止めて一斉に顔を向ける。
好機に満ちた目が一斉にヒロトに降りかかる。
「え、あれが偽勇者……?」
「うわ、悪人面じゃん」
「王様を殺そうとしたんだっけ?」
「あれ、身長5メートルって聞いてたんだけど」
ざわざわとギルド内が騒がしくなる。
話の節々を聞くにかなり噂に尾ひれがついているようだ。
なんだ王様を殺そうとしたって。
周囲を味方につけたと思ったのか、男は気分よさげに鼻歌を歌い大声で叫んだ。
「冒険者はお前みたいな雑魚がなれる場所じゃねぇんだよ。はぁ、まったく。こんな能無しを自分の屋敷に引き入れるなんて名家シース家も地に堕ちたもんだな」
「……なんだと?」
今まで動かなかったヒロトが眉をピクリと動かすと男を睨む。
俺への悪口は構わない。だが世話になっているシース家への悪口は看過できない。
「なんだ? 怒ったのか? あー怖い怖い」
小馬鹿にするように男は体を震わせる。
「……ここはギルドです! レグルスさん! 関係のない喧嘩は辞めてください」
すると一触即発の二人を遮るように受付嬢が声を荒げる。
「あーはいはい。分かりましたよ、受付嬢さん。あんた可愛いから従ってあげるぜ。あー、偽勇者。お前、今度このB級冒険者のレグルスの視界に入ったら殺すからな。いいか? 俺らのパーティーは全員B級冒険者。つまり上位の強さなのさ。俺たちに怯えとけよーー。ワハハハハ!」
レグルスは鼻で笑いジョッキに残ったビールを意に流し込むと、ふらふらと千鳥足で自身のテーブルへと戻った。
その様子を見て、ヒロトはほっと胸をなでおろした。
……危なかった。
あのまま喧嘩をしてしまうところだった。
「すいません。ヒロト様。こちらの水晶体の不手際のせいで恥を書かせてしまいました」
そう言って受付嬢はペコリと深く頭を下げた。
「い、いえ。問題ないです。ちなみに、冒険者にはなれるんですか……?」
「はい。ご安心を。問題なく冒険者登録は出来ます。このステータスですと、Eランクからのスタートとなってしまいますがよろしいですか?」
「お願いします」
「分かりました。少々お待ちください」
そう言ってバタバタを足音を立てながら受付嬢はカウンターの奥に入っていく。
そして10分後、一枚のカードを女性は差し出してきた。
「こちらがギルドカードとなっており、ヒロト様が冒険者であることを示す証明書です。再発行は出来ないためお気を付けください」
銀色に輝くカード。
左上には氏名。そしてランクが書かれており、右側にはステータスが書かれている。相変わらずエラーと表示されている。
「すいません。結局エラー表示の原因はつかめませんでした。服の上から見た感じですと、鍛えてる様子が伺えますし、エラーが出るような体ではなさそうですが」
「まぁ、いいですよ」
低ランクから始まった方がやる気が出る。どちらにしろ魔力がないのだからEランクからだっただろうし。
「とにかく今日からあなたは冒険者です。良い旅をお迎えください」
そう言って受付嬢は愛想よく笑って送り出してくれた
このギルドの女神だ、あの女性は。
そんなことを思いながらギルドカードをポケットに入れて、建物の外に出た。
結構時間が経っていたのか外には陽が出て空を彩っている。
「よし……。Eランクだけど今日から俺は冒険者だ!」
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