話を終えて
「……それで目が覚めたらこの世界にいて、ロージュと会った」
話を終えて、ヒロトはテーブルに置かれたお茶をすすった。
ちらりと前方のロージュに視線を送る。
「うぐぅ……」
ボロボロと大粒の涙と鼻水を流してロージュは呻く。
嗚咽をこぼしながら、口を開いた。
「そうか。そんな過去があったのか……」
「その時死にながら思ったんだ。シオリのように生きたかったって。だから、この世界で勇者として召喚されたとき嬉しかったんだ。俺も誰かを救えるかもって。けど結局無理だったけどな」
すると、またしても哀愁が漂わせてしまい、慌てて頭をかいて誤魔化す。
「悪い。ははは、なんか湿っぽい話になったな」
「……そうだな。少し体を動かすか。いつも通り剣の練習をしよう」
そう言ってロージュは涙を拭いながら立ち上がった。
恐れながらヒロトは視線を送る。
ここ一ヶ月、何度もロージュから剣の指導を受けているのだが、ロージュの練習には容赦がない。そのため、練習後は体がボロボロになるのだ。
「お手柔らかにお願いします」
「ふふふ……断る」
そう言って、ロージュは涙を流した直後で充血した目のまま微笑んだ。
その赤く滲んだ眼球がより恐怖を与えヒロトの頬を引きつらせた。
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大量に額に流れる汗を拭い、ヒロトはベンチに腰掛ける。
ベンチに木剣を掛けると口を開いた。
「……結局、虚者って言われてもよく分からねぇよ」
ガルフォード家で自分の身に起こった不可解な出来事。
湧き上がる力と高揚感。
気がついたら100kgを優に超えるであろうルーズベルトを片手で軽々と持ち上げていた。
あの時の意識はほとんどない。
「魔王の呪いにより、この世の生き物は魂を持たずに生まれてくることがあるのだ。それを虚者と言う。そして虚者は心臓を喰らおうとするのだ。まるで自分にない魂を補完するかのようにな。当然心臓を喰らったところで魂が得られるわけもないがな」
「魂って……何?」
哲学的な問いになりそうだなと苦笑をしながらヒロトはロージュに訊く。
「ふむ……意志みたいなものだ。自我とも言う。虚物は自我も意志も持たないとうことだ」
「いや、俺はすごい自分の意志で動いているけど」
全うなヒロトの返しに、「ううん」とロージュは唸った。
「そうなのだ。だから、イマイチ分からないのだ。だがヒロトは異能を発現していた。見たことのない水晶を右腕にまとい、髪は白化していた。これは虚物しか持たぬ特徴だ」
「異能」
その言葉を反芻しながら、聞いたことがあるなとヒロトは記憶を掘り返す。
そうだ。ガルフォード家の従者たちが厨房で似たような会話をしていた。
確か『魔法はこの世の物理法則に従って生み出す力。異能は理の外の力』と言っていた気がする。
「う~ん、つまり、俺の存在はイレギュラー?」
ロージュはこくりと頷いた。
「うむ。イレギュラーもイレギュラーだ。お父様に相談したのだが、初めて聞くケースだと嘆いていた」
「虚物の専門家とかいないの?」
ソイツに訊けば良いじゃないかと考えながら言うと、ロージュは渋い表情を浮かべる。
「いない……な」
予想外の回答にヒロトは面を喰らう。
虚物が危険だと言うのなら、対策を取るための専門家がいるのだと思ったが。
ヒロトの疑問を先回りして回答するかのように、ロージュは答えた。
「虚者の研究は世界で禁じられているのだ。虚者自体が危険だからな。触れないものとなってる。魔王の呪いに触れてしまうからだとか。まぁ……秘密裏に研究をしている人なら知ってる。だが、クセが凄いのだ。最悪、ヒロトが殺されるかも知れぬ」
少し口を曲げてロージュは言う。
「ど、どゆこと?」
「知識欲の塊のような人間なのだ。道徳よりも欲を優先する。良くも悪くも純粋なのだ。故に、ヒロトを解剖して最悪殺してしまうかもしれない」
「怖い。サイコパスじゃねぇか。そんなやつと会いたくねぇよ」
「……うむ、そうだな」
ロージュはちらりとヒロトの上半身に視線を送る。
ヒロトは気づいていないが、日に日にヒロトの身体能力が著しく向上している。
毎日、剣の鍛錬の相手をしている私だからこそ感じる変化。
仮にこのままヒロトの肉体が成長していき、異能を制御できるようになったらーー。
「最強だな……」
間違いなく最強の一角に入るだろう。
脅威的な再生能力と身体能力。加えて異能。
だが同時に危険ではないかと思う。ヒロトが暴走した時、一体誰がこの最強の虚物を止められる?
「……考えても無駄だな。私は信じたいように信じようか」
今はただ、ヒロトを信じよう。
ヒロトは暴走などしない。
ロージュは納得をしたように一人でにうんうんと頷くと提案を口にした。
「ヒロト。一つ提案があるのだが。ギルド登録をしないか?」
「ギルド登録……?」
「うむ。つまり、冒険者になると言うことだ。冒険者であればヒロトの身体能力を存分に発揮でき、お金も稼げて、他人の助けにもなって一石三鳥ではないか」
「確かに面白そうだな。けど俺がなれるのか? 偽勇者って世間では悪名高いんだろ?」
「大丈夫だ。冒険者は成らず者でも受け入れるのだ。偽勇者であろうと冒険者になれるぞ」
「そうなのか。冒険者、か……」
少し面白そうだ。
異世界転生してきて一ヶ月以上月日が経つが、この世界のことほとんど知らないし。
冒険者になるのも悪くない。
「それにもしかしたら周囲に認められて、ルーシェタカトみたいに歓声を浴びることになるかも知れぬぞ?」
「……そうだな。よしっ、俺、冒険者になるわ」
「うむ! それがいい! ヒロトなら多くの人を救えるはずなのだ! すぐに明日ギルド登録をしに行こうか。あ、だが一つ忠告をするのだ」
そう言ってロージュは人差し指を立てる。
「特別な力を持つことをバレてはいけないのだ。普通の人として生きてくれ。ましてや異能も発現してはならない。約束出来るか?」
ロージュがそう言って拳を突き出すとヒロトはにやりと笑い、
「了解」
と言って拳をぶつけた。
「……よし、では信じよう。S級冒険者にでもなればクエスト報酬の価格は桁違いになると言われている。最初はランクが低いかも知れぬが、徐々に上げていけば良いさ」
「ちなみにロージュはギルド登録してるの?」
「うむ。過去に行ったぞ。登録して損はないのでな。3年ほど前に登録してCランクだ。何、安心するのだ。ヒロトの身体能力であれば余裕でCランク以上だ。あとちなみに勇者ルーシェはSSS級冒険者となっている」
「えっ、あいつもギルド登録してるの?」
「うむ。といっても勇者パーティーがギルドを通してクエストを受けることはないがな。今は世界中の魔物を倒しつつ魔王討伐に向けて備えているらしい」
ふぅん、とヒロトは生返事をしてゴロリとベンチに横たわる。
そして仰向けになり空を見ながら口を開いた。
「……つーか、なんであいつさっさと魔王倒しにいかねーの? 今日だって奈羅佳に凱旋帰国してたし。なんか理由でもあるのか?」
こくりとロージュは頷く。
「今、ルーシェが挑んだところで負けるだけなのだ。勇者といってもきちんと経験を積んで、様々な魔物を倒して強くならねば負ける」
「魔王に挑むにはレベルが足りないって訳ね」
そんな相槌を打ちってヒロトは立ち上がった。
まぁ、とりあえず明日ギルド登録をしてくるかなぁ。
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