朝
「――ヒロト様、いい加減起きてくださいっ!」
突然、舞い込んできた冷風の衝撃で覚醒し、ヒロトは目を覚ました。
そんなヒロトの顔を覗き込むように、布団を強制的に剥がしたメイドのメイが顔を覗かせる。
「おはようございます、ヒロト様」
「おはようございます……メイさん」
震えた体を抑えながら、ヒロトは立ち上がる。嫌な夢を見ていた気がする。だが、突然の冷風と共に夢の内容も飛んで行ってしまったようだ。
メイさんは容赦がない。一応、ヒロトは客人である。
だがロージュと近い年ということもあり、完全に子供扱いをされている。
「それではお着替えをし、リビングに向かって下さい。私にはまだすることがあるので」
「……わかりました」
メイさんは扉を閉じて部屋から出ていく。
ヒロトは姿見の前で寝癖を確認しながら寝巻きを脱いだ。
「毎日剣の鍛錬してるせいか、結構上半身に筋肉がついてきたな……」
姿見に写った筋肉質な自分に少し酔いしれながら屋敷で用意された白いシャツの上に緑色のコートを羽織り、リビングへ向かう。
リビングの大きな扉を開くと、長机には既にアクシスの姿があった。
「おはよう、ヒロトくん」
「おはようございます!」
今まで会ったことない、紳士な大人であるアクシスに対してどんな態度を取ればいいのか分からず、背筋を伸ばして頭を下げる。
その様子を見て、アクシスが苦笑する。
「ヒロトくん、そこまで畏まらなくていいんだ。普通にしてくれ」
「あ、そうっすか……。いえ、そうですか。えと、いい天気ですね……?」
かつての記憶を頼りにおぼろげな礼儀をふるまう。
突如、外から大雨が窓を打つ音が聞こえた。
しまった。全くいい天気ではなかった。
「はははは! そうだな、いい天気だなぁ」
豪快に嫌味なく笑うアクシス。
少し恥ずかしくなり、いそいそと朝食が置かれた席に腰を下ろす。
そして10分後、髪がボサボサとなり、ゾンビのような死んだ目をしたロージュがメイさんに引きずられながら姿を現した。
パジャマがはだけているため、ヒロトはそっと視線を遠くへ移す。
……この屋敷に来て一ヶ月。分かったことがある。
ロージュは朝に弱い。むちゃくちゃ弱い。
呆れたメイはロージュを持ち上げ、往復ビンタを慣行。
パンパンと高らかな音が鳴り響き、ロージュが目を開いた。
途端、メイは乱暴にロージュを地面に転がし、さっさとリビングから出て行った。
そうして体は地面に転がったまま、眼球だけを動かして視界にヒロトを捉えると、
「……む? ヒロトではないか。なぜ私の部屋にいるのだ?」」
口の端からダボダボと大量の涎を垂らしながら、ロージュが首を傾げる。
ヒロトはこの一ヶ月の間なんども交わしたこのやり取りを、いつも通り嘆息気味に答えた。
「ここはリビングだよ。おはようロージュ」
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ロージュ、ヒロト、アクシス、ユリの4人が食卓につき、朝食とは思えないほどに豪勢な食事をメイさんが運ぶ。
一ヵ月経つがこの高級感あふれる料理には慣れそうもない。
朝食と言えばパンの耳じゃないか。
こんなフレンチトーストにベーコンなど、どこの世界の貴族だっていうんだ。
そう思ったが、よく考えなくても今の現状は異世界の貴族の暮らしである。
そんなことを想いを抱えながらベーコンを口に頬張る。
高いベーコンの歯応えたるもの山のごとし。
なんだこの厚さは。ステーキか。ステーキなのか。
「ワアアアアアアアアア! ルーシェ様ぁ!」
ベーコンと戦っているヒロトの耳に、突然窓の外から大きな歓声が聞こえた。
勇者のルーシェの凱旋だ。
ルーシェが中央道を通る度に、人々は身を乗り出して拍手喝采と歓声が投げかける。
その度にヒロトは顔をしかめる。
勇者ルーシェは確かに顔も整っていてスタイルも良く、見た目は完璧だ。
だが奴隷落ちする俺を馬鹿にしてきたクソ野郎。それが俺の認識。
最後の一枚のベーコンを力一杯嚙みちぎり、ごくりと喉を通すとヒロトはふらふらと歓声で揺れる窓へと向かっていく。
窓から見下ろした街の景色は相変わらすだ。
女性は目をハートにしてルーシェに熱視線を送り、子供は目を輝かせ、男性までもが尊敬の眼差しを向ける。
ルーシェが優雅に馬を揺らして乗るたびに、町中が沸く。
ぐっとヒロトは唇を噛み締めて、その光景を目に焼き尽くす。
あいつは勇者で……ロージュによると俺は虚者らしい。
「あぁ~~、あいつは転生したら勇者だったのに俺は……。不公平だぜ」
そうしてヒロトがため息をついたとき。
「む? ヒロトは勇者になりたいのか?」
「わっ! ビックリした……」
いつの間にやらロージュが隣にいたらしい。全然気が付かなかった。
「いいや、そういうわけじゃない。ただの嫉妬だ」
嫉妬したところで無意味だ。
それでもあの栄光を手にしたいと夢を見るくらいは良いだろう。
哀愁を漂わせていたのか、ロージュが話題を変えた。
「そういえば、ヒロトの過去を聞いておらぬな。シオリ殿との話とか」
「あっ、そうだな。折角だ。ロージュには話しておこうか。シオリの話とかの話を」
そういえばロージュのことは聞いたけど、俺の話をしていなかった。
ヒロトは口を開き、過去を話し始めた。
主人公の過去編、最悪飛ばしてください。
楽しんで書きましたが暗いので




