奴隷編③
夜中、犬の鳴き声に起こされて目を覚ました。
ゆっくりと上半身を起こし、1番の方へ顔を向ける。ぐっすり眠っているようだ。
起こさないように立ち上がり、体についた藁を軽くはたいて落とす。
ここの犬小屋には3匹いる。
名前は、ダイ、ムジナ、センリ。
この犬たちだけは俺たちを奴隷扱いすることなく、なついてくれる。
いや、正しくはムジナだけはイマイチなついてくれない。
一匹だけ……なんというか、少し違うのだ。
犬なのに、犬じゃないというか……。
目を覚ましたついでに、3匹の様子を確認する。
彼らはガラスに囲まれた部屋でゆっくり眠っている。
ダイはこちらにお尻を向けて眠っている。
センリは横倒しになって寝ている。
寝ぼけているのか、足をバタつかせている。
そしてムジナは……。
そしてムジナの部屋を覗くと、すぐに違和感に気づいた。ムジナが部屋にいないのだ。
「へっ!? はぁっ!??」
慌てて施錠を開けて中に入る。いない。部屋のクッションをどかしてもいない。
施錠はしていた。
眠る前に俺がムジナを部屋に入れて施錠したのだ。ムジナが外に出られるわけがない。
急いで探しに行かないと……!
ヒロトは犬小屋を飛び出して、庭へと駆け抜けていく。
そしてすぐに庭の盛り上がった土の上に茶色の動物がいることに気が付いた。
ムジナだ。あぁ、良かった。
ムジナがこちらに気づいて、ハッハッと息をしながらこちらに顔を向けた。
「ムジナ……。良かった」
ムジナの縄を引くと、大人しくムジナはついてきた。
そして引っ張られるままに犬小屋の中に戻った。
とりあえず一安心だが、ムジナはどうやって外に出たんだ?
出られる唯一の扉は鍵が閉まっていた。寝る前にムジナを犬小屋に入れた記憶はあったのだが……。
ちらりとムジナの方に目を向けると、ムジナは顔を上げており目が合う。
ムジナは至って普通の表情を浮かべていた、だが、なぜか……ヒロトは唾を飲んだ。
不気味だと思った。
ムジナが犬の皮をかぶっているだけの化け物のように見えたのは気のせいだろうか。
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5時間後、起床をして朝の掃除をする。
趣味の悪い蛇柄の壺を丁重に拭きながら、ガルフォード家のやつらの同行を気にしていた。
俺はこのクソみたいな環境から抜け出す方法を考えた。
屋敷に火をつけることも考えたが、結局このブレスレットを無力化しなければどうなるか分からない。
このブレスレットにGPSなんてものがついていたら、逃げたところで捕まるだけ。(GPSのような技術があるのかどうかは分からないが)
兎にも角にもブレスレットの無効化が必須。
だから屋敷内を探し、無効化の方法を探るのだ。
俺は掃除しつつ、ガルフォード家党首ダビデの部屋に近づいた。
この部屋の中に入って捜索をしたいが、ダビデは常に懐に部屋の鍵を持って外出しているのだ。
逆に言えば、それほどまでに隠したい何かがあるのだ。
どうにか扉を開ける方法はないかと考えているとき、ドアから「カチャリ」と音がした。
そしてまるで俺を導くかのように、扉が開いた。
「……は?」
唖然。
何が起こったのかわからず立ち尽くす。
なんだ、これは罠か?
これで俺が入ったら捕まって殺されるのか?
そんな懸念が頭をよぎるが、自分に言い聞かせる。行くしかない。
「罠だろうが……こんなチャンスはもうねぇ」
俺はごくりと唾を飲んで、部屋の中へと入った。
中に人はいない。
なぜ開いたのかと一瞬疑問が頭によぎるが、すぐに打ち消す。
俺が部屋に入っているのが誰かに見られたらアウトだ。殺される。
すぐに部屋の中の書斎机の引き出しを漁る。
一番上の引き出しを開ける。
中に入っていたのは貴族の勲章とか宝石。違う。
2番目の引き出しを開ける。
文書が目に入る。
表紙にはブレスレットの絵が書かれている。
ドクン、ドクンと鼓動が早まるのを感じた。
恐る恐るページをめくり、文書を読む。
まずはブレスレットの機能。
一つ、奴隷が反抗的な態度を見せれば高電流が体に流れる。
二つ、奴隷が屋敷から逃げ出した時はブレスレットが爆発をし、奴隷を殺す。
「逃げたら死んでたのか……。危なかった」
そして望んでいたブレスレットの解除方法という項目を見つける。
俺は食い入るようにその項目を凝視した。
『このブレスレットを外す方法は、装着直後30分以内であれば、主人の魔力をこめながらボタンを押せば外すことは可能。以降は絶対に外すことは不可能なため、奴隷に付ければ必ず安心! あなたに逆らわない奴隷の完成です!」
「……」
ヒロトはゆっくりと書類を元の位置に戻すと、その場に腰を下ろした。
そして頭を掻きむしる。
「……ははは、外す手立てなんか無かった。奴隷の拘束器具の外し方なんて、無い方がいいんだ。当たり前か……クソ」
諦めきれずに俺は3つ目の引き出しを開けた。
何に期待すれば良いのかも分からぬまま、引き出しを開けて中の書類を取り出す。
中に入っていたのはよく分からない契約書ばかり。
ため息をつきながらパラパラと目を通すと、ふと一つの紙に目が止まった。
その紙のタイトルは、『暗殺依頼書』。
「なんだか不気味だな……」
興味本位でページをめくる。すると暗殺対象者:マリー・シース(23歳)とロージュ・シース(1歳)と書かれていた。
「一歳のロージュってことは……15年くらい前の暗殺依頼書なのか? マリーって……ロージュのお母さん? ロージュとロージュのお母さんは、ガフフォード家から狙われていた?」
再びページをめくる。
すると、暗殺内容まで丁寧に書いてあった。
『暗殺対象者は⚪︎日、この国を出ると言う情報を入手した。奴が乗る馬車を追い、盗賊のフリをして襲え。あとは虚物に襲われたかのように後処理をしてくれれば良い』
「……なんだこれ」
ガルフォード家はロージュを過去に殺そうとした、とこの紙は示している。
ロージュはこの暗殺依頼書の存在を知らないのではないか? だとすれば、教えなければ。
……俺を裏切ったロージュに?
手が止まる。そうだ、ロージュは俺を裏切った。
そんなやつのために俺が何かする必要があるのか?
「……とりあえず、持っていこう」
暗殺書を懐に入れて、音を立てぬように部屋を出て、逃げるように2階へと行った。
……慌てていたヒロトは部屋の鍵を閉めることを忘れていた。
だが、カチャリと何者かが部屋の鍵を閉めたのだった。




