勇者として異世界転生したけど、嫌な予感がします。
俺、神崎陽翔は突然の光の眩しさに目を細めた。
ーーなんだ、この光は?
目を開くと視界に入ってきたのは巨大なシャンデリアに大理石の天井。
景色すべてに違和感を持ちながら、俺はゆっくりと体を起こした。
「どこだ、ここ?」
痛む頭を抑えながら、疑問を口にする。
周囲を見渡すと自分が囲まれていることに気づいた。
俺を囲う人々は華やかなドレスや丁重な礼服を身に着けており、貴族のような服装だ。
「なぁ、あんたたちは誰ーー」
「成功だ! 予言通りだ!」
「ああ、勇者様! なんて逞しいお体! まさに勇者の生まれ変わりそのものですわ!」
自分の問いを遮るように、周囲の人々は地面が揺れるほどの歓声を上げた。
中には涙を流している人までいる。
「けど、なんで勇者が二人?」
「勇者様はお一人なはず……」
だが、耳を澄ますと喜び以外に少なからず動揺の声も上がっていた。
二人の勇者? 何のこと?
そんな疑問を口にする前に、自分の後ろにもう一人いることに気づいた。
そこにいたのは長い金髪の青年だった。
顔をよく見ると、きめ細やかな肌に丸々した瞳。加えて整った顔の輪郭に高い鼻。
ファンタジー世界のイケメン王子かのような風貌の男がいた。
そして、徐々にヒロトは自分の状況を理解しはじめた。
「ははーん、さては……異世界転生だな?」
頬をニヤリとしながら、俺は言った。
よくある話だ。
世界の危機に陥った人々が勇者を召喚した結果、一人しか現れない勇者が二人現れた。
そして転生者が多かった場合の話の流れは決まってる。
大抵片方が本物で、もう片方が偽物なのだ。
その瞬間にヒロトの頬の笑みは消えた。
ヒロトは後方でずっと黙っている男へ顔を向ける。
……こいつが勇者じゃね? このイケメンで違うことある?
それに対して俺はどうだ。
窓ガラスに映った自分の顔を眺める。
くせ毛の黒髪に、前科でも犯してそうな目元、その他愛嬌とは程遠い顔のパーツの数々。
「……」
早くも暗雲立ち込め始めた異世界転生。
ため息をつきたくなったとき、カシャカシャと金属音が聞こえた。
顔を上げると全身を鎧で覆った人物がこちらに近づいてきていた。
腰には大剣がぶら下がっており、ヒロトに緊張が走った。
すると、鎧の人物は両手を上げて口を開いた。
「……勇者様よ。とまどうのも無理はない。だが、私に敵対意識はない。どうか安心してくれ。私たちは味方だ」
ヒロトはその声に思わず面を喰らった。
鎧の人物から出てきたのが、美しく透き通る女性の声だったからだ。
てっきり男だと思い込んでた。
鎧の人物は続ける。
「すまない。勇者様と会うのだ。兜越しでは、あまりにも不敬であったな。失礼した」
そう言って鎧の人物は兜を脱ぎ、素顔を見せる。
緋色の目に雪景色のような白い肌。
腰あたりまで伸びた銀色の髪はシャンデリアの光を受けて、キラキラと光っているように見えた。
あまりの美しさはヒロトはゴクリと唾を飲んだ。
女性は片膝をつき、頭を下げた。
「私の名前はロージュ。この奈羅佳を守る上級騎士の一人だ。勇者様の従者として支えさせていただく予定だ。あなたたちのお名前を伺ってもいいか?」
「俺様の名はミラン・ルーシェだ。ルーシェと呼んでくれ」
後方にいた男が立ち上がり、初めて声を出した。
こちらの男も透明感のある声で、周囲の人々の誰かが「かっこいい」と嬌声を上げる。
ヒロトも遅れて自己紹介をする。
「俺の名前は神崎ヒロト。ヒロトって呼んでくれ、ロージュさん」
ロージュさんはうんうんと頷く。
「ルーシェ様とヒロト様だな。承知した。まだ分からぬことも多いだろう。順を追って説明をしたい。そうだな……ヒロト様」
「は、はいッ!」
美人に名前を呼ばれる、それだけでヒロトの背筋が伸びて声に張りが出る。
「ヒロト様は私に付いてきてくれ。私からこの世界について説明しよう。ルーシェ様はグリー家の方に説明をお願いする」
すると、ロージュの後方から緑髪の美しい人が現れ、ルーシェという男の手を取る。
ルーシェに触れた時、緑髪の女性は頬を赤らめたのをヒロトは見逃さなかった。
緑髪の女性とルーシェは手を取り合い、部屋の扉から退出した。
「では、私たちも行こうか。ヒロト様、こちらだ」
ロージュさんが背を向けて歩き始める。
ヒロトもその背中を追う。
周囲の視線を受けながら、ロージュさんと共に部屋を出て廊下を進んだ。
「移動中、軽くこの世界について説明をさせてもらおう。よろしいか?」
「は、はい。よろしくお願いします。ロージュさん」
するとロージュさんは形の良い眉をひそめた。
じーっとヒロトを見つめてくる。その目は何かを言いたげだが、その意図が汲めない。
「ふむ……ヒロト様。私にさん付けはいらぬ。そなたは勇者候補の一人なのだ。ロージュで良い」
「わ、わかった。よろしく頼むよロージュ……さん」
敬語を使うなと言われても、思わずさん付けしてしまう。
だって明らかにロージュさんは年上だ。
佇まいも、歩く作法も一つ一つが精錬されていて、どうしても距離感を感じてしまう。
ちなみに俺は16歳。中退。
すると、ロージュさんは軽やかに笑った。
「ふふふっ、個人的に誠実な男は嫌いじゃない。まぁ、無理にとは言わぬさ。では、この世界について軽く説明させていただこう。この世界は今魔王に脅かされている。200年の封印から蘇った魔王が、この世界を征服しようと企んでいるのだ。そしてこの魔王を倒すべく召喚されたのがヒロトだ」
……よくあるRPGの世界だな。
予想通りの世界っぽくて安心する。
「つまり俺は魔王を倒して世界を救うために来たと言うわけか」
その回答にロージュさんは緋色の目を輝かせてうなずいだ。
「その通りだ。だが、予想外のことも起きていてな。勇者は一人のはずなのだが、何かの手違いなのか今回は二人現れたのだ。ルーシェ様かヒロト様か。どちらが勇者なのかはまだ分からないが」
まぁ、俺ではないだろうと心の中で呟きながら、
「どっちか勇者が判断する方法はあるのか?」
ロージュさんは頷く。
「ある。魔力を測る魔道具があるのだ。そこに手をかざし、水晶体が7色に光れば勇者だ。そしてこの後、全世界に勇者の誕生を伝えるお披露目会がある。お披露目会のメインイベントで、勇者がその水晶体に手をかざすのだ」
それを聞いた途端、ヒロトは頭が痛くなる。
未来が見えた。
ルーシェとかいう金髪の男が水晶体に触れた瞬間、水晶体が7色に輝く光景が見えた。
すると、赤い扉の前でロージュさんが足を止める。
ロージュさんがこちらに顔を向けて、扉を開けた。
「立ち話も疲れてしまうだろう。続きは部屋の中で話そう」
よろしくお願いします。とりあえず完結させたい……。