過去編-私だって詳しくは知らない
「微量に含まれていると言えば」と、師匠は思い出した様に言葉を続ける。
「ワインに使われる酸化防止剤・亜硫酸塩は、実はどんなワインにも含まれている」
「え、そうなんですか?」
私は目を丸くした。よく「酸化防止剤(亜硫酸塩)無添加」と記載されている物を見かけるのだが。
師匠は「発酵時に副産物として出来るんだ」とグラスに口を付けた。
「だから"無添加"と表示は出来るが、"含有していない"とは言えないんだ」
出来る事は出来るのだが、金やら手間がかかってる為、行わないのが普通である。
「それより、荒天は今後が問題だな」
既に出荷された物の回収、そして暴露者への補償など、荒天はこれから大変な事になるだろう。だが、そこまで面倒を見る義理はない。
師匠は上機嫌で「これで暫くは面倒事は押し付けられないだろう」と言った。そしてついでの様に
「ちゃんとレポート書けよ」
と、私に釘を刺した。私は「うっ」と嘆く。
「今回、お前の知識不足が目立ったからな。ちゃんと調べるんだぞ」
そう言うと、師匠は高笑いを上げたのだった。
ナギを寝かしつけると、部屋を出た。
「やぁミラ、帰ってきていたのか」
「……気配を消すな、常盤」
背後から常盤が現れる。足を止めたナギの師匠ーーーミランダは振り返り、睨み付けた。
「まさか君が、子供好きなんて思いもしなかったよ」
「巫山戯ろ。私は仕事をしているだけだ」
それにしては、ナギに肩入れしすぎていると思うけど?と常盤は肩を竦める。そんな常盤を無視して、ミランダは歩を進めた。
その後ろをついてくる常盤。
「あの子、一体何者なのさ?」
「私だって詳しくは知らない」
ウッソだぁと茶化す常盤。
「だって絶対に、出会い頭に覗いているだろう?」
「……」
常盤の言葉を否定出来ないミランダ。『出会い頭に』『覗いた』事を否定しない。
小さくため息を吐くと、呟いた。
「女神は言ったーーー全てに復讐するのなら、と」
ナギも無知な時はあったのです。
裏話:ナギが「せんせい」と呼ぶのは前から決めていたのですが、漢字を「師匠」ではなく「先生」にしていた事を忘れていて、投稿後に気付きました…。
次は小噺です。




