過去編-名産品でも飲むか
ーーー何故、総帥はナギを特別扱いするのか?
将来の幹部候補として、すでに何人か英才教育を施している。ナギもその内の一人、と言うのは理解出来るが、ナギについてはあまりに実践的な事が多いのだ。
すでに四大元素を扱えると判明しているーーー全能者である風見でさえ、教育係の自分が任務に行く時は「まだ危険だから」と連れて行かない。
しかしナギはまだアルカナに来てから三年しか経っていない、と言うより二年前からすでに任務に同行しているのだ。
更に付け加えるならば、それは全て総帥の指示である。
「じゃ、行ってくるよ」
と、特に気にする事なく二人は常盤達を別れたのだった。
私は開けた車窓から、顔を覗かせて景色を眺めた。そんなにスピードが出ていないからか、入ってくる風はそこまで強くない。
今、私は師匠と疾風の国にいた。
「ナギ、これから行く所の予習だ」
そう言った師匠に振り返り、私は座り直す。向かいに座る師匠は、肘掛に頬杖をついて欠伸をした。どうやら昨日、遅くまで仕事をしていたらしい。
「まず、私たちがどこに向かっているのか分かっているか?」
「疾風の国の荒天です」
「なら、その荒天の特徴は?」
「果物の産地…だった筈です」
「曖昧過ぎる。不適切。もう少し詳しく答えろ」
と師匠にダメ出しされる。私は「うっ」と詰まった。林檎だったっけ?いや、蜜柑か?違う気がする……。地理は苦手なのである。
師匠は時間切れ、と言って、私の額にデコピンした。
「正解は葡萄だ。更に言うと、ワインが有名」
そう答えつつ、欠伸をした。一体、何時まで起きていたのだろう……。
私の疑問に答える気もなく、師匠は欠伸を噛み殺した。
「そして私達はこれから、荒天の地主に会いに行く」
荒天の地主は、ワイン産業で成功した事業家だ。降水量が少ない荒れた土地だった荒天に、葡萄棚を作って町興しに尽力した人である。かつては人望も厚く、周囲に慕われていたのだが、それは初代の話。今はーーー
「今の当主はかなり狂っているらしい」
親が立派過ぎての重圧による発狂か。
師匠は今度は欠伸ではなく、溜息をついた。
「まぁ、代を追う毎に愚かになっていく話は、よくあるしな」
付け加えるように「そんな奴に話を聞かなきゃいけないなんて」と呟いた。
私達がなぜ荒天に来ているかと言うと、疾風の国から
「出生率の低下、小児の先天性知的障害、また成人で感覚消失を訴える者や通風の発症率が年々増加している」
と言われ、調査を依頼された為である。
そしてーーーかつては名君になるだろうと言われていた現当主が変わってしまった原因も突き止めてこいと言われたのだ。
師匠曰く
「おそらくその二つは繋がっている」
らしいので、原因または解決の糸口を探るべく、地主の屋敷に向かっていた。
屋敷に着くと、当主は聞く耳を持たずに私達を追い払った。師匠は「まぁ、そう上手くいかないか」と首を竦める。
「一番はこっそり当主の頭を覗ければ、簡単なんだけど」
それは倫理的にどうなのでしょうか…と、思うが口には出さない。師匠は「うーん」と少し悩むと、
「取り敢えず、名産品でも飲むか」
と開き直ったのだった。




