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小噺③-過去編ver

 ルカは着の身着のままアルカナに来た為、暫くの間は本部内にある仮眠室で寝泊りしていた。

また、手持ちの金しか持っていなかった事もあり、給金を前借りして必要最低限の生活必需品は購入していた。

そして先日、前借り分の完済。また、部屋を借りるまでの金も用意出来た事から、遂にルカは部屋を借りる事となった。

ちなみに「いざ物件の内見」と言う時、ナギが興味本位でついてきたのだった。


「部屋の中はリノベーションされたばかりで綺麗だけど、不便じゃないか?」


複数ある候補物件の一番最後で、ナギは尋ねてきた。

確かに、この部屋が一番新しく綺麗だが、火炎の国の中央都市・炎威から電車で一時間くらいかかる。

さらに最寄駅からも離れており、交通の便が少々悪い。


「風呂トイレ別、シャワートイレ、室内乾燥機……炎威だったら月8万くらいかな」


ナギは「ここは幾らだっけ?」と聞いたら、俺が答える前に不動産屋が「管理費込みで6万円です」とニッコリ。


「やっぱり交通の便が悪くて、部屋は良いんですがなかなか埋まらないんですよ」


近くに学校でもあれば、学生が借りてくれるんですが、と付け加える。確かに、最寄駅からここまで車で20分くらいかかった。しかもバス停も遠い。

が、そんな事は俺には関係ない。


「ここにします」


そう言って、俺は住処を決めた。


 引越し当日、元々物が少なかった事もあり荷解きは早々に終わった。冷蔵庫や洗濯機と言った家電は元から付いており、大型の買い物と言えばベッドくらいである。


「お疲れ様、片付け終わった?」


と、ナギが夕方過ぎに訪ねてきた。手には引越し祝いを持っている。


「晩ご飯、まだだろう?」


と言って取り出したのは、蕎麦だった。


 ローテーブルでナギと向かい合い、ズズッと冷たい蕎麦を啜る。しっかり咀嚼して飲み込むと、俺は聞いた。


「引越し蕎麦って、近所に配る物じゃないのか?」


「本来はね」


そう言って、ナギはかき揚げに手を付けた。麺汁を染み込ませ、パクリと一口。「桜海老入りにして正解だな」とご満悦だ。


「昔は近所への挨拶の時に配っていたらしい」


「どうして蕎麦なんだ?」


俺は薬味を追加する。少し七味を入れ過ぎたが、まぁ許容範囲だ。

ナギは「うーん…」と少し考えてから答える。


「確か、安価であった事と『近く=(イコール)そばに』引っ越してきたって意味をかけたって聞いた事があるな」


「なら、年越し蕎麦は?」


「それは『蕎麦のように細く長く過ごせるように』って事と、蕎麦は切れやすい事から『今年の苦労や不運を綺麗に切り捨てて、新しい年を迎える』って理由だった筈」


まぁ、切れやすさは繋ぎの配分で変わるんだけどな、と付け加える。

ナギは蕎麦を啜った。(つゆ)が飛ばない様にする為、音は立てない。


「年越し蕎麦なんて地域差があるし、引越し蕎麦は『引越したら食べる』って思っている奴の方が多いんじゃないか?」


「時代によって、意味が変わるって事か」


そう言いながら、俺はとある事を思い出した。

確か『白羽の矢が立つ』と言う意味も、時代によって意味が変わったと聞いた事がある。

今は『抜擢される』と言う意味合いが強い。

だが、本来はーー生贄、人身御供の犠牲者に選ばれる事を指すのだ。


満腹、満腹と、腹を叩かんばかりにナギはまるで自分の家の様に寝転んだ。ラグの手触りが気に入ったのか、サワサワと撫でる。

その触り方に、なんとなく目が奪われた。


「……用がないなら、もう帰れ」


「ひどいなー、ここまで来るの大変だったんだぞ」


ナギの反論に、確かに、と納得する。ここまで来るのは大変だっただろう。連絡してくれれば、迎えに行ったのに。

俺の思った事が分かったのか、ナギはニヤリと笑った。


「ルカが送ってくれるなら、もう少しゆっくりしていってもいいよね」


初めから、そのつもりだっただろう。

と思った時、同時にある考えが浮かぶ。いや、魔が刺したと言ってもいい。


俺はナギの頭側から、そっと近付き顔を覗き込んだ。普段よりかなり近い距離に、「どうした?」とナギは首を傾げる。俺は真剣な顔で


「やらせてくれるなら」


と囁いた。

その瞬間、ナギは目を見開き


「やっぱり結構ですっ!!」


と、俺の顔にぶつからないよう横に転がる様にして、急いで起き上がった。顔を見れば、耳まで赤くなっている。

笑い飛ばされると思っていた俺は、ナギの思わぬ反応に一瞬、思考が停止する。そして


「………冗談だ」


と言って、身を起こす。ナギは荷物をひったくる様に取ると「ばかっ」と喚いた。

そしてナギに急かされ、ナギの家の玄関前に空間を繋げる。


「また明日なっ!!」


と、ナギは怒ってーーーいるよりも、恥ずかしいのを隠そうとしている様に見えたーーーさっさと光輪を通ってしまった。

空間が閉じた後、


「馬鹿な事したなぁ……」


と、俺は呟いたのだった。


 翌日、俺は少し怖い様な、だけど期待する様な気持ちで出勤した。

会社のエントランスで偶然、風見と日向に会う。


「なに、ニヤニヤしてるのよ」


気持ち悪いわね、と風見が顔を顰める。

そうか…?普段と同じだと思うが。しかし日向はピンときたのか、ニヤリと笑った。


「確か昨日、引っ越したんだよな?ナギが泊まりにでも来たか?」


「そんな事あるわけないでしょ」


風見は一笑する。呆れる様に首を横に振った。


「貞操観念は私がちゃんと仕込んであるからね。そう簡単に男の部屋に泊まらないわよ」


「の、割にはナギ(あいつ)、無防備だと思うけど」


日向の言葉に、俺は内心で賛同した。

昨日の様に、まるで自室の様にくつろぐのは頂けない。

あの時、もし俺が何も言わずにそのまま上に乗っていたらどうしたのだろうか?ナギは攻撃魔法は使えない。


ギロリと、風見が俺を睨んだ。


「ナギが悲しむ様な事したら、許さないから」


俺は昨日あった事は、墓まで持っていこうと決意したのだった。

次は本編ーーーですが、明日は更新をお休みさせていただきますm(__)m

また更新ペースを戻します。

→次回更新 9/2 19時

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