真相-私は殺していない
「だが密輸の事がバレた今、パンタシアは氷雪の国から"5年間の入港自粛"を言い渡された」
鵠沼は静かに言った。ナギは「つまり出禁だろう」と嘲笑う。
「密輸だけでも5年間、こっちで貿易するなって言われたんだ。更にアルカナとの人身売買なんてバレたら、世界会議への参加は更に遠のくだろうな」
「それ故の口封じだろう」
そう、だからパンタシアは人身売買を行なっていたアルカナ側ーー取引場所であった烹鮮支部を襲撃し、アルカナ派の社員を始末した。ナギはわざとらしく首を傾げる。
「私から言わせたら、アルカナ派が馬鹿をしたって事だけど、どうするつもりだ?ーー報復する?」
口封じに合う様な下手を打ったアルカナ派がいけないのだが、それでもパンタシアはアルカナに手を出したと言う事実がある。つまり舐められたと言う事。しかしナギは鵠沼がどう答えるか知っていた。
「報復行為などしないーーそれに、お前がそれをさせないだろう?」
そう、そんな事はナギがーーミネルバ派が許さない。
何故ならミネルバ派は、平和的に人権を得ようとしている派閥だから。
人工能力者の製造と言う条件など飲まず、火炎や氷雪などと交渉し国籍を取得しようとしている。
ーー勿論、フルメンを始めとする、アルカナへ友好的な考えを持った人物が他国にいるが故に、出てきた派閥なのだが。
だからこそ、他国から見てマイナスの印象を与える事は出来ない。それをさせない。
今回の人身売買がバレて困るのは、実はナギ達ミネルバ派だったりするのだ。
当然だが、アルカナ派とミネルバ派同士で情報共有などしない。故にミネルバ派は些細な事でも見逃せない。
今回の事も、流氷支部にいたミネルバ派が訝しんでナギ達に連絡した。おかげで大事になる前に対処できたのだった。
「……お前が殺した訳ではないのだな?」
鵠沼は真剣な眼差しを向けた。社員が死んでいた現場には、爪を剥ぐと言った拷問の跡が残っていた。これは情報を聞き出そうとしたと言う事。
パンタシアが、自分達の情報を抹消する為に聞き出そうとしたーーと考えるが、それはミネルバ派も同様だ。
「人身売買の情報を抹消したいのは、お前達もだろう」
だからパンタシアのやった事だと見せ掛けて、殺したのではないか?その問いに
「私は殺していない」
ナギは不敵な笑みを浮かべて、そう言ったのだった。
次回は「裏」です。
ナギも知らない、パンタシア側目線です。




