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解説-嫌な話ね

「烹鮮ーーー大国を治むるは小鮮を()るがごとし」


「どう言う意味だ?」


私の言葉に、流石のルカも知らなかったのか首を傾げた。私は少し得意げに説明する。


「小魚を調理する時は、鱗や(はらわた)を取るような細かい事をしないのと同じように、政治もおおらかにするものだって意味だよ」


烹鮮はかつて、氷雪の国の首都だった。故にアルカナの氷雪支部は以前、烹鮮にあったのだ。

ところが、烹鮮が貿易に力を入れてから、首都が現在の流氷になってしまう。

烹鮮としてはかつて(まつりごと)を行なっていた都市としてのプライドがあり、国ーーーと言うか、流氷ーーーとの折り合いが悪いのである。しかし


「臨時点検です。バラストタンク内を確認させて下さい」


そう言って、烹鮮の役人ではなく氷雪の国から派遣された調査員が、港に停泊する船舶全てに有無を言わさずにバラストタンクの点検を強行していた。私は艶笑を浮かべる。


「烹鮮が氷雪の国の中でそこそこ発言力があったとしても、臨時点検(これ)をしろって命令は拒否出来ない」


次々と行われていく作業を、遠くから見守る五名ーー私は七輪で焼かれた秋刀魚を幸せそうに咀嚼した。

日向は呆れた表情を浮かべ、ルカは黙々と魚を焼き、風見とレイは何か言いたげに私を見る。


この場にいる全員が、おそらく今回の詳細ーー現在の点検作業について聞きたいのだろう。私は一匹分食べ終わると、取り敢えず箸を休めた。


「バラストの役割は知っているか?」


私の質問に、四人中三人が首を横に振る。ただ一人、焼けた秋刀魚を今度は風見の皿に載せながらルカが答えた。


「確か、船の重量を増してバランスを取ったりするための重しだよな」


ルカの説明に他三名は首を傾げたので、私はチラリとルカに目をやる。ルカは私の意図を理解し、渋々ながら追加説明したのだった。


「船はある程度沈めた状態で航海しないと、海上で安定して走る事が出来ないんだよ。船が軽くて水面に浮きすぎると、プロペラやバルバス・バウが水面に出たりして推進効率も大幅にダウンするしな」


バルバス・バウなんて、よく噛まずに言えたな、と変な所で感心する私。ちなみにバルバス・バウとは船首バルブとも言う。まぁ、そんな事はどうでも良くて。

話は戻って、そこで登場するのがバラスト水である。


「水を入れて重さや傾斜を調節するんだ。その水槽をバラストタンク、中に入れる水をバラスト水と言う」


ちなみにバラストタンクの容積は、その船舶全体の約30%を占める。もしかしたら積み込まれていたコンテナよりも、広いかもしれない。


そこまで説明すると、今度は私が引き継いだ。次の説明は、現在の点検作業に関わるからである。


「バラスト水は扱い易さやコスト面から、主に海水を利用するんだ。海水と共にタンクに入った水生生物(微生物)は殆ど輸送中に死滅するが、一部の生き残った生物が到着した港でバラスト水とともに放出される。それにより本来その地域に生息していない"外来種"として生態系を乱したりするなど、環境に悪影響を及ぼしたりするんだ」


そう、だから


()()()()()()()()()()()()()、タンク内の残留生物の検査。()()()()()()()()()()()


今回のような予告なし抜き打ち点検は、実は正当な権利であった。

環境問題は世界規模での問題になっている現在。適正に運航しているか各国でお互いを見張る事は、許可されているのだ。

ちなみにこれが、烹鮮が『臨時点検の命令を拒否出来ない理由』でもある。

環境問題は世界規模の問題であり、密漁者の引き渡しを拒んだように「烹鮮内での事だから」とつっぱねる事が出来ない為だ。


また、パンタシアは特に、氷雪の国の要請を断れない。


理由は、パンタシアはまだ世界会議への参加権を持っていないからである。短期間で国土を広げたパンタシアは、内戦は絶えず、経済的にも不安定。故にまだ加盟が許されていない。


さらに世界会議への参加権を手に入れるには、加盟国の承認が必要である。また、常任理事国から拒否権を使われると加盟出来ないと言う足枷もあった。

そして氷雪の国は、常任理事国の一つ。

これ以上、世界会議への参加権から遠ざかりたくないパンタシアとしては、常任理事国である氷雪の国の要請を蔑ろに出来ない。


「嫌な話ね」


事の流れを理解したレイは、顔を顰めた。


「今回の点検で密輸がバレた場合、パンタシアは船長及び関わった業者に責任を押し付けるつもりだわ。本国は知らない、勝手にやっていただけだと」


船にパンタシアの国旗を掲げているにも関わらず、おそらく氷雪の国はその言い訳を認めるだろう。氷雪の国も、わざわざ争いを起こしたい訳ではないのだから。

密輸さえ止めさせればーーもっと端的に言うならば、自国が損さえしなければ犯人など誰でもいいのだ。

風見は「けど……」と心配そうに首をもたげた。


「ナマコを密漁し売っていたのは烹鮮=(イコール)氷雪の国だと、訴えてはこないのかしら?」


風見の問いに、私は「おそらく大丈夫」とそれとなく答えておいた。


「パンタシアはそんな事しないよーー()()()()()()()


そう呟いたのと同時に、遠くから声がした。調査員の一人が此方に駆けて来る。


「発見しました。ナマコが詰まった袋が大量に」


これで漸く帰れる。私は艶笑を浮かべた。

烹鮮の意味

民を治めること。国政。

老子「治二大国一者、若レ烹二小鮮一」による。「鮮」は魚の意。小魚を料理するときのように、こまごまとした煩瑣なことをせずに国を治めるべきであるということ

出典:三省堂 大辞林

らしいです。


次は真相回です。

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