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過去編-情報共有しろよ!!

 ナギの提案でーーと言うより命令で現在、俺は夜の港に来ていた。磯の匂いが混ざった夜風に、少し寒さを感じて身震いする。

夾竹桃の花が、潮風なんてへっちゃらだとでも言うように咲いていた。


「一体、何を密輸してるんだか」


そう、事前に挙げられた報告には「密輸の可能性有り」だった。しかし肝心の物が何なのか分かっていない。その為、流通ルートも絞れないまま俺とナギが来たのだった。


「私は別の形で探ってみるよ」


と言って、ナギとは別行動である。そう言ったナギの手には、2本目のイカ焼きが握られていた。

……あいつ、俺に任せて食べ歩きする気じゃあるまいな?

「面白そう」と言って付いてきた本当の目的が、もしかしたらそれだったら、と勘繰ってしまう。と、その時だ。

数人の人影が、小型の漁船へと乗り込んでいくのが見えた。俺は急いでその後を追う。

そして何をしていたのかが判明したーーナマコの密漁である。


ナマコーー特に黒いナマコは"海の黒いダイヤ"とも呼ばれ、乾燥させた物は高級食材の一つとされる。

あの後、密漁の現場を抑えた俺はアルカナの本部と流氷支部、そして氷雪の国にそれぞれ連絡した。

ナギにも連絡を取ろうとしたが、繋がらない。どうやら本部からも連絡が取れないらしい。だが、密輸の件はこれでもう片付いたも同然だろう。

俺は「思ったより早く終わって良かった」と安堵した。


ーーまぁ、そんな簡単に事は終わらない訳なのだが。


そう、ナギが消えたのである。


その事実に、当然ながら激怒したのはルカと風見だ。


「何で別行動なんてしたのよ!?」


と、散々風見に(なじ)られ、ようやく解放されたのは説教が始まってから2時間後。

拷問じみた正座から解放され、足の痺れに悶えていた俺に、今度はルカが冷ややかな眼差しを向けてきた。


「もしかして、漁港での食べ歩き目的でついて行ったとでも思ったのか?」


「……」


そうです。一瞬ですが、確かにそう思いました、とは言えない。俺は責任を持って、ナギを連れ帰ると宣言し、再び烹鮮にやって来たのだった。


密漁を通報して翌日の昼間、港を歩いていると、不意にパンタシアの船が目に付いた。何故だろう……と思った時、側に昨日密漁を行なっていた漁船が停まっている事に気が付く。

ちなみに密漁業者の漁船内は、昨日の夜から既に調べられていた。


「そう言うば、まだ密売先は分かっていないんだった」


今回捕まった密漁者たちだが、実は烹鮮の街に雇われていた。ーーつまり、地方行政に雇われていたと言う訳である。

烹鮮の街は氷雪の国の中で、そこそこの発言権を持っていた。その為、国から


「密漁者の身柄を寄越せ」


と言われても、


「烹鮮内で起こった事件なので、こちらで処理します」


と突っぱねているのである。


「ナギが言っていた『面白そう』って、まさかこの事か……?」


となると、ナギは最初から見当が付いていたと言う事になる。密漁物がナマコだと特定出来ていなかったとしても、おそらく烹鮮の街自体が何かしら噛んでいると分かっていたのだ。


情報共有しろよ!!と怒りが湧いて来るが、それは後で言ってやろうと諦めて、俺はとりあえず宿へと向かったのだった。


何故、ナマコの密漁を烹鮮が行なっていたのか?

それこそ、捕獲許可を出しているのは烹鮮の役所である。

と、疑問が湧いて来るが、それは単純に国から「今の水揚げ量以上は乱獲に当たる」と禁止された為である。

しかし烹鮮は街の収入をもっとあげたい。故に密漁と言う手段に出たのだった。


「だけど何処に卸していたのか、未だに分かっていないんだよなぁ」


周辺国である火炎や疾風、大地の国々は関わっていないのは分かっている。では何処に?

そう思って、俺は非常に嫌な考えが浮かんだ。先日言った事である。


『パンタシアとは関わりたくない』


隣に停泊していたのは偶然か?

心底、当たっていて欲しくない考えが浮かぶ。


「ナギの奴、まさかパンタシアに捕まってたりしてないだろうな…?」


そう呟くと同時に、部屋の扉が勢いよく開いた。と言うか、壊された。

オートロック付きのビジネスホテルの扉を軽々と破壊した当人は気にも留めず、ズカズカと入ってくる。そして


「つまり、捕虜になったって事かしら?」


そう問いかける風見は、今までで一番怒りに満ちた目をしていた。

俺は取り繕うように言う。と言うか、弁明する。


「捕虜になっていたとして、なら向こうから何かしらのアクションがあるはずだ!けど現在、パンタシアからアルカナには何も届いていない。

と、言う事はナギがパンタシアに捕まっている可能性は低いと考えられるぞ!」


「ナギの正体がまだバレていないだけかもしれないわよ」


「……あいつはそんなヘマしない」


普通、正体がバレる事をヘマと言うのだが、と内心で突っ込みつつ、目を逸らしながら俺は言葉を濁した。風見は目端を吊り上げて「あんたねぇ」と語彙を強める。


「分かってるの?ナギの能力は戦闘向きではないのよ?」


逃げ専門、その身のこなしは軽業師のようだが、それでも魔法や銃器に敵うはずが無い。風見は拳を握り締め、ナギの無事を祈ったのだった。

情報共有しない奴と働くって、大変ですよね…。

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